敬愛していた殿下に笑ってぶち殺されましたが、未だに敬愛が捨てきれないので皇帝となった陛下をそっと見守りたいと思います!※そっと見守れるとは言

スイカの種

文字の大きさ
11 / 65
第二章

第11話【過去】変わった少女と、変わらぬ思い

しおりを挟む
 アリアナは、十三歳になるまでは第三騎士団預かりとした。これはエリオットの独断だ。
 彼女の素性は兄たちには伏せたままにしている。騎士団所属が正式に決まるまでは、余計な手が伸びないように。
 今日はアリアナに数日ぶりに会う日だ。ベンジャミンを引き連れていた時に、ちょうどアリアナを見かけた。
 騎士団服に身を包み、肩には見習いであることを示すオレンジ色のワッペンが揺れている。
 彼女の身体に合うサイズはないのか、騎士団服はサイズが合わなくてぶかぶかだ。だが、それでも前に会った時に着ていた色褪せたワンピースよりずっと彼女に似合っている。
 ぼさぼさだった茶色の髪の毛は丁寧に梳かれ、後頭部で一本に結ばれていた。誰に教わったのか、あるいは自分で練習したのか――とにかくその姿には、以前にはなかった清潔感があった。
 小柄なのは変わらないけど、ここ数日栄養たっぷりのご飯を食べているおかげか、以前に会った時よりも健康的になった。
 少なくとも「いますぐご飯いっぱい食べさせなきゃ……!」という使命感が胸から湧き上がることはない。
 このまま騎士団で生活を続けていれば、健康的な見た目になるだろう。

 彼女がエリオットを見つけた瞬間、ぱっと表情が明るくなった。
 だがすぐに顔を引き締め、無言でくるりと身体を向けて、びしっと敬礼を決める。
 背筋を伸ばし、指先までぴんと伸びたその姿は、数日前の少女――エリオットのことを”おうじさま”と呼んだあの――とは別人のようだった。

「ご苦労様」
 エリオットが声をかければ、アリアナはへへ、と笑った。
「お疲れ様です、殿下!」
 喋り方も変わっている。自信なさげで、どもって、どこか手探りで喋っていた彼女とは別人だった。
“自分の意見を淀みなく喋れるようになること”という、エリオットの出した課題を彼女はこなしたらしい。
 モーリスから進捗報告は受けていたが、元来は内面で色々と考えている聡明な子どもなのだ。
 考えを口に出すこと、偉い人の前での喋り方が分からないから、色々と考えた結果うまく喋れなかった、というだけで。

「おうじさま、って呼び方でもいいのに」
 エリオットがからかうようにそう言えば、アリアナの色白の頬が赤く染まった。
『おうじさま、……私は、うけいれてもらえなかったら国外に、にげるよ。』
 数日前の会話ではエリオットのことを「おうじさま」と呼んでいたが、この数日でモーリスから「殿下」という敬称を教えてもらったらしい。
「……殿下、いじわるです」
 そう言うアリアナの頬は耳まで真っ赤に染まっていた。

 遅れてやってきたモーリスが敬礼のあと、アリアナの頭に手をぽんとのせて言った。
「アリアナ、殿下たちに練習成果を見せてやりなさい」
「はい! ――モーリスは帝国で一番きれいでかわいくて当代一の鑑定師です!」
 はきはきと言いきったアリアナの横で、モーリスがふふんと鼻を鳴らす。

 そして、
「モーリス!!!!  貴様は何を余計なことを教えてるんだ!!」
 隣でベンジャミンの激怒が響いた。

 ***

 必要なことのみ教えれば良いんだ、必要なことのみ、とぶつぶつと呟くベンジャミンを無視して四人は会議室へと入った。
 この間と同じく、エリオットとベンジャミン、モーリスとアリアナの順で座る。
 前回と違うのは、机の上にはお菓子がないことくらいだ。

「さて、教えなければいけないことはたくさんある。魔法のこと、この国のこと、騎士団のこと……それらを話す前に一つだけ明らかにしておきたいことがある」

 どう切り出すべきか、言葉を考える。

「君の、のぞみはなんだい?」
「私の、のぞみ、です?」
 こてん、とアリアナが首をかしげる。

「最初は傭兵になりたいと言っていたね。傭兵になって、家から出る以外に何を成したかった?お金をいっぱい稼いで家族を見返したいとか、国外で評価されたい、……自分の魔法で人を殺したいとか、それでもいい」

 ひとつ、ひとつ。
 指折り数える。

「それ次第で、僕が勧めたい騎士団の所属が変わる。君ののぞみを叶えられるように、僕も力を尽くそう」

 うーん、とアリアナの視線が空をさまよう。

「特に何もなかったかな。家から出たい、それだけだったかな?」
「ああ、いえ――。ひとつ、あります」

 少しの静寂。
 彼女はエリオットを見た。栗色の目が、エリオットを射抜く。
 アリアナの表情は真剣そのもので、どこか諦念を含んでいた。
 まるで、初めて出会った頃に戻ってしまったように。

「殿下、私はね、死にたいんですよ」

 ……暖炉の薪が、ぱち、と静かに爆ぜた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

処理中です...