ピエロの仮面は剥がれない

寝倉響

文字の大きさ
上 下
29 / 67
Smile of sadness

無知の恐怖

しおりを挟む
『さあもう一回』
 恵比寿の低く響き渡るその言葉が何度も何度も続いた。

☆……メタボリック気味の中年男性のフィギュア。
☆☆……スーパーのエプロンを着用した若い女性のフィギュア。
☆☆……机に向かって漫画を描いている中年男性のフィギュア。
☆……汗まみれで走るスーツを着た男性のフィギュア。
☆☆☆☆……白いスーツを着用した若く整った容姿のフィギュア。
☆☆☆……警察官の制服を着用した若い男性のフィギュア。




 博史の手の上に収まりきらなくなるほどのフィギュアが集まった。しかしどれもレア度の高いものではなかった。恵比寿は博史からそのフィギュアを全て回収すると、地面にばらまいた。そして当然のように踏み潰した。何度も何度も恵比寿の足は振り下ろされた。

『さ!!あと1回ね。あと1回回してもし出なかったら。森君も甦らないし、あなたも死ぬのよ』
 恵比須は仮面の奥で笑っていた。体もその笑いの影響でぷるぷると震えているのがわかった。

 博史は死を目前にし、突然死への恐怖心が出てきた。

「もうやめたい……」

 博史がそうボソッと呟いたその言葉を恵比須は聞き逃さなかった。

『はぁーー!!!!何言ってんだ糞ガキがよぉ!!!!一番レア度が高いの出るまで引くって言ったろーが!!!!』
 恵比寿は突然豹変した。今までのオカマ口調から想像出来ないような口調だった。
 博史はそのあまりにもの豹変ぶりに、恵比寿に対する恐怖心が心を支配してしまった。恵比寿はそんな博史の怯える表情を見て、我に返った。

『ごめんね!!さあラスト1、張り切ってね!!』
 恵比寿の口調がオカマ調に戻っていた。

「……はい」

 博史は涙目になりながら最後の1枚のコインを入れた。そして、最後のガチャガチャを回した。

 コロンッ

 出てきたカプセルはまたも黒いカプセル。その最後の運命のカプセルを開けた。

 出てきたのは野球選手のユニフォームを着用したフィギュアだった。丁度バットをスイングしているような造形をしていた。そしてカプセルの中に入っていた紙を開くと、☆☆☆☆☆と書いてあった。

「やった!!これで森君が生き返る!!」
 博史の目からは涙が溢れ出ていた。それは嬉し涙だった。恵比寿は慌てた様子で博史が出したカプセルを奪い取ると確認した。


『……一番レア度高いのは☆6なのよ?』
 恵比寿はそう呟いた。


「そんな……嘘だ!!」

『嘘じゃねぇんだよガキ!!レア度一番高いのは☆6なんだよ!!わかったか!?☆6が一番高いよなぁ?』

 また、恵比寿は豹変した。植え付けられた恐怖心に対抗する力はまだ10歳の子供にはなかった。博史はその迫力に圧倒されてしまった。

「……はい」

 博史は気づけばそう答えてしまった。博史の額と背中からは大量の汗が流れていた。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

保存された記憶

SF / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

不思議な電話

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...