敬愛していた殿下に笑ってぶち殺されましたが、未だに敬愛が捨てきれないので皇帝となった陛下をそっと見守りたいと思います!※そっと見守れるとは言

スイカの種

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第六章

第51話【現在】切り札、あるいは秘密の共有者

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「アンタ、陛下のことなんとも思ってないの?」
「十三歳が陛下にマジ惚れしてたら逆に危ないですって」

 次の日、私はモーリスによって保健室に連れ込まれた。
 さあ恋バナよ!と言わんばかりに、部屋に入るやいなやペンとメモも渡された。

「陛下のこと、初恋って言ってたのにぃ」
「初恋『でした』……もう終わってます。あ、でも……」

 そんな会話をしながらも、手元では筆談を行う。陛下がかけた盗聴魔法は、未だに残っている。
 アリアナだとバレることは言葉に出せない。

『”皇女役”をこなしていた殿下、あれに惚れない人っていると思います?』
 今でも思い出す。
 生まれつきの「皇女」であるかのように振る舞い、完璧に女性パートのダンスをこなす殿下。
 パーティの終わりに妖精のような美しさで月を背負っていた、思わず息を飲むような立ち姿。
 紙に並んだ文字を見たモーリスが「うわあ、そっちかあ」って顔をしていた。解せぬ。

「……ちゅーくらいはしても良かったのにな、とはちょっとだけ思いました」
 私の一言に、モーリスが固まった。
「“ご就寝前のいちゃつき”ではちゅーはしなかったと、なるほど……」
「いちゃついてません」
「まあ、確かにあの皇帝陛下、余裕無さそうだったものねぇ。ちゅーする前に歯があたって大惨事になりそう」
 そう言ってモーリスは面白そうにクスクスと笑った。

『陛下、今の会話聞いてたらちゅーを迫ってくるわよ』
 皇女役、の下にモーリスが神経質そうな文字を並べる。
『周りが許さないですよ』
『周りがどう言ってようと関係ないでしょ。皇帝陛下なんだから。それが許される立場なのよ。過去に十歳を妃にした皇帝だっているんだから本当に気をつけなさいよ』
『アリアナとして生きた十八年間、プラスでアナスタシアに転生して三年間。私の精神年齢は実質二十一歳。でも肉体年齢は十三歳っていう差異があって……周りの反応と、自分の内面の違いに、困惑してる』

 私が精神年齢通りの二十一歳だったらきっと問題にならなかった。
 お兄様がちょっと怒るくらいかな。
 私は、陛下は「一線は越えない」と信じていた。
 だから、「ちゅー」くらいまでだったら妥協しようかな、と思っていたのだ。
 アナスタシアの身体だから、一線を越えそうになったら。
 そのときは、たとえ”どんな手段を使ってでも”、止めようと思っていた。
 私は陛下を確実に止められる切り札を持っている。
 だから、陛下の部屋に連れ込まれてもそんなに怖くはなかったのだ。
 だけど――扉の外で心配そうに見守る人たちの顔を見て、ローアが怖い思いをしてまで必死に私を助けようとしてくれたことを知って、考えが変わった。
 十三歳が、ここまで度胸を付けちゃだめなのだ。
 たぶん、「ちゅー」してたら騎士たちが部屋に突撃されていたと思う。
 そうしたら眠気と疲労で襲撃だと勘違いしていた陛下が暴走して……想像したら身震いした。あやうく血の粛清第二弾が起こるところだったのかもしれない。

『もうさ、陛下に言っちゃえば?アリアナってこと』
 モーリスが私の書いた文字の下に続けて書いた。

 アリアナってことを言う……かあ……。

 そんな風に考え始めたとたん――脳内でほわんほわんとアナスタシア劇場が開催される。
 お人形のアナスタシアと陛下が見つめ合っている。
『私、実はアリアナなんです!』
『ああ、だと思ってたよ……!アリアナ!』
『陛下!』
 二人は見つめ合い……。
『じゃあ悪いけど死んでね』ザク―っ!
『ぎゃー!』

 ――アナスタシア劇場、終幕。
 ……笑い話のようだけど、私にはこのくらいの展開が冗談にならない。
 私にとっては前世のトラウマ『笑って殺された』のはこれくらい急だった。
 この内容が現実になるとして、絶対なにか理由があるとは分かってる。
 でも、理由のあるなしと、「死が急に訪れる」というのは別の話だと思っている。

 アナスタシアと陛下でも、ある程度の関係性は構築できている。
 ならわざわざアリアナであることを告げるメリットがあまり思い浮かばない。
 私の自己満足くらいかな。

 会話がずいぶん長いこと空いてしまった。慌てて適当な話題を探す。
「『コスト型の魔法使いでもないのに血液操作を選ぶ変態』について語られている姿を見てなお、陛下を好きでいるのは難しいかなと」
 陛下いわく、――『コスト型でも無いのに血液操作を選ぶやつなんて変態しかいない』らしい。
 いくら適性があったとしても、健全な少年が選ぶ魔法じゃない。
 ああいうタイプは、毎朝“今日も傷つきたい”って思いながら目覚めてそうだよね。君もそう思うでしょ?――と同意を求められて返答に困った話をした。
「それを好きでいるのは無理ね……」
 聞いたモーリスも呆れていた。
 朝一でこれらを聞かされ続けた元血液操作使いの私を理解してくれる人がいて安心した。

『それに私、こうやってモーリスと筆談するの結構好きだよ』
 紙をモーリスの鼻先に突きつけた。  
 モーリスは、小さく笑って、まつ毛を伏せた。  
『そうね。それじゃ、もうちょっとだけ、秘密の共犯者でいましょうか』

 二人で、一枚の紙を暖炉に放り込んで燃やした。証拠隠滅、完了である!
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