敬愛していた殿下に笑ってぶち殺されましたが、未だに敬愛が捨てきれないので皇帝となった陛下をそっと見守りたいと思います!※そっと見守れるとは言

スイカの種

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第六章

第45話【現在】訓練、あるいはアリアナ様ガチ勢

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 ここ数日、陛下に”拉致”されていない。
 え、平和だ……!!
 私はつかの間の自由を謳歌していた。
 学校帰りに友達と一緒に寄り道したり、休みの日にはウィルお兄様とリアムお兄様と観劇に出かけたりと大変充実していた。
 観たのはアリアナ関連の観劇――帝都では、どれもこれも恋愛ものになっていた。

 大抵がエリオット皇子とアリアナの悲恋を描いたものだった。
 一番ひどかったのは「アリアナは三人の皇子たちを手玉に取っており、嫉妬したエリオット皇子が兄皇子たちをぶっ殺し、最終的にはアリアナも殺した」というドロドロの愛憎劇だった。
 原因と結果が違う!!
 しかも五分に一回は濃厚なラブシーンが挟まる。本当に勘弁してほしい。パヴェル殿下とアリアナのキスシーンなんて、歴史的事実としても心情的にも絶対に存在しません。
 笑いを堪えるのに必死で観劇どころじゃなかった。コメディものとして見れば、まあ見れたよ。うん。

 逆に、面白かったのが「エリオット皇子」と「血の守護騎士」が参加したあの夜会についての解釈だ。
 最後に退出する際にアリアナは『味はともかく、印象に残ったワインでした。……報奨としては十分』と言った。
 私としては、あのときの「毒入りワイン」を報奨として受け取ったつもりだった。
 エリオット皇子に差し出されたそれを、うっかり自分に出されたと“勘違いした”という体で飲んだのに――なぜか後世では「報奨=皇子」って解釈が主流になっていた。どうしてそうなる。
「報奨」発言の後に殿下の腰を抱いたのが勘違いの原因だったらしい。
 違う。あの時の私は、(毒でふらふらしてたから)支えが欲しかっただけ。

 その前にダンスした時に「私を見て」と言ったのも良くなかったらしい。
 どうも後世では「よそ見をするな、私だけ見ていろ」という独占欲を滲ませた言葉として受け取られたのだとか。
 違う、「敵を見て嫌な気持ちになるなら私を見てて」って言ったのが、言葉足らずだっただけ。
 でもこれは私も悪かった気がする。ぐぬぬ。
 こうして歴史は修正されていくのか、と当事者としてはなんとも生暖かい気持ちになった。

 コルデー領で演じられていたのは「剣と魔法の冒険もの」「血の守護騎士の英雄譚」のどちらかで恋愛要素はわずかだった。
 だが、あれはお父様が私の教育に良いものだけ受け入れていたのかもしれない。
 コルデー領の健全な観劇を思い出すだけで、涙が出そうになる。
 次にお父様に会う時はいっぱい感謝しよう。

 恋愛ものがこれだけ帝都で流行っているのは、エミリアの影響が大きいと思っている。
 あの手紙全部燃えてくれないかな。いや、でもあれ貴重な遺品って言ってたしな……。
 まさかの自分が出した手紙が黒歴史化されているとは思わなかった。

 授業合間の休み時間、校舎の窓から中庭を見渡す。……べつに、”誰か”を探してるわけじゃない。ただの気分転換だ。
 遠くのほうで黒いマントが揺れていた。不機嫌そうな、黒いオーラを纏っている。
 その後ろをベンジャミンと思わしきモジャモジャが小走りしている。
 何回かこうやって見かけては居たけれど、いつだって忙しそうだった。
 暇な学生の私は、窓枠に行儀悪く肘をついた。
 そういえば、ユリスお兄様もここ数日帰ってきていない。
 宮廷で何かあったのかな?と思いつつも、きままな学生である私に出来ることはなにもない。

 ***

 魔力、というのは使うことで増える。特に十三歳から十六歳が一番増える時期らしく、それ以降は使わないと魔力量が減っていく一方だ。
 この時期にどれくらいの時間、へとへとになるまで訓練を積めるかで生涯のトータル魔力使用可能量が変わってくると言っても過言ではない。
“ふぅん、才能のない人は大変ね。”
 ……なんて、前世にコスト型という才能の「あった」私は思うのだ。
 なお、今生では才能に恵まれなかった私は大人しく訓練を受けていた。

『安全に』使い切る練習をするために、貴族学校では校舎に泊まり込み指導を受ける機会が存在する。
 訓練中は「魔力量を増やす方法は訓練以外存在しない」と教師たちからしつこいほど指導があった。
 ……やっぱり、「盗まれる」って噂は本当なのかな。

 私の隣にたまたま座った生徒が血液操作を得意とする少年だった。
 一般学校の三年生で卒業後は騎士を目指しているのだとか。
 隣に隣接する一般学校の生徒も設備の整った貴族学校の宿舎に泊まり、合同で訓練するのだ。
 決められた訓練時間はあるが、それ以外に個人で訓練を積んでもいいし、終わったら休んでも良い。ノルマが終わってしまえば気楽なものだった。

「アリアナ様は本当にすごい……! 血液操作をしながら温度操作で雪を水にして、自分の血液と混ぜて身体強化までかけているなんて! それに、“たった一滴でも私の血が入ったらそれは私である”という『かくあるべし』の発想も……!」
 どうやらこの少年はアリアナのことを「様」付けで呼ぶほど心酔しているらしい。アリアナについて語る時は目がキラキラしていた。
 アリアナの影響がでかすぎる。私は「ですよねー」と言いながら内心大いに照れていた。

 少年は、自身に課す「偏向術式」に悩んでいるようだった。
「今のままだと戦闘では使えないんだ。アリアナ様みたいに自由自在に魔法を使うには、強烈な偏向術式をかける必要があって……。でもそれは『実現可能』で『強力な縛り』でないといけない」

 肩を落とす少年に「分かる」と、思わず頷きそうになった。
 血液操作はアリアナの命を燃やして魔力を得る体質、ガチガチに縛った偏向術式、加えて「一滴でも私の血が混じったらそれは私」という傲慢な狂気で成立していたものだ。
 普通の「制限型の魔法使い」がやるものじゃない。
 私もかつての人生では一年かけてじっくりと最大限の火力が出せる偏向術式の成立を吟味したのだ。

 特にアリアナの場合は偏向術式で『殿下の命令以外では絶対に使わない』としたのが大きい。
 国の中でもトップクラスに偉い人の命令、それも心から敬愛している人、というのが偏った縛りとして私の中で成立していた。そうでなければもっと早死していた。
 今、この国には皇子に当たる人はいない。
 そしてこの少年(年上だけど)にはアリアナが殿下を敬愛していたような、そういう対象はいないようだ。しいてあげればアリアナと陛下だろうか。

 私は、彼の「『血液操作』以外使わない」という単純で馬鹿な縛りにしないところに好感をもった。
 ただかさぶたを作るだけ、血の礫を作るだけ、血の剣を作るだけ――それらは代用可能なものだ。包帯を巻けば良い、石を投げる、剣を常備する。
 アリアナの血液操作の凄さは、「自分の身体があればどこでもそれらを作り出せるところ」であり、強さを裏付けていたのは、実はその裏で様々な魔法による強化を行っていたからだ。

 そのあたりを分かってくれていたので、元血液操作使いとして先輩面しながらアドバイスしてしまった。

「血液操作って、戦闘時にしか使わないので――偏向術式で”命の危機を感じた時は出力が上がる”とか」

 例として上げた条件は、前世で偏向術式を選んでいる時にアリアナがボツにしたものだった。
 ボツにした理由としては、それ以上に強烈な『殿下の命令以外では使わない』という条件を思いついたからにほかならない。
 アレが思い浮かばなかったら採用されていただろうから、相当強烈な縛りになると思う。

「出力が上がる?」
「魔力消費量が半減する、と言い換えても良いですね。その代わり、日常で使う時は魔力消費が倍になる、みたいな。その分、日常の魔法を使うのがやや大変になりますが」
「すごい……! ……いや、ほんとに、すごい発想だと思う!」

 少年が尊敬に満ちた目でこちらを見ている。
 当然だ、一年かけて私が考えた――その中で二番目に良い案だもの。心のなかでふふんと胸を張った。
 モーリスも『鑑定魔法』以外使わないという極端な縛りを設けているけれど、普通に日常生活を送れているし、問題はないはずだ。
 訓練終了の時間になったが、少年はまだ話したそうにもぞもぞとしていた。
 だけど、「お貴族様にそんなこと言って良いのかな」と顔が言っている。

「よければ、休憩した後、個人訓練を一緒にしませんか?」
「ぜひっ!!!!」

 抑えようとしていた声が、思わず高くなった。そんな様子だった。
 咳払いでごまかす仕草が、ちょっとだけおかしくて、笑ってしまった。
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