辺境暮らしの付与術士

黄舞

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第1章

第2話(改稿9/17)

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 もうもうと灰色の煙が至る所から噴き出している。
 ごつごつと鋭角な形をした岩肌はまるで刃物のようだ。

 活火山として知られるオッド山脈は、鼻につく毒ガスが立ち込めていて、所々には溶岩だまりができている。
 そんな死の山の中腹にタイラントドラゴンは鎮座していた。

 爬虫類独特の目で、眼下の先にあるコリカ公国の首都オスローを睨みつけている。
 どれだけそうしていただろう。タイラントドラゴンはおもむろに体を押し上げ翼を拡げると、天に向かって咆哮した。

 しばらくもしないうちにどこからともなくワイアームやワイバーンなどの亜竜達が、おびただしい数現れた。
 それを見たタイラントドラゴンは目を細め、再び咆哮した。



 サラとソフィはクエスト受けると直ぐに出発の準備を始めた。
 二人が拠点としている冒険都市セレンディアから、コリカ公国の首都オスロー
まで馬車でおおよそ一週間の道のりだ。

 そこから東へ広い草原を越えて、広がる高い山々がオッド山脈だ。
 
「ひとまず急がないとね……あっちの冒険者達が討伐してしまわないように」
「着いた時にもし討伐されていたら買い取るしかないかな?」

「無理だよ。そんなお金ないもん……」
「それもそうか。でもサラのお父さんのために絶対手に入れないといけないんでしょ?」

「うん! だってこのために大好きなお父さんの元を離れて、冒険者になったんだから!」
「そうだね……私も応援するから、絶対手に入れようね!」

 二人はAランクになってから数ヶ月が経ち、そのランクのクエストも随分とこなし、それまでの報酬と合わせてかなりの金額になっていた。
 しかし、その金額をもってすら、サラが求めるものの値段を考えると、微々たるものに過ぎなかった。

 エリクサー。その薬は全ての薬の王であり、それを飲んだものは身体のいかなる病や傷を瞬く間に癒し、身体を活性化させ人にあらざる力をもたらすとされた。
 しかし、その名が現れるのは、神話や伝説の中だけで、現在においてそれを手に入れた者、作るのに成功した者は皆無であった。

 そんな中、嘘か誠かある噂が広がった。
 エリクサーは作れないがそれに近いもの、どんな病や傷でも治す薬は作れるのだと。

 噂の出処ははっきりとしないし、そもそも実際に作れると言った薬師や錬金術士が現れた訳でも無い。
 しかし、その必要な材料だけは恐ろしく正確に各地に広まっていた。

 タイラントドラゴンの心臓も、その材料のひとつだった。

「見て。やっぱり他のみんなも大勢向かうみたい」

 コリカ公国行きの馬車が集まる停留所には、普段見ないような数の馬車が所狭しと並んでおり、そのどれにも多くの人が乗り込んでいた。
 見ればその多くは、クエストを受けることの出来ないような、低ランクの冒険者達だった。

 別に討伐クエストを受けないと魔物を討伐していけないということは無い。
 ただ、危険が高くなり過ぎないよう規制するために、ランク制度がある。

 クエストを受けられないランクの冒険者が例えクエストを達成出来たとしても、報酬は払われないようになっている。
 せっかく危険の高いクエストをこなしても報酬が受け取れずうまみが減るため、普通は実力に見合ったクエスト受けるのだ。

 しかし、実力に見合わない欲を出し、あわよくばの一攫千金を狙っているのだろう。
 我先にと馬車に群がり乗り込んでいく。

 果たしてこの中に実際にタイラントドラゴンと対峙して、まともな動きが出来る者はどれだけいるのか。
 命を粗末にするようなものだが、冒険者のそれは全て自己責任であり、普通の生活では決して手に入れることの出来ない名誉と金を欲して、冒険者になるのがほとんどなのだから、ある意味当然の流れのようにも思えた。

「あのー、この馬車まだ空きありますか?」
「お前さん達、二人だけかい?」

  どれも満員を越すような状態だったが、ソフィが話しかけた御者の馬車は驚くほど空いているようだ。
 ソフィは御者の問いに、そうだと答えると、御者は何やら中の人と話をした後、荷台を指さした。

「ありがとうございます」
「あれ? この馬車、女の人しかいないね?」

 二人が乗り込んだ馬車は女商人の馬車で、なんでも身の安全のため女性のみの搭乗を許可していたらしい。
 あれだけ混みあっていた馬車の中で、唯一この馬車だけ妙に空いていたのはそれが理由らしい。

「へぇ。じゃあ、シャルルさんは、定期的にオスローに荷物を運んでいるんですね」
「そうなの。他の一山当てようっていう商人達と一緒にしないでちょうだいね」

 この馬車の主人である女商人、シャルルと道中会話をする。
 二人よりも幾分か歳上だが、さすが証人だけあって話が上手く、三人はたわいも無い話で盛り上がった。

「へぇ! 二人はAランクなんだ? 私は人を見る目には自信があったんだけど、初めて驚いたわ」
「数ヶ月前になったばかりですからね。でもおかげで今回のクエストも受けられました」

 道中は馬車の大群が一斉に街道を走っていることもあり、魔物も盗賊もなりを潜めていた。
 特段問題もなく、オスローまであと少しという所までたどり着いた。

 しかし様子がおかしい。まだ街まで数キロはあるというのに、街の至る所から悲鳴や怒声が発されるのが聞こえ、また戦闘音も響いている。
 さながら戦争でも起こっているようだった。

「空を見て!」

 荷台の誰かがそう叫んだ。みな荷台から体を乗り出し空を見上げると、無数の黒い塊がオスローの上空に飛び、またそのいくつかが地上に急降下を繰り返している。

「亜竜だ! 亜竜の群れが街を襲っている!」

 また誰かが叫んだ。サラとソフィは顔を見合わせ、同時にうなづくと御者に叫んだ。

「急いで! 助けに行く!」



 オスローは周囲を高い防壁で囲まれており、高い防御機能を有していた。
 しかし、空を飛ぶワイアームやワイバーン相手には、その防壁も意味をなさず、簡単に市内へと敵の侵入を許してしまった。

 始めこそ突然の襲撃に市民たちの避難が優先され防戦一方だったが、公国騎士団の手際よい指示により既に大半の市民は安全な所へと避難していた。
 それに応じるように攻撃に転じたところ、タイラントドラゴン討伐に向け集まってきていた冒険者たちが市内へと乗り込んできたのだ。

 運が良いことに通常ならば戦闘が始まった際には固く閉じられる門もすでに侵入を許し、また、地を這う魔物の襲撃は見られなかったため、開けたままになっていた。
 到着した冒険者達も締め出しをくらうことなく戦場へと参加できたのだった。

 無数に思われた有翼の魔物達も精鋭の誉れ高い公国騎士団や高ランクの冒険者達の攻撃に徐々に数を減らし、残りわずかとなっていた。

「なんだか大丈夫みたいね」

 襲い掛かってくるワイバーンの首を一太刀で切り落としサラは辺りを見渡す。
 街中至る所に亜竜の死骸が転がっているが、どうやら人のそれはまだ見当たらない。

 亜竜とはいえ、低ランクの冒険者や、まして普通の市民が逆立ちしても敵うような強さではない魔物の群れが、一斉に攻め込んできたというのに死人が出なかったことは奇跡といえた。
 落下してきた際に壊れた屋根や壁などの修繕には時間を有するだろうが、素材として高値で売れる亜竜の死体が山のようにあるのだ、金の心配はいらないだろう。

「それじゃあ、まずはギルドに行かないとね」
「この状況でギルドに入れるかしら。たぶん他の冒険者達も殺到してすごいことになっていると思うわ」

「じゃあどうするの? サラ?」
「それよりも先に宿を探しましょ。崩れていない宿を探さなきゃいけないし、ぐずぐずしてたら泊まる所が見つからずに野宿になってしまうわ」
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