12 / 65
第三章
第12話【現在】失敗、あるいは再会
しおりを挟む
『貴族学校へ入学する』と決意を決めた私は、――入学初日から保健室に居た。
大変不本意な気持ちである。
ことは数分前に遡る。
両脇を兄二人に囲まれて貴族学校の門をくぐった私はワクワクしていた。
前世では家庭の事情で貴族学校に入学することは無かったし、生まれ変わってから初めて殿下に会えるチャンスだったので。
「僕達は教室に行くけど、新入生はこのままホールに直行するようにだって」
「ホールはこのまま真っ直ぐ行けばつくから、アナスタシアでも迷わないよ」
「心配しなくても大丈夫です」
そう言って兄二人に別れを告げた数秒後、私の顔面にはボールがめり込んでいた。
(1秒前には気づいていたって!!! 身体が動かなかっただけで!!)
どうやら在校生がボール遊びをしていて、暴発した球が私にちょうどぶつかったらしい。
顔は痛いし、鼻血は出るしで最悪だ。
ウィルお兄様は私にボールをぶつけた悪ガキにお仕置きをしに、リアムお兄様は校医を呼びに行ってくれたらしい。
……入学式、黒髪姿の殿下を見たかった。ほんとーに、見たかった。
悔しくて仕方ない。おもに自分の運動神経の悪さが憎い。
私の入学式、終わった。
開始前に。
別にね、今後学園生活を送っていれば殿下を見かけることはあるとは思う。
だけど、男の人の演説姿ってやっぱり特別だから、どうしてもみたかった。
新入生たちに「君たちの活躍を期待する」とか言ってたりしたら……その一言だけで学年首席取れるくらい頑張れるし舞いあがれる。舞い上がりたかったー!!
はあ、と重い溜息を吐き出す。思った以上に落ち込んだ。
午前中は入学式、午後は学科ごとのクラス分けに必要となる試験がある。
そこで首席を取ったら殿下の記憶に残れるだろうか。
いや、殿下に気づかれることはまだ避けたほうが良い。
殿下がアリアナをどう思っていたか、結局まだ分かっていないのだ。
それに、試験は体力、魔法、学力の三つが実施されるけれど、私の場合、学力以外はほぼ最低ランク。つまり、首席を取れる見込みはほぼ無い。
学力に関しては前世の知識があるだけだから、チートみたいなもんだ。自分の実力ではないから誇れない。
ぼたぼたと鼻血が止まらない。血液操作の発動を試してみるが、だめだ。
相変わらず身体の中で魔力がぷすぷすとくすぶっているような感じで、発火される気配が一切ない。
夢の中では自由自在に使えてたからもしかしたら……と思ったけれど、そんなに甘くは無いみたい。
試験しないでも分かる、これ、魔法のクラスは一番下だな。
そんな無駄な抵抗を試していると、扉が開く音がした。
乱暴な開け方にどこか懐かしさを感じる。
瞬間、私は息をハッと飲んだ。
「アンタ?入学初日に怪我したのって。不運だったわね」
くすんだ金髪。圧のある美人顔に似合わないガタイの良さと声の低さ。
違うことと言えばいまは騎士服を着ていない。シャツの上に白衣を着ている。
時間が六年経っても、モーリスは“モーリス”だった。
(か、かわってない……!!相変わらず綺麗……!!)
軽く引いたアイシャドウも、口紅も――。
モーリス!と呼びたかった。抱きつきたかった。口紅の色変えた?相変わらず綺麗だね、って言いたかった。
だけど必死に我慢した。
いまの私はアナスタシアであって、アリアナではないから。
机の上に大量のお菓子がないのが、ここに殿下とベンジャミンが居ないのが不思議なくらいだった。
騎士団をやめて校医をやってるんだ。それとも殿下の意向なのかな。
モーリスはテキパキと手当の準備をする。
どれだけの怪我か分からなかったから、救急キットを持ってきてくれていたみたいだ。
冷たいタオルが顔に当てられる。ひんやりとした感覚が、皮膚の表面から染み渡ってくる。
血が固まりかけている部分を拭いてくれる手つきは、とても優しい。
骨が折れてないかとか、鼻血以外の怪我がないかを真剣に確認してくれていた。
すみれ色の瞳でじっくりと見られるのは、モーリスに鑑定された時のことを思い出してなんだか落ち着かない。
「ありがと、ございます」
鼻が塞がってて喋り辛い。ふご、と変な声が出てしまって恥ずかしい。
タオルで拭う手が、ほんのわずかに震えた。
見上げてみれば、すみれ色の瞳が驚愕に見開かれている。
「……アリアナ?」
大変不本意な気持ちである。
ことは数分前に遡る。
両脇を兄二人に囲まれて貴族学校の門をくぐった私はワクワクしていた。
前世では家庭の事情で貴族学校に入学することは無かったし、生まれ変わってから初めて殿下に会えるチャンスだったので。
「僕達は教室に行くけど、新入生はこのままホールに直行するようにだって」
「ホールはこのまま真っ直ぐ行けばつくから、アナスタシアでも迷わないよ」
「心配しなくても大丈夫です」
そう言って兄二人に別れを告げた数秒後、私の顔面にはボールがめり込んでいた。
(1秒前には気づいていたって!!! 身体が動かなかっただけで!!)
どうやら在校生がボール遊びをしていて、暴発した球が私にちょうどぶつかったらしい。
顔は痛いし、鼻血は出るしで最悪だ。
ウィルお兄様は私にボールをぶつけた悪ガキにお仕置きをしに、リアムお兄様は校医を呼びに行ってくれたらしい。
……入学式、黒髪姿の殿下を見たかった。ほんとーに、見たかった。
悔しくて仕方ない。おもに自分の運動神経の悪さが憎い。
私の入学式、終わった。
開始前に。
別にね、今後学園生活を送っていれば殿下を見かけることはあるとは思う。
だけど、男の人の演説姿ってやっぱり特別だから、どうしてもみたかった。
新入生たちに「君たちの活躍を期待する」とか言ってたりしたら……その一言だけで学年首席取れるくらい頑張れるし舞いあがれる。舞い上がりたかったー!!
はあ、と重い溜息を吐き出す。思った以上に落ち込んだ。
午前中は入学式、午後は学科ごとのクラス分けに必要となる試験がある。
そこで首席を取ったら殿下の記憶に残れるだろうか。
いや、殿下に気づかれることはまだ避けたほうが良い。
殿下がアリアナをどう思っていたか、結局まだ分かっていないのだ。
それに、試験は体力、魔法、学力の三つが実施されるけれど、私の場合、学力以外はほぼ最低ランク。つまり、首席を取れる見込みはほぼ無い。
学力に関しては前世の知識があるだけだから、チートみたいなもんだ。自分の実力ではないから誇れない。
ぼたぼたと鼻血が止まらない。血液操作の発動を試してみるが、だめだ。
相変わらず身体の中で魔力がぷすぷすとくすぶっているような感じで、発火される気配が一切ない。
夢の中では自由自在に使えてたからもしかしたら……と思ったけれど、そんなに甘くは無いみたい。
試験しないでも分かる、これ、魔法のクラスは一番下だな。
そんな無駄な抵抗を試していると、扉が開く音がした。
乱暴な開け方にどこか懐かしさを感じる。
瞬間、私は息をハッと飲んだ。
「アンタ?入学初日に怪我したのって。不運だったわね」
くすんだ金髪。圧のある美人顔に似合わないガタイの良さと声の低さ。
違うことと言えばいまは騎士服を着ていない。シャツの上に白衣を着ている。
時間が六年経っても、モーリスは“モーリス”だった。
(か、かわってない……!!相変わらず綺麗……!!)
軽く引いたアイシャドウも、口紅も――。
モーリス!と呼びたかった。抱きつきたかった。口紅の色変えた?相変わらず綺麗だね、って言いたかった。
だけど必死に我慢した。
いまの私はアナスタシアであって、アリアナではないから。
机の上に大量のお菓子がないのが、ここに殿下とベンジャミンが居ないのが不思議なくらいだった。
騎士団をやめて校医をやってるんだ。それとも殿下の意向なのかな。
モーリスはテキパキと手当の準備をする。
どれだけの怪我か分からなかったから、救急キットを持ってきてくれていたみたいだ。
冷たいタオルが顔に当てられる。ひんやりとした感覚が、皮膚の表面から染み渡ってくる。
血が固まりかけている部分を拭いてくれる手つきは、とても優しい。
骨が折れてないかとか、鼻血以外の怪我がないかを真剣に確認してくれていた。
すみれ色の瞳でじっくりと見られるのは、モーリスに鑑定された時のことを思い出してなんだか落ち着かない。
「ありがと、ございます」
鼻が塞がってて喋り辛い。ふご、と変な声が出てしまって恥ずかしい。
タオルで拭う手が、ほんのわずかに震えた。
見上げてみれば、すみれ色の瞳が驚愕に見開かれている。
「……アリアナ?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
コンバット
サクラ近衛将監
ファンタジー
藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。
ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。
忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。
担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。
その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。
その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。
かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。
この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。
しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。
この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。
一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる