ユキバナの咲く地へ

uncommon

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終章

20

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 ルアドは意外に丈夫なのか、もしかしたら治癒能力があるのかもしれないが、あれだけやられたにも関わらずよろめきながらも立ち上がった。

 ルアドは流血を服の袖で拭き、嬉しそうに口元だけを緩め身体を引きずるようにして洞窟の奥へと歩いて行った。
 多分、エルザの父だけあって、戦闘となれば強いのだろう。耐久力もゾルが思っているよりあるのかもしれない。

 洞窟の奥に設置されたドアを空けて部屋に入ると、そこにはエルザと似た姿をした人たちが大勢いた。

 銀色の髪と白い肌を持つ種族だ。
 だが目には黒目がある。
 耳の形も尖ってはいない。

 パっと見てゾルが思ったのは、エルザはこの種族の母親とエラドリンの父の間に生まれたハーフだろうということだった。
 父親の目と耳、この種族の髪や肌の色がエルザに遺伝している。

「私の同族たち……」

 父親の時には見せなかった表情をエルザは見せた。
 目を潤ませて、感激している様子だ。

「あなたたちは……?」

 と、女性が誰何の声を上げた。

「イリーナだよ。僕の娘が帰ってきたんだ」

 ルアドがそう答えた。
 あれだけ殴られて、怒らせているにも関わらず堂々とエルザを娘だと紹介するルアドだった。
 エルザは冷たく言い放った。

「私の名前はエルザだ。イリーナと呼ぶな」

「ごめんよ。これからは、エルザと呼ぶね」

 ルアドは微笑む。
 女性はまだエルザが何者なのか分からず、戸惑っている様子だ。




 今はエルザとルアドの関係修復は置いておく。
 それよりもやるべきことをまずは済ませた方がいい。

 洞窟の小部屋だが、いくつもあるそうだ。
 内部は生活がしやすいよう整備されていた。至る所に水晶のような透明な石筍せきじゅん鍾乳石しょうにゅうせきがあり、それらが仄かに青く光っている。

 その石を加工して作られたテーブルや椅子などの家具が部屋には設置されている。 
 二人はテーブルに着いた。
 外からやってきた二人を見ようと、エルザの同族たちが集まってきた。
 この人たちの種族名をラピリアンと言うのだと教えられた。
 ゾルはルアドに聞く。

「見たところこの世界には食料になるようなものがないようですが、どうされているのですか?」

「たしかに少ないけれど、ないわけじゃないんだ。洞窟では野菜も育てられているし、まれにウィンターランド・ホエールを狩ることもある」

 雪キャベツや雪ニンジン、雪茸といった物が主な食料らしい。
 ウィンターランド・ホエールは一頭狩れば数ヶ月分の食料になり、また鯨油もかなりの量が採れる。骨や腱も様々な道具の材料になるそうだ。

 ゾルは頷き、言った。

「ここでは何人のラピリアンが暮らしているのですか?」

「おおよそ八百人だよ」

 エルザがルアドを睨み言った。

「それが仲間の全ての数か?」

「……うん」

 エルザは顔をしかめた。

「少な過ぎる」

「多くのラピリアンが戦って死んだ。特にこの三年で大きく数を減らした。全て僕の責任だ。許してほしいとは言わない」

「悪魔との戦いを続けているのか?」

 ルアドは首肯する。

「うん。やめるわけには行かない。イローナと国を取り戻すまでは」

 イローナとはエルザの母親の名前だ。

 ルアドは二十年以上前にこの世界『ウルサラ』へとやっきた。その頃までイローナはラピリアンの女王だった。
 その後、ルアドと結婚してイローナは王位をルアドに譲り渡している。

 沈黙を破り、ゾルは言った。

「申し訳ないが、食料を分けて頂くことはできるだろうか? 犬たちにも餌を与えてやりたい」

「もちろん。ピピ、食料係に伝えて」

「ピィ」

 と、ピピは飛び去っていった。

「あの鳥は使い魔なのか?」

 エルザが視線で鳥を追いながら聞いた。

「うん。ソングスノーバードのピピ。ウルサラにはこの種類の鳥がたくさん生息している」

「ふーん。ソングスノーバードって言うのか」

 エルザはこの鳥を気に入っている様子だ。
 もしかしたら懐かしく感じるのかもしれない。
 ゾルがルアドに言った。

「俺たちはテレポーテーション・サークルの巻物を持っています。いつでも拠点に帰還することができるのですが、再びここに来るためには時間がかかります。何かいい方法はないでしょうか?」

「魔法的な移動手段であれば、僕もテレポーテーション・サークルを使えるから、そちらの術者と連絡を取り合えれば行き来は可能だと思う」

「なるほど」

 エルザが力のこもった視線をルアドに向けて言った。

「今すぐテレポーテーション・サークルの作業に入れ。まずはこことシガル村に移動手段を作る。他の話はそのあとだ」

「うん。分かった、エルザ。その通りにするよ」

 三人は一旦、各々の作業を終わらせることにした。
 話を聞いていたラピリアンたちは、不思議そうに三人の話す様を見つめていた。


 エルザはセンディングの巻物でレイ司祭と連絡を取った。
 レイ司祭は故郷と仲間を見つけられたことを、まずは言祝ことほいだ。
 二人と別れたあと、レイ司祭はプラヴェール領に戻っていた。二人が帰還するまで待機しているつもりだったのだという。

 センディングのやり取りで、事情を簡単にではあるが説明した。

 エルザはルアドを連れてシガル村に帰還するつもりでいる。
 まずはレイ司祭と皆で話をしたいといったことを伝えていた。

 ルアドがテレポーテーション・サークルの魔法陣を描いている間、二人はラピリアンの神官と話をした。
 白い祭祀服のようなものを着た女性で、他のラピリアンよりも歳を取っているように見える。名前をミアーサと言った。

「イリーナ様、おいたわしゅうございました」

 ミアーサはうやうやしく頭を下げた。

「気にするな、全ては悪魔共が悪い。あとエルザと呼んでほしい。ややこしいから」

「仰せのままに、エルザ様」

「色々と教えてもらいたいことがある。ルアドより、ミアーサの方が信頼できそうだからな」

「なんなりとお聞き下さい」

 エルザはミアーサに色々と話を聞いた。
 一番知りたかったのは、なぜ、悪魔がウルサラに攻めて来たのかだった。

 理由は古代神と関係しているのだとミアーサは説明した。
 このウルサラは古代神によって創られ、古代神が眠る墓所であるというのだ。
 ラピリアンたちは、その墓所を守る役目を負った種族なのだと言う。
 ここで人知れず、静かに古代神の眠りを安らかにする祈りを捧げることがラピリアンたちの宿命だった。

 この古代神の話について、ゾルにも聞きたいことがあったがそれはあとにすることにした。

 悪魔たちはこの墓所にあるある物を手に入れるために攻めてきた。
 それはウルサラ唯一の都市ウルにある、クリスタル宮殿の地下に眠っている。

 記憶の海、アガペーと呼ばれる存在だ。

 魔王子バラドナは、アガペーを利用することで古代神の力を我が物にしようとした。

 都市ウルは落とされ、同族たちは大勢殺された。
 占拠されたウルは悪魔たちの住処に変わり果ててしまっている。

 バラドナがウルで何をしているのか、詳しいことは分からない。
 生き残ったラピリアンたちはルアドを先頭に何度も悪魔たちに戦いを挑んだ。

 だが都市ウルを取り戻すことはできていない。

「ルアドじゃ……無理だろ。弱すぎる」

「エルザ様のご父君ふくんであらせられます。決して、お力が弱いなどということはございません」

「そうなのか?」

「ルアド様は、ウルサラにやってこられた時にはすでに最上級の戦士であらせられました。イローナ様とのご結婚を経てデミゴッドへと昇格なされたのでございます」

「……あいつ、あれで神なのか。でもデミゴッドになれたのはラピリアンたちのお陰なんだろ?」

「私共は、古代神への祈りと同じようにルアド様を崇め奉っておりまする」

 エルザはいたたまれない表情を見せた。

「あんな親父ですまない、ミアーサ」

「はは」

 と、ミアーサはエルザの言葉を受け止めた。

 ミアーサはラピリアンのまとめ役でもある。
 エルザは自分の外での身分のことや、これからのことをミアーサに話し、皆にも伝えておいてほしいと頼んだ。
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