ユキバナの咲く地へ

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終章

21

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 魔法陣が完成した。
 これでルアドさえいればここに戻ってくることができる。
 念のためルアドにはメザイアから貰ったテレポーテーション・サークルの巻物を一つ渡している。
 これからは離れていてもセンディングの魔法で連絡を取ることもできる。

「ゾル、頼む」

 と、エルザは言う。周囲では皆が見守っている。

「分かった」

 ゾルはポーターバッグからテレポーテーション・サークルの巻物を取り出した。
 魔法が発動し、シガル村に帰還するための魔法陣が床に現れた。
 ゾル、エルザ、ルアドの三人は魔法陣に乗った。

 すぐに見覚えのある場所に転移した。メザイア宅の庭だ。

「あ! エルザさん、ゾルさん、おかえりなさい!」

 と、庭で何か作業をしていたコッソがすぐにこちらに気がつき、声を上げた。

「ああ。お前も生きているようで何よりだ」

 と、エルザはコッソに言葉をかける。
 コッソも財宝が見つかった山に出張していることがあるのだが、この日は戻っていたようだ。

「はい! あの、こちらのお方は?」

「私の親父だ」

「エ、エルザさんのお父様!」

 ハハーっとコッソは膝をつき、頭を地面につけた。
 
「コッソ、レイ様やメザイアたちはいるか?」

 と、ゾルが真顔で聞く。
 コッソは頭を上げた。

「はい! お二人ともお家にいらっしゃいます!」



 メザイアの家に入ると、作業台でレイ司祭がお茶を飲んで待っていた。
 メザイアとエメルもその場にいる。

「おかえり、二人とも」

 優しげな声でレイ司祭は声をかけた。
 無事に帰ってきたのだと二人は感じる。

「ただいま、レイ司祭。こいつが親父のルアドだ」

 エルザはルアドを見て紹介する。
 レイ司祭は立ち上がり、挨拶をした。

「初めまして、ルアド様。私はこのプラヴェール領を治めているレイと申します。どうぞお見知り置き下さい」

 ルアドは優雅に一礼した。

「娘が大変お世話になっております、レイ様。こちらこそよろしくお願い致します」

「エルザの友達のメザイアと申します。お父様、お会いできて光栄に存じますわ」

 と、メザイアも可愛らしくお辞儀した。

「美しい魔女、メザイア。こちらこそお会いできて光栄です。娘がお世話になっております」

 ルアドはこちらにも頭を下げる。

「オレはエメルだ」

「翡翠のように綺麗な魔女、エメル。娘がお世話になっております。以後お見知り置き下さい」

 ルアドは優雅にお辞儀をする。
 とりあえず挨拶を終えた。
 エルザはすぐに話し始めた。

「レイ司祭に無茶なお願いがあるんだけど」

「どんな?」

「私の同族をシガル村に移動させたい。八百人程いる」

「分かった。何とかしよう」

「ありがとう」

 エルザは、まずラピリアンたちを洞窟から避難させるつもりだった。
 もう絶滅寸前にまで数が減っている。
 一刻も早く安全な場所に移した方がいい。

「それから、メザイアに協力してほしいことがある」

「ええ、何でも言って」

「ウルサラ、私の故郷なんだけど、そこに行ってラピリアンたちの移動のためにテレポーテーション・サークルの魔法を使ってほしい」

「分かったわ」

「ありがとう、メザイア」

「いいえ、私もエルザの役に立てて嬉しいわ」

 と、メザイアは微笑む。
 すぐに準備に取りかかった。



 まず、八百人のラピリアンたちの住居を確保する。
 これにはシガル村の旅館を使うことにした。
 旅館はかなり広く、八百人くらいならなんとか収容できる。
 部屋数も足りるだろう。

 レイ司祭からしてみても、八百人のラピリアンたちは大切なお客人だ。皇帝はエルザの国との外交も視野に入れている。
 ぞんざいに扱うわけにはいかない。
 シガル村に家令を呼び、急いで受け入れの準備を始めた。

 ある程度受け入れる用意が整うと、今度はルアドのテレポーテーション・サークルを使いメザイアを連れてウルサラの洞窟に戻った。
 メザイアはここでも簡単に挨拶を済ませた。

「八百人を移動するには、どのくらい時間がかかりそうだ?」

 とゾルがメザイアに聞いた。
 テレポーテーション・サークルの持続時間は十秒にも満たない。メザイアでも日に二回しか使うことができないため、一日十人移動させるとしても、三ヶ月近くかかることになる。
 何か、いい手はないだろうか。

「一度で済ませられるわ」

 と、メザイアはポケットからアイテムを取り出した。

「それは?」

「テレポーテーション・サークルの持続時間を上げるポーションよ。こんなこともあろうかと作っておいたの」

 と、メザイアはクピっとそのポーションを飲んだ。

「凄いな。そんなアイテムまで作れるのか……」

 メザイアの作る物の性能にゾルは驚く。

「ええ。材料があればね。なんでも準備しておくものね」

 そう軽く言って、メザイアは作業に取りかかった。

 神官のミアーサがエルザの話を皆に伝えており、ラピリアンたちの準備はできているようだった。

 しばらくして、メザイアが魔法陣を描き終えた。

 最低限の物を持ち、ラピリアンたちはメザイアの描いたテレポーテーション・サークルの魔法陣に乗っていく。


 一人一人、シガル村の魔法陣から出てきた。
 先頭から順番に、旅館の方へ移動してもらう。
 ラピリアンたちが困らないよう、ツバキが整理して皆を旅館まで案内していた。
 一時間の間に全員転移が終わった。

「ひとまずこれでいい」

 と、洞窟を見回してエルザは言った。
 もう誰もここには残っていない。
 
「ああ」

 ゾルも頷いた。

「……ルアド、どうした?」

 エルザは怪訝な顔をしてルアドに声をかけた。
 ルアドは空になった洞窟で一人涙を流していた。

「いや……なんでもないよ。エルザ、君は良い友達を持ったね」

「メザイアやレイ司祭、ゾルもそうだが、私はみんなに命を救われている。私や他の皆も戦ってきた。今度その話を聞かせてやる」

「うん……」

「行きましょう、ルアドさん」

 と、ゾルはやんわりと声をかけた。

「ああ、すまない」

 三人は魔法陣に乗り、シガル村へと移動した。
 感傷に浸っている時間はなかった。
 エルザは同族のこの状況を見て、益々悪魔に対する怒りを募らせてる。
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