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第一話
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人気のない夜道をただ我武者羅に走る。
(はぁ……はぁ……)
体力も限界を迎えていたのか、急に脚が動かなくなってしまって転ぶ。
「いっ、たぁ……」
膝からは血が出ている。しかし今は絆創膏は持っていない。
(まぁいいや、今家に戻るよりかはマシだ)
立ち上がろうとしたその時、僕に手が差し伸べられた。
「!?」
声には出さなかったけれど、僕は物凄く驚いた。
ここ、どこだ?
「大丈夫ですか」
僕に手を差し伸べてくれた男の人はにっこりと笑いながらそう言った。
「あ、はい……」
「そうですか。では、何故貴方みたいな人が夜道を歩いているのでしょう」
「?……」
貴方みたいな、とは何だろう。答えられずに戸惑ってしまう。
「すみません、聞き方が悪かったですね。……何故幼い貴方がこのような夜道を歩いているのですか。何かあったら親御さんが心配されますよ」
初対面の人に色々な事情を言うのは気が引けたが、ここで何かを言っておかないと親の元に連れ戻されそうだ。
「ごめんなさい、僕は親と喧嘩をして家を出てきたんです」
「……そうでしたか。今は帰るところもないでしょう、しばらく私の家に来ますか?」
男の人は僕の手にそっと触れて微笑む。
「……そうできるなら」
「そうですか。なら、行きましょうか」
»†«
その男の人の家はそこから遠くない位置にあった。
男の人に促され、家の中に入る。
「……そういえば、ここはどこなんですか?」
ふと、と言うより前から疑問に思っていたことを口にする。
「ここ? そうですね……。貴方からの視線で言ったら異世界でしょうか」
「……そうなんですね」
僕、これからどうすればいいんだろう……。
「でも安心してください。貴方が帰れるのを俺が手伝いますから」
「あ、ありがとうございます」
小さく笑うと笑い返してくれた。
「……あ、あの、そういえば名前は何ていうんですか?」
「じゃあ俺の質問に全部答えてくれたらね」
(何か口調が一気に変わったな……)
「……最初の質問は?」
「そうだね……。親と喧嘩して家出してきたって言ってたけど何で喧嘩をしたの?」
一番答えたくない質問だった。
その人は僕の顔を見るなり意地悪そうに笑った。
「さぁ、答えて」
恥ずかしいけれど答えるしかない。
「……僕は物覚えが悪いんです。だから直ぐに色々と忘れてしまって…、」
「そう」
それだけ言うと僕の側に座り、僕の頭を撫でた。
「……何の真似ですか?」
「ううん、俺もそうだったから」
その優しい顔からは全く想像がつかないが、その真剣さを見る限りそうだったのだろう。
「……質問は、他にはありますか?」
「うーん、そうだなぁ……」
顎に手を当てて考えている。
(今考えるんじゃなくてさっき考えて欲しかったなぁ、まぁ別に気にしないけど)
そんなことをのんびりと考えていると、急に顔を近付けて唇を重ねた。
(!?)
「な、何ですか急に……」
「君は俺のこと、好き?」
その人は僕を抱っこしてベッドにそっと寝かせると頬にキスをした。
「な、何でそんなこと……」
「質問、答えて?」
僕は驚きの気持ちを抑え、考える。
(どうなんだろう……僕は)
ぐるぐると僕を渦巻く感情を一つ一つ見ていく。
「……どう?」
「……、好き、かもしれません」
僕は誘惑に負けて、そっとキスをする。
「ん、いい子」
満足そうにニッコリと笑う。
「で、これで質問は終わりなんですか」
「うん、そうだよ」
「なら、僕の問いにも答えて下さい」
その人はそっと瞼を閉じ、
「フィセ・クラリアス」
と、一言。
「何て読んだらいいですか? フィセさん? クラリアスさん??」
「それは好きにしていいよ。君の自由だ」
「じゃあ、フィセさんって呼ばせて貰いますね」
ニコリと微笑みかけるとフィセさんも優しく微笑んだ。
»†«
気が付くと、公園のベンチで寝ていた。
「ん……。あれ、フィセさんは……」
ゆっくりと体を起こすとパサリと何かが落ちた。目を凝らし、それを拾う。
「『困ったらまた来い』……?」
字が汚い、且つ周りが暗いせいでよく読めないが行くための方法が書いてあるのだろう。
「フフッ、……」
明日行こうと思う度、何だか明日が楽しみになった。
(はぁ……はぁ……)
体力も限界を迎えていたのか、急に脚が動かなくなってしまって転ぶ。
「いっ、たぁ……」
膝からは血が出ている。しかし今は絆創膏は持っていない。
(まぁいいや、今家に戻るよりかはマシだ)
立ち上がろうとしたその時、僕に手が差し伸べられた。
「!?」
声には出さなかったけれど、僕は物凄く驚いた。
ここ、どこだ?
「大丈夫ですか」
僕に手を差し伸べてくれた男の人はにっこりと笑いながらそう言った。
「あ、はい……」
「そうですか。では、何故貴方みたいな人が夜道を歩いているのでしょう」
「?……」
貴方みたいな、とは何だろう。答えられずに戸惑ってしまう。
「すみません、聞き方が悪かったですね。……何故幼い貴方がこのような夜道を歩いているのですか。何かあったら親御さんが心配されますよ」
初対面の人に色々な事情を言うのは気が引けたが、ここで何かを言っておかないと親の元に連れ戻されそうだ。
「ごめんなさい、僕は親と喧嘩をして家を出てきたんです」
「……そうでしたか。今は帰るところもないでしょう、しばらく私の家に来ますか?」
男の人は僕の手にそっと触れて微笑む。
「……そうできるなら」
「そうですか。なら、行きましょうか」
»†«
その男の人の家はそこから遠くない位置にあった。
男の人に促され、家の中に入る。
「……そういえば、ここはどこなんですか?」
ふと、と言うより前から疑問に思っていたことを口にする。
「ここ? そうですね……。貴方からの視線で言ったら異世界でしょうか」
「……そうなんですね」
僕、これからどうすればいいんだろう……。
「でも安心してください。貴方が帰れるのを俺が手伝いますから」
「あ、ありがとうございます」
小さく笑うと笑い返してくれた。
「……あ、あの、そういえば名前は何ていうんですか?」
「じゃあ俺の質問に全部答えてくれたらね」
(何か口調が一気に変わったな……)
「……最初の質問は?」
「そうだね……。親と喧嘩して家出してきたって言ってたけど何で喧嘩をしたの?」
一番答えたくない質問だった。
その人は僕の顔を見るなり意地悪そうに笑った。
「さぁ、答えて」
恥ずかしいけれど答えるしかない。
「……僕は物覚えが悪いんです。だから直ぐに色々と忘れてしまって…、」
「そう」
それだけ言うと僕の側に座り、僕の頭を撫でた。
「……何の真似ですか?」
「ううん、俺もそうだったから」
その優しい顔からは全く想像がつかないが、その真剣さを見る限りそうだったのだろう。
「……質問は、他にはありますか?」
「うーん、そうだなぁ……」
顎に手を当てて考えている。
(今考えるんじゃなくてさっき考えて欲しかったなぁ、まぁ別に気にしないけど)
そんなことをのんびりと考えていると、急に顔を近付けて唇を重ねた。
(!?)
「な、何ですか急に……」
「君は俺のこと、好き?」
その人は僕を抱っこしてベッドにそっと寝かせると頬にキスをした。
「な、何でそんなこと……」
「質問、答えて?」
僕は驚きの気持ちを抑え、考える。
(どうなんだろう……僕は)
ぐるぐると僕を渦巻く感情を一つ一つ見ていく。
「……どう?」
「……、好き、かもしれません」
僕は誘惑に負けて、そっとキスをする。
「ん、いい子」
満足そうにニッコリと笑う。
「で、これで質問は終わりなんですか」
「うん、そうだよ」
「なら、僕の問いにも答えて下さい」
その人はそっと瞼を閉じ、
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と、一言。
「何て読んだらいいですか? フィセさん? クラリアスさん??」
「それは好きにしていいよ。君の自由だ」
「じゃあ、フィセさんって呼ばせて貰いますね」
ニコリと微笑みかけるとフィセさんも優しく微笑んだ。
»†«
気が付くと、公園のベンチで寝ていた。
「ん……。あれ、フィセさんは……」
ゆっくりと体を起こすとパサリと何かが落ちた。目を凝らし、それを拾う。
「『困ったらまた来い』……?」
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明日行こうと思う度、何だか明日が楽しみになった。
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