ピエロの仮面は剥がれない

寝倉響

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Teru=Hanswurst

愛は永遠に……。 ①

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 ヨッフムから準級死神に任命された私はその後ヨッフムの部屋を後にし、55階へと向かった。娯楽階はいつ来ても人で溢れ返っている。私はそんな人混みを歩き回り、美希と舞衣を探して回った。しばらく歩くとフードコートに2人がいるのが見えた。

 先程までの元気がなかった舞衣の顔とは比べ物にならない程、元気な顔をした舞衣に私は安心した。
 それと同時に美希の笑顔は私の心を暖かくし、強く締め付けた。私が君の父親なんだと、美希に伝えることが出来たならどんなに楽になるだろうか。 
 しかしそれは決して行ってはいけない。もしそれを行った場合、私は地獄または無界へと送られ、一生美希に会うことが出来なくなってしまう。

 私はゆっくりと2人の元へ近付くと、美希の隣の席へ腰をかけた。

「あ!!ピエロさん!!もうヨッフムさんとの話は終わったんですか?」

『ああ。終わったよ。それにしてもそれ美味しそうだな』

 美希と舞衣の目の前にはソースとマヨネーズその上に鰹節のかかったたこ焼きが置かれていた。ソースの香ばしい香りが私の鼻を通り抜ける。

「ピエロさん。それ本気で言ってますか?人間界のたこ焼きに比べたら死神界のたこ焼きなんて全然不味いですよ」
 美希は少し拗ねたような顔をして見せた。

「美希。ピエロさんにアーンしてあげたら?食べたそうな顔してるよ」
 舞衣は少し微笑みそう言った。

 美希は舞衣にそう言われると、恥ずかしそうに顔を赤らめながらも長い爪楊枝で残っていたたこ焼きを1つ刺した。そしてそれに手を添えて私の口元へと運んだ。
 私も自分で顔が赤くなるのがわかった。しかし美希の運んでくれたたこ焼きを口を大きく開けて食べた。とても美味しかった。今まで食べたたこ焼きの中で一番だった。

 その後、私は2人が遊び足りないと言うのでゲームコーナーへと向かうと、私のお金でレーシングゲームやUFOキャッチャーなどを楽しんだ。
 娘とこういう風に遊ぶのは何年ぶりだろうか。嬉しい反面、悲しくもあった。
 やがて私は美希と舞衣を連れて娯楽階を降りて最初に来たロビーへとエレベーターで向かった。

 ロビーに戻ると、美希と舞衣を先頭に死神界の出口へと歩いていった。

「今日はとても楽しかったね」
 満面の笑みを浮かべた美希が隣を歩く舞衣に言った。

「うん!!ありがと美希」
 舞衣も美希の笑みに応えるように素敵な笑顔を見せた。

 その後も2人は仲良く雑談をしていた。
 そしてしばらく歩き出口の目の前まで着くと美希と舞衣がこちらを振り返った。

「今日はありがとピエロさん」
 2人はそう言い満面の笑みを私に向けると手を振りそのまま出口へと入っていった。

 白い光へと消える美希に私は無意識に手を伸ばしていた。この行動は美希と一緒に死神界へ訪れる時、毎回のようにしている行動だった。
 もっと一緒に居たい、そんな叶うはずもない甘い考えが私の胸に隠れているせいだろう。
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