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終章
14
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翌日には都市アズルを出発し、都市ネグラ、都市ブラゴーを経由して街道を北へと進む。
数日後、ドワーフの国、レンスター王国の国境へと差しかかった。
関所を通過すると、そこからは山道だ。
レンスター王国の首都は、カンブライ山脈の中腹に位置する巨大な洞窟の中にある。
この都市自体が、巨大な芸術作品と評されてもいるようだ。
首都までは二日程かかる。巨大な橋を渡り、隧道を抜けた。
砦や宿場町で宿を取り、一行は馬車を進めた。
首都オーサが見えてきた。
山間に巨大な市壁が建造されていて、ドラゴンでも通れるような大きさの市門では、ドワーフの衛兵が荷馬車の検査をしていた。
その列に並び、やがて順番が回ってきた。
エルザはここでもレストリア家の紋章を見せた。
すぐに検査は終わり、宮殿の場所を教えられた。
宮殿へと馬車を進める。
町並みはとても綺麗だ。
一般人の家屋に刻まれた彫刻だけでも、芸術作品と言えそうなものだった。
観光気分で街路を通り過ぎ、馬車は洞窟の中へと入る。
魔法の明かりで内部は照らされており、先に進むと石橋が見えた。地面に空いた巨大な割れ目を、この石橋で渡れるようになっていた。
やがて宮殿が見えた。
噂には聞いていたがとても立派な建造物だ。
ここでも門衛に指輪を見せ取り次ぎをお願いした。
三人は別室に案内された。
しばらくそこで待っていると、一人のドワーフがやってきた。他のドワーフよりさらに頑健な印象を与える人物だ。
多分、種族はマウンテン・ドワーフだろうとゾルは思う。
「待たせてすまんな、レイ」
「ああ、大丈夫。そんなに待ってないよ。二人とも、この人は私の仲間で機関のメンバーでもある、リュリックだ」
「初めまして、お二人とも。リュリックです。宮廷では国王補佐官という職務に就いております」
「初めまして、リュリック様。私はゾルと申します」
「皇女のエルザだ」
「お話は聞いていますよ。まずは湯殿で長旅の疲れを落とすとよいでしょう。それからお食事の用意を致します」
「ありがとうございます」
「では、こちらにどうぞ」
と、リュリックは笑みを浮かべ三人を案内した。
大浴場に案内され、汗を流した。
浴場は豪華な内装だった。
天井は高く、大理石や貴重な鉱物が使われており、様々な生き物の彫刻が施された壁面や柱が目に飛び込んだ。
広い浴室、薬湯、泡風呂、数種類のサウナ、綺麗な水風呂、洞窟にいるような雰囲気の風呂、色々と種類がある。
これほどの浴場を、ゾルは見たことがなかった。
ドワーフの王は間違いなく風呂好きだろう。
風呂を出ると用意された衣装に着替え、食堂でドワーフ国の王、ブロット・ロデル王にお目にかかることになる。
広い食卓に着いてしばらく待つと、民族衣装風の室内着を着た王が、笑顔で片手を上げ、陽気な調子で食堂に入ってきた。
席を立って挨拶しようとする三人に、王は言葉をかけた。
「いいからいいから、座ったままでよい」
手振りで三人を止めた。
王は席に着き、料理と酒をどんどん運ぶよう召使いに指示を出した。
「国王陛下、ご壮健で何よりです」
と、レイが挨拶を交わした。
「うむ。まだまだ食欲は衰えん。皆もよくぞ参られた。さあ、まずは乾杯といこうじゃないか」
「はい」
「旅の無事と出会いを祝し、乾杯!」
「「乾杯!」」
と、皆、杯を上げる。
酒好きで知られるドワーフだが、王もかなりの酒豪だった。火酒の入ったグラスを一息に飲み干し、手酌で注ぎ足している。
ゾルはエール、レイ司祭とエルザは果実酒を飲む。
料理は肉類が多い。
王は豪快に手づかみで肉をちぎり、口に運んでいる。
「さあさあ、皆もどんどん食べよ。美味いぞ」
「はい。頂きます」
食い切れるのかというような量の料理が食卓に並んでいる。
腹は減っているので、遠慮なく食べることにした。マナーも気にする必要はないだろう。
味は絶品だった。薬草類や薬味がふんだんに使われている。
体力がつきそうだ。
「エルザ姫よ、そなたの話は余も聞いておるぞ。わずか一年足らずで名声を高め、今度は故郷を探す旅をしているようじゃな?」
エルザは食事の手を止めて王を見て頷く。
「はい」
「余はその話を聞いて胸が熱くなった。なんと立派なことかと。応援しておる。頑張るのじゃぞ」
「ありがとうございます、国王陛下」
と、エルザは微笑みを浮かべ頭を下げた。
ドワーフ王の前では、ぞんざいな言葉を控えるエルザだった。何となく種族的には話しやすいが、無礼があっては皇帝も困るかもしれない。
「うんうん。余からはそれだけじゃ。たくさん食って、英気を養い旅立つがよい」
「はい」
「何か必要な物があれば、余に言うがよいぞ」
「はい」
「困ったことがあれば、いつでもこのオルサラ宮殿に参るがよい」
「はい。陛下のお心遣いに感謝します」
「うむうむ。それからゾル殿、そなたの勇士も聞き及んでいる。できればそなたの黒い剣を拝見したいが、よろしいかな?」
「はい、国王陛下。今、ご覧になりますか?」
「うむ。見せてくれるか」
ゾルはアディフィッドを虚空から取り出した。
それを、召使いに渡した。
召使いもドワーフだ。武器の扱いには慣れている。
召使いはアディフィッドを国王の前にうやうやしい仕草で差し出した。
「ほぉ、材質はブラックアダマンタイトじゃな。うん。ほぉ~。なるほどのぉ。これは実に見事じゃ。我がレンスター王国でもこれほどの品は滅多に見ることはできん」
王は剣に納得している様子だ。
もしかして、見るだけでこの剣が鍛錬された方法や使われた技術が分かるのだろうか。
「私にとっては魂とも言える剣です」
「うむ。まことにそなたが持つに相応しい剣じゃ」
王は召使いを下がらせた。
ゾルは返された剣を再び虚空にしまった。
「益々気に入った。そなたはいい戦士じゃ。うん。二人とも、無事に故郷を見つけ必ずや戻ってくるのだぞ」
「はい。ありがとうございます、国王陛下」
「うむうむ」
三人は食事を摂りながら会話を続けた。
ゾルとエルザは冒険譚などを語りドワーフ王を喜ばせた。
ドワーフ王からはドワーフの建築技術や伝説級の武器や防具などについて話を聞き、実際にいくつかのアイテムを見せてもらった。
ドワーフの様々な技術は謎が多いので二人もこの話には知見を深めた。
いつの間にか夜半まで熱心に会話を続けていた。
この面会を終えたことで、二人はドワーフ王にも公式に機関の一員だと認められたことになった。
リュリックも二人が認められたことで嬉しそうにしていた。
食堂の端の方では、デヴィル・クロウのメルに召使いが餌をやっていた。
メルは酒を飲んで酔っ払っている様子だ。
歓迎を受けた翌日には三人は宮殿を出立した。
ドワーフ王も事情を知っているため無理に三人を引き留めようとはしなかった。
ドワーフの騎士を数名護衛に従え、カンブライ山脈を北に抜ける。
次の目的地は、エルフ国だ。
数日後、ドワーフの国、レンスター王国の国境へと差しかかった。
関所を通過すると、そこからは山道だ。
レンスター王国の首都は、カンブライ山脈の中腹に位置する巨大な洞窟の中にある。
この都市自体が、巨大な芸術作品と評されてもいるようだ。
首都までは二日程かかる。巨大な橋を渡り、隧道を抜けた。
砦や宿場町で宿を取り、一行は馬車を進めた。
首都オーサが見えてきた。
山間に巨大な市壁が建造されていて、ドラゴンでも通れるような大きさの市門では、ドワーフの衛兵が荷馬車の検査をしていた。
その列に並び、やがて順番が回ってきた。
エルザはここでもレストリア家の紋章を見せた。
すぐに検査は終わり、宮殿の場所を教えられた。
宮殿へと馬車を進める。
町並みはとても綺麗だ。
一般人の家屋に刻まれた彫刻だけでも、芸術作品と言えそうなものだった。
観光気分で街路を通り過ぎ、馬車は洞窟の中へと入る。
魔法の明かりで内部は照らされており、先に進むと石橋が見えた。地面に空いた巨大な割れ目を、この石橋で渡れるようになっていた。
やがて宮殿が見えた。
噂には聞いていたがとても立派な建造物だ。
ここでも門衛に指輪を見せ取り次ぎをお願いした。
三人は別室に案内された。
しばらくそこで待っていると、一人のドワーフがやってきた。他のドワーフよりさらに頑健な印象を与える人物だ。
多分、種族はマウンテン・ドワーフだろうとゾルは思う。
「待たせてすまんな、レイ」
「ああ、大丈夫。そんなに待ってないよ。二人とも、この人は私の仲間で機関のメンバーでもある、リュリックだ」
「初めまして、お二人とも。リュリックです。宮廷では国王補佐官という職務に就いております」
「初めまして、リュリック様。私はゾルと申します」
「皇女のエルザだ」
「お話は聞いていますよ。まずは湯殿で長旅の疲れを落とすとよいでしょう。それからお食事の用意を致します」
「ありがとうございます」
「では、こちらにどうぞ」
と、リュリックは笑みを浮かべ三人を案内した。
大浴場に案内され、汗を流した。
浴場は豪華な内装だった。
天井は高く、大理石や貴重な鉱物が使われており、様々な生き物の彫刻が施された壁面や柱が目に飛び込んだ。
広い浴室、薬湯、泡風呂、数種類のサウナ、綺麗な水風呂、洞窟にいるような雰囲気の風呂、色々と種類がある。
これほどの浴場を、ゾルは見たことがなかった。
ドワーフの王は間違いなく風呂好きだろう。
風呂を出ると用意された衣装に着替え、食堂でドワーフ国の王、ブロット・ロデル王にお目にかかることになる。
広い食卓に着いてしばらく待つと、民族衣装風の室内着を着た王が、笑顔で片手を上げ、陽気な調子で食堂に入ってきた。
席を立って挨拶しようとする三人に、王は言葉をかけた。
「いいからいいから、座ったままでよい」
手振りで三人を止めた。
王は席に着き、料理と酒をどんどん運ぶよう召使いに指示を出した。
「国王陛下、ご壮健で何よりです」
と、レイが挨拶を交わした。
「うむ。まだまだ食欲は衰えん。皆もよくぞ参られた。さあ、まずは乾杯といこうじゃないか」
「はい」
「旅の無事と出会いを祝し、乾杯!」
「「乾杯!」」
と、皆、杯を上げる。
酒好きで知られるドワーフだが、王もかなりの酒豪だった。火酒の入ったグラスを一息に飲み干し、手酌で注ぎ足している。
ゾルはエール、レイ司祭とエルザは果実酒を飲む。
料理は肉類が多い。
王は豪快に手づかみで肉をちぎり、口に運んでいる。
「さあさあ、皆もどんどん食べよ。美味いぞ」
「はい。頂きます」
食い切れるのかというような量の料理が食卓に並んでいる。
腹は減っているので、遠慮なく食べることにした。マナーも気にする必要はないだろう。
味は絶品だった。薬草類や薬味がふんだんに使われている。
体力がつきそうだ。
「エルザ姫よ、そなたの話は余も聞いておるぞ。わずか一年足らずで名声を高め、今度は故郷を探す旅をしているようじゃな?」
エルザは食事の手を止めて王を見て頷く。
「はい」
「余はその話を聞いて胸が熱くなった。なんと立派なことかと。応援しておる。頑張るのじゃぞ」
「ありがとうございます、国王陛下」
と、エルザは微笑みを浮かべ頭を下げた。
ドワーフ王の前では、ぞんざいな言葉を控えるエルザだった。何となく種族的には話しやすいが、無礼があっては皇帝も困るかもしれない。
「うんうん。余からはそれだけじゃ。たくさん食って、英気を養い旅立つがよい」
「はい」
「何か必要な物があれば、余に言うがよいぞ」
「はい」
「困ったことがあれば、いつでもこのオルサラ宮殿に参るがよい」
「はい。陛下のお心遣いに感謝します」
「うむうむ。それからゾル殿、そなたの勇士も聞き及んでいる。できればそなたの黒い剣を拝見したいが、よろしいかな?」
「はい、国王陛下。今、ご覧になりますか?」
「うむ。見せてくれるか」
ゾルはアディフィッドを虚空から取り出した。
それを、召使いに渡した。
召使いもドワーフだ。武器の扱いには慣れている。
召使いはアディフィッドを国王の前にうやうやしい仕草で差し出した。
「ほぉ、材質はブラックアダマンタイトじゃな。うん。ほぉ~。なるほどのぉ。これは実に見事じゃ。我がレンスター王国でもこれほどの品は滅多に見ることはできん」
王は剣に納得している様子だ。
もしかして、見るだけでこの剣が鍛錬された方法や使われた技術が分かるのだろうか。
「私にとっては魂とも言える剣です」
「うむ。まことにそなたが持つに相応しい剣じゃ」
王は召使いを下がらせた。
ゾルは返された剣を再び虚空にしまった。
「益々気に入った。そなたはいい戦士じゃ。うん。二人とも、無事に故郷を見つけ必ずや戻ってくるのだぞ」
「はい。ありがとうございます、国王陛下」
「うむうむ」
三人は食事を摂りながら会話を続けた。
ゾルとエルザは冒険譚などを語りドワーフ王を喜ばせた。
ドワーフ王からはドワーフの建築技術や伝説級の武器や防具などについて話を聞き、実際にいくつかのアイテムを見せてもらった。
ドワーフの様々な技術は謎が多いので二人もこの話には知見を深めた。
いつの間にか夜半まで熱心に会話を続けていた。
この面会を終えたことで、二人はドワーフ王にも公式に機関の一員だと認められたことになった。
リュリックも二人が認められたことで嬉しそうにしていた。
食堂の端の方では、デヴィル・クロウのメルに召使いが餌をやっていた。
メルは酒を飲んで酔っ払っている様子だ。
歓迎を受けた翌日には三人は宮殿を出立した。
ドワーフ王も事情を知っているため無理に三人を引き留めようとはしなかった。
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