辺境暮らしの付与術士

黄舞

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第1章

第13話

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「ほう。それはそれは。さぞかし名のある冒険者なのだろう。サラ殿の父君はまだ現役なのかな?」
「いえ、父は冒険中の事故で目を患いまして視力を失くしています。今はこの遥か北にあるオティスという小さな村で余生を楽しんでいます」

「うーむ。それは誠に残念なことだな。しかし、サラ殿の父君もサラ殿のような優れた娘がいてさぞかし鼻が高かろう。それに比べて私の愚息などは・・・。いや、この話は今すべきではないな。良ければその武器とやらを見せてくれないかな? ああ、話してばっかりでは食が進まないな。どうぞ食べてくれ」
「お見せするのは構いませんが・・・」

 もちろんサラは今帯剣などしていない。城内に入るときに武器は城の兵士に預けていた。
 だから剣を見せるのは構わないが、そもそも今何処に剣が保管されているのかサラは知らないのだ。
 ちなみに、サラとソフィは今、昨日の晩餐会とはまた異なった雰囲気のドレスを身に纏っている。

 大公との昼食が決まるや、メイドたちがこぞって2人を着せ替え人形のようにしたのだ。そもそも何故来訪者の2人が着ることが前提の何種類ものドレスが用意されているのか、不思議でたまらない。
 恐らく城の衣裳部屋には様々なサイズの様々な衣装が所狭しと並んでいるのだろう。いや、城はとてつもなく広いから、衣裳部屋もきっと広いに違いない。
 いくら衣裳が多くても余裕のスペースがあるのではないかなどと、2人は衣裳を選ばれている間、くだらないことを考えていた。

「そうか。誰か! サラ殿の武器をここへ」

 大公が手を叩くと、近くに直立不動で待機していたピシッとしたスーツを着た白髪の男性が、すっと部屋の外へ消えていき、しばらくすると両手にサラの剣を携え、戻ってきた。

「こちらにございます。閣下」

 そういいながら白髪の男性は恭しく剣を大公に差し出した。

「ふむ。こういっては何だが、見た目からはまるで何処ででも手に入りそうな安物の剣に見えるな。鞘から出してみてもいいかな?」
「構いません。大公閣下」

 もしサラがここで剣を鞘から引き抜こうものならば、即座に捕らえられ、間違いなく処刑されるだろう。下手をすると故郷の父にも咎が及ぶかもしれない。
 しかし、大公自らが抜剣しようが咎めるものなどいないだろう。大公を抜き身の剣を上げたり下げたりしながらしげしげと眺め、しばらくすると剣を鞘に戻し白髪の男に再び手渡した。

「鞘から出しても見れば見るほど平凡な剣に見える。もっと見た目で驚きを受けると思っていたのだが、これは逆に驚かされたな」

 そう言いながら大公は大きく口を開けて笑った。

「これが噂に聞く宝具という物なのかな。無理を承知で聞くがこの剣を私に譲ってくれないだろうか。サラ殿の言い値を出そう」

 サラは驚愕した。まさか大公からそんな言葉が出るとは思っていなかったからだ。
 サラの故郷オティスもサラが拠点としているセレンディアもコリカ公国の領地ではない。したがって、サラは公国民ではないのだが、仮にも一国の主に譲れと言われているのだ。
 拒絶すれば不敬罪と罰することも相手の権力を考えればいとも容易いことだろう。だからこそ、そのような言葉を賢王と名高い大公が口にするとは思ってもみなかったのだ。

「それは・・・どうかお許しください。大公閣下」

 剣はすでにあちらの手の内、そもそもここは城内で最悪の事態になった時にはどう転んでもサラが無事に済むことは考えられなかったが、決意をもってそう答えた。
 相手が例え大公とは言え、父からもらったこの剣を渡す訳にはいかなかった。

「はっはっは。悪い冗談だ。許してくれたまえ。ところでソフィ殿。あなたも素晴らしい魔法の使い手だとか」

 突然話を振られ、「ひゃい!」と変な声を出してソフィは顔を上げた。口角から頬っぺたにかけてメインディッシュの肉料理のソースが付いていた。

「なんでも、ソフィ殿の魔法が今回のタイラントドラゴン討伐の起点になったのだとか。ソフィ殿はどのような魔法を使うのかな?」
「精霊魔法です」
「精霊魔法!私も聞いたことはある。他の魔法と異なり、魔法の源に精霊の力を用いるといった魔法だね。ソフィ殿もサラ殿同様若いのに大した実力をお持ちのようだ。どなたか高名な精霊魔術師に師事されたのかね?」
「いいえ。独学なんです」

 ソフィは小さい頃から精霊を視たり、精霊の格によっては話したりできる才能を持っていた。
 他の人には視えないということに気付くには幼すぎて、周囲から不思議な目で見られた時期もあったが、持ち前の明るさが幸いし、特に屈折することなく健やかに成長し、いつしか自分だけが視えるということに気付くとともに、精霊魔法を学んでいった。
 ちなみに独学というのは少し語弊があり、実際は精霊魔法はのだ。
 ソフィは精霊魔法に関していえば、天性の才能を持つまさに天才だった。

「独学とは。はっはっは。2人のパーティは人を驚かせるのが本当に上手だ。うむ! そうだな。2人はAランクの冒険者だと言ったね。よろしい。私からSランクになるよう推薦状を書こう」

 2人は驚いた。冒険者のランクはギルドが独自に判断し与えているもので、その判断基準は秘密とされていた。
 もちろん実力のある冒険者が高ランクになるような判断であることは疑いようがないのだが、そのランク付けに一国の主が口を挟むことなど聞いたことがなかった。

「なに。遠慮することはない。2人はそれだけの実力を持っていることは今回のクエストで証明されている。今回のクエストにはSランクの冒険者も参加していたが、実際に最も大きな成果を上げたのは君たち2人だ。どこからも異論は出ないだろう」

 2人が何と答えればいいのか迷っている時、突然扉が開けられ、一人の男が部屋へ入ってきた。
 年は20代前半だろうか。非常に端正な顔立ちをしており、この男に言い寄られて悪い気持ちになる女性はそう多くないだろう思われるような見た目だった。
 一目で上等と分かる服を着こなし、大公のことなど気にしないというような足取りで優雅にこちらに近づいてくる。
 よく見るとどこか大公に似た面影がある。恐らく大公の息子だろう。

「これはこれは父上。このような美しいうら若き女性を2人も侍らせて。父上も隅におけませんな。母上がお聞きになったらさぞかし落胆されることでしょう」
「たわけたことを。ライヤン。どういうつもりだ。何をしに来た」
「そうお怒りにならずに。冗談ですよ。こちらに美しくもお強い冒険者がいらっしゃると聞きまして、一目見ておきたいと。見目麗しいお二方、初めまして。お聞きの通り私はライヤンと申します。大公の息子です。お見知りおきを」

 そういいながら、ライヤンは流れるような動きで2人の右手を持ち上げ甲にキスをした。

「ええい! 出ていけ!」

 大公は声を荒げて、手を横に振り上げた。

「おお怖い。それでは邪魔者はお暇しましょう」

 ライヤンはおどけた様子を見せながら部屋を出て行った。
 一瞬の出来事に呆けてしまったが、なるほど、あれが噂の王子かとサラは思った。
 コリカ王国の現主、今目の前にいる大公は非常に優れた為政者であると有名で、領民からも貴族からも人気が高かった。一方その息子は別の意味で有名だった。絵に描いたような放蕩息子でだ。

 幼い頃は父親に似て、品行方正、知性も高く、大人びたその言動から父親と同じような立派な為政者になるだろうと期待されていた。
 ところが、いつからか突然人が変わったように王子は遊び呆けるようになった。
 あまりの変容振りに、偽物に入れ替わったのではないかという噂まで流れるほどだ。事実そう信じてる領民も少なくなかった。
 しかし、どうやら他人に迷惑をかけることなど悪事には手を染めないため、大っぴらに罰することもできず、好きなようにさせているようだ。

「ええい。ライヤンめ。すっかり興が覚めてしまったわ。ああ、すまなかったな。今のことは気にしないでくれ。どれ、残りの料理を食べるとしよう」

 その後2人は取りとめもない会話をしながら、食事を続け、食事会を無事終えると今度こそ帰り支度をして、城を後にした。
 慣れない服を着たせいか、それとも普段会うことなどのないような偉い人物と間近で接したせいか、体中が凝っているような気がして、サラはそのコリをほぐすように関節を回した。
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