辺境暮らしの付与術士

黄舞

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第1章

第4話(改稿9/17)

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 受付嬢は状況を説明する。亜竜の群れの襲撃を受け、大公は緊急クエストを発令した。
 一つはタイラントドラゴンの高ランク冒険者による集団討伐。もう一つはオスローに散乱している亜竜の死体除去及び解体作業だ。

 襲撃はオッド山脈からなされたのが観測されており、タイラントドラゴンが関係していることは想像に難くない。
 何故ならば年老いて力をつけたタイラントドラゴンは亜竜を支配下に置くことが知られており、また、これまでにオッド山脈において亜竜の群れが観測されたことはなかったからだ。

 しかし、亜竜を支配下に置くほどに力をつけたタイラントドラゴンは強力で先ほど出された討伐ランクAでは対処が難しいと判断される。
 最高ランクのSランク冒険者でも単独パーティでの討伐ができるのはごく僅かだろう。一方ですでに一度襲撃を受け、早急に対応しなければならない。

 対応可能なSランク冒険者を待つ猶予もないし、せっかく集まったAランク以上の高ランク冒険者たちを無下にもできないため、集団討伐クエストに切り替え、早急な対応を可能にしたのだった。
 集団討伐クエストの場合、報酬は討伐に参加したパーティ全てに均等に渡される。

「集団討伐クエストになったのは分かったわ。でもほとんどの冒険者の目的はタイラントドラゴンの心臓でしょ? それはどうなるの?」
「その事は大公様もよく分かっています。噂によれば、薬の製造に必要な量はそんなに多くないとか……なので、討伐が成功した暁には、参加者全員に分けるようになっています」

 死体の除去及び解体作業は、討伐に参加できない主にBランク以下の冒険者達を対象としたものだった。
 おこぼれにあずかろうと集まってきた身の丈に合っていない冒険者達を、せっかくなので街の復興のために使おうとしたものだった。

 襲撃してきた亜竜の群れはほぼ全滅させていたが、未だに遠巻きにこちらの様子を伺っているものや、報告のためかオッド山脈へ撤退したものがいたため、第2陣の襲撃に備え、市民の多くは避難させたままである。
 そのため死体の撤去作業に駆り出せる人手が足りず、それに冒険者を当てようとしたものだった。

「こっちは私達は関係ないけれど、どうやって冒険者達のいざこざを防ぐつもりかしら?」
「それは、割符を使うようにしています。これが無いとクエストを受けた証明になりませんし、死体も引き取りません。割符事に死体を持っていく場所もばらばらにしてあるんです」

「なるほどね。それを考えたのも……」
「大公様ですね」

「さすが賢王と名高いだけあるわね……」

 亜竜の素材はタイラントドラゴンのそれに比べれば質は落ちるものの、低ランクの冒険者が簡単に手に入れられるようなものではない。
 それが死体の移動と解体で手に入るとなれば、冒険者達も我先にとクエストを受けていた。

 その結果、死体の除去は進み街の復興の手助けとなる。
 公国側は報酬に死体の一部を渡すだけで、資金を使わずむしろ残りの素材を売ったお金を手に入れられる成果を手に入れていた。

 更に街に低ランクとはいえ数多くの冒険者を滞在させることにより、第二陣への対策も兼ねていた。
 実際、公国騎士団がいくら優秀だと言っても、あの襲撃を受け死人を出さずに終われたことは、冒険者達の手助けがあったからに違いなかった。

 襲撃から一日も経たない内にこのようなクエストを発令できる大公は聞きしに勝る優秀さだといえる。

「それで、討伐はいつ出発するの?」
「明日の早朝の予定です。参加される方はここに記入をお願いします。あ、討伐成功後に素材を独り占めしようとしても駄目ですよ。その場合公国から反逆者として自身が討伐対象になってしまいますからね」

 笑顔で恐ろしいことをさらりと言うもんだと思いながら、参加の用紙に記入し、割符を受け取る。
 ひとまず明日までやることもないし、移動で疲れた体を労うためと腹を満たすために酒場へ向かう。

 通りではすでに多くの冒険者たちが亜竜の死体を移動させていた。この様子なら二、三日もすればあらかた片付くだろう。
 その頃にはタイラントドラゴンの討伐も終了し、安全に街の復興が望めるのだろうと思いながら歩く。

 酒場が密集する通りに着くと、全てではないが明かりがつき、喧騒が聞こえてくる。こんな状況でも稼ぎ時なのは間違いないだろう。
 適当な店に入り、空いている席に着く。

「いらっしゃいませ!」

 若い女性が注文を取りに来る。おすすめを聞き、それと付け合わせを数品、飲み物にジュースを頼む。
 二人は成人しているが冒険者には珍しく酒を飲まない。飲めないわけではないが同じ値段を払うならジュースのほうが百倍おいしいと感じる。

 出てきた料理を食べながら明日のことを想像する。タイラントドラゴンは強いだろうか。
 これまでとんとん拍子にクエストをこなし、気づけばAランクまでになっていた。

 Aランクのクエストも簡単とは言えなかったものの問題なく達成できたが、今回は集団とはいえ自分のランク以上の敵と戦うことになるのだ。
 無理だったら恥辱を受けても逃げればいい。勇敢と無謀は違うとは父の言葉だった。

 冒険者になる際に一番に言われた言葉だ。しかし、やっと求めたものが手に入るかもしれないのだ。
 逸る気持ちを抑えながら食事をしていると、ふいに頬をつままれた。

「もうー、サラ。また難しいことを一人で考えてたでしょー。2人で食事してるんだから自分の世界に入り込まないでよねー」
「あー、ごめんごめん。ソフィ。ちょっと明日のことを考えてさ」

「ようやく素材の一つが見つかったから考えちゃうのはわかるけど、なるようにしかならないわよ。今はせっかくの料理を楽しみましょ」
「そうだね。あ、これ美味しい」

「もう。さっきから食べてたじゃない。考え込むと料理の味すら気にしなくなるのは悪い癖よ」

 笑いながら食事を続ける。ソフィは二人がBランクになり立ての際に受けたクエストでたまたまパーティを組み、そこからの仲だ。
 それまでは一人でクエストをこなしていたが、Bランク以上になるとパーティでないと受けられないクエストが増えてきた。

 そんな折、同じような境遇のソフィと試しのパーティを組んだのが始まりだった。
 性格や見た目は全然違う二人だったが、何故か意気投合し、今では正式にパーティを組み、ずっと一緒に行動している。

 サラが薬の原料集めを目指していることも知っていて、協力してくれている。
 彼女は珍しい精霊術士で、より強力な精霊と契約することを目標として冒険者をしている。

「思えば、ソフィとパーティ組めたから私もソフィもAランクになれたし、今回のクエスト受けれたのよね……」
「なに? 突然」

「ほら、私ずっと一人でクエストこなしていたから。私、ソフィとパーティ組めて良かったなぁって」
「うふふ。私だって、Bランクからパーティが必要だなんて知らなかったから、焦ったわよ。私もサラとパーティ組めて嬉しかったよ。それに、ほら! この雷の精霊だって」

 サラは魔法の類の素養がなかったため詳しいことは分からないが、昔父から聞いた話や、ソフィの話では精霊と契約するには精霊に何らかの形で認めてもらわないといけないらしい。
 それは時に力でねじ伏せることだったり、何らかの供え物を用意することだったり、ただ話すだけでよかったりと精霊ごとにばらばららしい。

 一度サラもソフィの精霊契約の場に立ち会ったことがあるが、その際は精霊と戦う羽目になり、なかなか手ごわかった。
 結果として、ソフィの使える魔法の効果が格段に上がり、その後のクエストで多くの手助けとなっているためやってよかったと思っている。

 食事から戻り、シャルルの家に着くと夜も遅いというのにまだ家主は戻っていないようだった。
 人の家に泊まりに来て家主より先に寝るのは憚られたが、帰宅時間もわからず寝不足になり明日の討伐に支障をきたすわけにもいかなかったため、すでに案内されていた寝床を借りて二人は眠ることにした。
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