辺境暮らしの付与術士

黄舞

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第1章

第3話

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 しとしとと雨が続いていた。
 この地方では夏の時期に雨が続くことは珍しかったが、乾燥が続いては作物は育たないから恵みの雨と言えた。

 かと言って外で作業をする訳にはいかないから、カインは昨日収穫した野菜を使い、冬に向けた保存食を作った。
 しかし一人食べる分なので程なくして終わってしまった。

 晴耕雨読に習い雨の日は読書でもしたらいいと思うのだが、残念ながらこの目には文字など映らないからそれも難しい。
 いや待てよ。とカインは届いた娘の手紙を棚から取り出すと目の前に広げ、そして意識を手紙に向ける。

「ふむ。なるほど。問題なく読めるな」

 もっと早く試していればと苦笑する。
 カインが何をしたかと言うと、魔力によるエコーロケーションだった。

 視力を失い視界を無くしてからすぐに、カインは何年間もひたすらに魔力による周辺探索の技術を応用し、視力の代わりになる術を模索し洗練させて行った。
 魔力の扱いは慣れていたから、魔力を外に放出し周囲を探索するのはそこまで難しくなかった。

 しかし問題はそこからだった。
 魔力探索による視界の確保を試した瞬間、すぐに激しい頭痛と吐き気が襲ってきてぼんやりと見えていた周りの様子も消えてしまった。

 魔力枯渇の症状だった。
 周囲を詳細に見ようとするためには魔力をそれなりの強度で放出せねばならず、元々体内の魔力量の少なかったカインにとってこの技は実現不可能に思えた。

 魔力を用いる技能は魔力の量とその操作の熟練度によって決まる。
 魔力量は生まれた時に決まっており、実例がない訳では無いが後天的にその量を大きく伸ばすことは難しいとされていた。

 一方、熟練度はその名の通り後天的に習熟していく技術であり、いかに効率よく魔力を操作できるかの技術であった。
 仮に同じ魔法を魔力量が豊富な初心者とその十分の一しか魔力量を持たない達人が放った場合、より威力が高いのは後者だと言われた。

 カインはその熟練度に賭けたのだ。
 試行錯誤をしながら何度も襲いかかる魔力枯渇と戦いながら、カインは魔力による視界獲得を繰り返した。

 魔力操作に慣れたのか次第に魔力枯渇に陥るまでの時間は長くなり、視野も広まり精密な探知が可能になった。
 その中で、物にはそれぞれ特異な波長が有り、その違いによりそれぞれの境界を認識したりする事が可能だと気づいた。

 元々カインは魔力探索で生き物、それも比較的魔力の多い人間やせいぜい動物の探知ができれば良いと思っていた。
 しかし徐々に植物などや果ては石や土など無機物にも利用可能だと気づき、今では色の違いは分からないものの日常生活に困らない視界を手に入れていた。

 いや、本人が気づいていないだけで認知という観点では、人間の視界など遥かに凌駕したものを手に入れていた。
 今カインが試したのも魔力探索の応用で、紙面に書き込まれたインクの境界を探知し読んだのだった。

 読み書きに関しては訓練の途中で何度か試したものの、境界が狭くそもそもインクは紙面に染み込んでいるのだから、それを読み取るのは非常に困難だった。
 なにか伝えたいことがあれば直接会って口で言えることのできる村暮らしでは、あまり必要のないものであり、早々に放置してしまっていたのだった。

 しかし、今となってはインクの滲みすら明確に認識できるほどであり、今まで娘から来た手紙も知人に読んでもらい、こちらから手紙など出したことがなかったこの三年間が、なにかもったいないものに思えた。

「手紙でも書こうか」

 そう思い立ち、昔にしまいこんでしまっていた筆を取り出すと、ふと手が止まった。
 今まで一度も書いたことの無い娘への手紙に何を書けばいいか迷ってしまったのだ。

「そういえば仲間ができたと言っていたな。二人に贈り物でも作ってそれを口実にしようか」

 娘への手紙を書くのに口実も何も無いのだが、何も無いのに今まで書かなかった手紙を出すのも何か恥ずかしいもののような気がして、カインは娘とその仲間の女性に贈り物を作ることにした。



「ほんと助かったわ。ありがとう」
「どういたしまして。困った時はお互い様だもの。それに高ランクの冒険者に恩が売れただけで十分元が取れているわ」

 二人はギルドに行く前に宿を探したのだが、案の定襲撃の被害と混乱、合わせて普段よりも多い来訪者のせいでなかなか泊まれる場所を見つけることが出来なかった。
 そんな中声をかけてきたのが道中同乗させてもらったシャルルだった。

 彼女は仕事柄オスローに長く滞在することが多いので、住まいを有していた。
 広くはないが、女三人が寝泊まりする分には十分な広さで、泊まる所が見つからないならうちに来ないかと誘われたのだった。

「さて。こっちも忙しくなりそうね」

 そう言うとシャルルは何か目録の様な書類を確認し始めた。
 聞くと倉庫に置いてある商品の一覧らしい。

 オスローに倉庫を持っていたり一軒家を持っていたりと、まだ歳は二十代前半に見える彼女にしては随分と資産家の様だ。

「ああ、言ってなかったね。私はアントール商会の者なんだ。父は会頭のアントール」
「アントール商会ってセレンディアで一、二位を争う大店じゃない。そこのお嬢様だったわけね」

 通りで馬車に乗せる人を選り好みしたり、ただの行商人しては珍しく御者が別にいたりと出来たわけだ。
 荷台に荷物が少ないと感じたのもこの馬車は彼女、シャルルと、シャルルが管理するべきと思った高額な商品を運ぶためのものであり、嵩張るものなどは別の荷物専用馬車に積んでいたのだそうだ。

「二人はギルドに行くんでしょ? 私も出かけるからもし先に帰って来て入れないんじゃあ可哀想だからこの鍵を持っていってね」

 一週間共に行動していたとはいえ、他人に家の鍵を渡すのは、あまりに危機管理がなっていないのではないかと思われる。
 シャルル曰く人の見る目は確かで二人がなにか悪さをするとは思えないから、安心して受け取って欲しいとの事だった。

「それじゃあ、二人もタイラントドラゴン討伐頑張ってね。いい素材が手に入ったら引き取らさせてね」
「ええ、ありがとう。きっとそうするわ」

 二人がギルドに向かうと混んではいたが思ったほど混乱はしていなかった。
 入口に向かう列が出来ていたので素直に並び自分達の番をまった。

 入口近くにギルド職員がいて、冒険者カードの提示を求められる。

「ああ。二人はAランクですね。そのまま建物の中の受付に進んでください」

 不思議そうな顔をして後ろの冒険者パーティを見ているとどうやら彼らはDランクの冒険者達らしく、建物には入らず広場の方へ誘導されていた。
 入口に入ると中は思いのほか人が少なく、居合わせた冒険者達もみな高ランクらしかった。

 サラの装備を見た何人かが怪訝そうな顔をしているが、この場にいることが高ランク冒険者の証であることに気付いているのだろう。
 誰も絡んでくることはせず、二人は受付に向かい状況を確認する。

「何がどうなっているの?」
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