辺境暮らしの付与術士

黄舞

文字の大きさ
36 / 133
第3章

第35話

しおりを挟む
「おや? おじさん。俺とやりたいのかい? いいけれど。それなりのもんは持ってるんだろうね?」
「ああ。これでどうだ?」

 カインは先ほど入口の男達に見せた袋の中身を、男にも見せた。中にはウィルから分配された羊毛の代金が入っている。
 男は一瞬眉を動かしたが、すぐに表情を戻し、なんともないという体で答えた。

「まぁ、そのくらいのはした金じゃあ、そんなに持たないだろうが、いいだろう。俺がやるのはこのカードを使ったゲームだが、説明が必要かい?」
「ああ、後でルールについて揉めるのも嫌だから念のため説明してくれ。さっきの男とのやり取りを見てたから大体のことは理解している」

 説明によると、一枚ごとに異なる数のマークや絵が描かれたカードを使い、配られたカードの組み合わせの強さで勝敗を決めるのだという。
 ただし、分かるのは自分の手札のみで、相手の手札は勝負を決める時まで分からない。

 初めに手札が配られた後、決められた片方が賭け金の額を決める。
 もう一方はその時点で、賭け金の増額、同額を賭ける、ドロップするから選択ができ、その選択は同額を賭けるが選択されるまで、交互に繰り返される。

 その後任意に手札の交換をお互いが一度だけ行い、同様に賭け金の賭け合いを繰り返した後、互いの手札を晒し、より強い組み合わせを持っていた方が、場の賭け金を全て貰うというゲームだ。
 一方、途中でドロップすると、手札の強弱によらず宣言した方の一方的な負けとなり、その時点で場に出ていた賭け金は、勝者のものとなる。

 このゲームは一見すると強い組み合わせを作ったものが勝つように思われるが、実際は相手の手を読み、強いと思われる場合には早急に手を引く、もしくは自分の手札がより強いと相手に錯覚させドロップを誘うなど、高度な心理戦を要求されるものだ。
 先ほどの戦いも、負けた男の手札が特段弱い組み合わせばかりだったとは言えなかったが、結果的にはここにいる男の大勝利に終わった。

「それじゃあ始めようか。ひとまずこっちが親からでいいかな?」
「構わない」

 数度ゲームが繰り返され、カインも男も少ない額を勝ったり負けたりしていた。
 次のゲームが始まり、それなりに強い組み合わせでカインが勝利した。

「ふーん。おじさんなかなかやるわねー。私おじさんのこと気にいっちゃった。私おじさんの応援しちゃうね」

 男が侍らせていた女の一人が、男のそばから離れ、カインの斜め後ろに立つ。
 どうやら貴族などが使う香油を付けているらしく、横を通り過ぎる際に甘ったるい匂いがした。

「おいおい。まいったなー。今まであんなに貢いでやったのに」
「うふふふ。私はいつも勝ちそうな方につくのよ。私の勘が今日はこのおじさんが勝つって言ってるの」

 その後、ゲームが繰り返され、状況に変化が生じてきた。
 負ける回数が極端に増えたわけではないが、大事な局面で負けることが多くなった。カインが負けるときは賭け金が多く、逆に男が負けるときには賭け金が少ないのだ。

 気が付くと、袋の中身は初めの半分以下になっていた。
 カインの隣に佇んでいるフード付きのローブのような恰好をした短身の人物は、焦りを感じてきたのかカインの服の裾を軽く引いた。

 大丈夫、とカインはその手に自分の手を重ね、次のゲームを促した。
 斜め後ろでは先ほどの女性が、「大丈夫、次は大勝ちするよ」などと応援の声を上げている。

「ところで、随分と羽振りが良さそうだが、何かうまい話でも当たったのか?」
「ああ? ははは。その通りさ。馬鹿な女を騙してぼろ儲け。まったくうまい話さ」

「馬鹿な女?」
「興味があるのかい? いいさ。特別に教えてあげるよ。ああ、同じことをしようたってもう無理だよ。あの女は今や一文無しだからね。髪飾りだかなんだかを作るだけが取り柄の世間知らずな女がいてね。ああ、女って言ってもドワーフなんだよ。こーんな小さいね。そいつにすこーし優しくしてやったら、勘違いしやがってね。あとは簡単さ。そいつが貯めた金も、高く売れる髪飾りも根こそぎ奪ってやったのさ」

「ほう。その髪飾りは結構な額で売れたのか?」
「ああ。馬鹿みたいに高い値段で売れたね! その金で今やこの街で好き放題さ。この街はいい。金が全てだからね。金がある奴が偉いんだ」

「そうか。分かった」
「うん? 何を分かったっていうんだい? それにしてもいいのかい? そろそろ大きく勝たないと資金が心もとないんじゃないのかい? よかったら俺がいくらか貸してあげてもいい。なに、勝てばいいんだ。このゲームは資金が多い方が有利なんだから悪い話じゃないだろう?」

「いいのか? それじゃあ遠慮なく借りるとしよう。そうだな。額は、借りられるだけ貸してくれ」
「そうこなくっちゃ。それじゃあこれが借用書だ。ああ。念のためだよ。後から返せないって言われても困るからね」

 カインは細かな文字がたくさん書かれた紙にサインをすると、男から金を受け取った。
 ゲームが再開され、今回はお互いそれなりの金額をかけた後、手札を見せ合う。

「そうそう。負けている時は大きく賭けないとね。ああ。しょうがないね。今回も・・・」

 笑顔だった男の声が途中で止まる。
 晒された手札は、カインの勝利を示していた。

「ああ。これは失礼。どうやら今回はおじさんの勝ちのようだね。その調子で勝てるといいね」

 再びカードが配られた。男がカインの手元をよく見ると、5枚あるはずの手札が4枚しかないように見える。

「おや? おじさん。残りの手札はどうしたんだい? 4枚しかないじゃないか。もしかしてイカサマをしてるんじゃないだろうね。気を付けておくれよ。イカサマがばれたらここじゃあ袋叩き程度じゃあすまないからね」
「ん? ああ、ちゃんと5枚持っているさ。2枚重なっているだけだろう」

 その後もカインは先ほどとは打って変わって、大きな賭け金の時は必ず勝っていた。
 回を重ねるごとに手札の重ねる枚数が増えていき、今や5枚を一重ねにして持っていた。

「おじさん。何に気付いたか知らないが、いつまでもそんなまぐれ当たりが続くと思ってたら間違いだぞ」
「うん? 気にしないでくれ。それよりも続きをやろうじゃないか。借りた分はもうとっくに勝ったからな。ひとまず返すことにするよ」

 そういうとカインは先ほどの借用書をビリビリと破いて捨てた。
 手札が配られると、今度はカインは机に置いたまま手に取ることすらしなかった。

「何をしている。早く取りやがれ!」
「俺はこのままでいい。賭け金はこれだけだ」

 そう言うと、カインは先ほど返した額と同額を賭けた。
 男は明らかにいら立ち、声を荒げた。

「てめぇ! ふざけてるんじゃねぇ! 見てもいねぇってのにこんな大金かけるてんのか! いいだろう。勝負してやるよ!」

 男は同額を賭け、その後2枚を交換すると、満面の笑みを浮かべた。

「は! てめぇの運もここまでだ。ほら手札を見せな! 見てもいねぇカードがこれに勝てるもんなら勝ってみろ!」

 男が見せた手札は、同じ数が書かれたカードがそれぞれ2枚と3枚組み合わされたものだった。
 男は机に置かれたままのカインの手札を一枚一枚開いていった。

 3枚目のカードが開かれた時点で男の手が止まる。
 それまでのカードには男の手札と同じく、全て異なるマークが同じ数だけ描かれていた。

 次のカードを開く男の手が震えている。開かれたカードは先ほどまで開かれたカードとは異なる数が描かれていた。
 最後のカードが開かれる。それを見た男の手が止まり今にも手の中のカードを握り潰すかのように見えた。

「ふ、ふざけんじゃねぇ! なんだこれは! てめぇ! イカサマだろう!!」
「おい。そのカードを早く置きな。間違っても下手な真似をするんじゃないぞ? それに、配られた後俺はそのカードに一度も触れていないだろうが。イカサマするって言ってもどうやってするっていうんだ」

「うるせぇ! てめぇか? てめぇか? それともてめぇか! これからは俺が配る! 他の奴は誰も信用ならねぇ。これでじじいのイカサマもこれまでよ!」
「おいおい。落ち着けよ。イカサマなんて証拠は何処にもないだろう。運が良かっただけだ。だが、お前が配りたいっていうならいいだろう。その代わり俺が止めるというまでゲールを続けてもらうぞ?」

「は! 粋がっても無駄だぞ! もうイカサマは使えねぇからな! おら! てめぇらも俺の近くに寄るんじゃねぇ! どうせてめぇらもあのじじいとグルだろうが!!」

 侍らせていた女達を遠くに押しやり、男はカードを配ると、自分の手札を裏にしたまま机の端まで滑らし、屈みながら、誰にも覗かれない様に一枚一枚をこそこそと覗き込んだ。
 カインは相変わらず自分の手札には手を付けず、机に配られたままにしていた。

「よし。俺はこれだけ賭けるぜ。じじい、さっさと賭けな」
「いや、これはドロップだ。次を配ってくれ。おい。どうした? ドロップだ。次のを配れ」

 男は青筋を何本も立てながら、再びカードを配った。
 先ほどとは異なり、今度はお互いの手札を見せ合い、カインが勝利した。


◇◇◇◇◇◇

いつも読んでいただきありがとうございます。

念のため補足です。
なるべく分かりやすいように記述していますが、2人が勝負しているゲームはトランプを使ったポーカーです。
途中でカインに近寄ってきた女性は、男とグルで、カインの手札を事前に用意された方法で男に伝えていました。
一方、カインはそのことに初めから気付いており、途中からそのイカサマを防ぐ方法として、手札を重ねたり、机から開かずに置いたままにしています。
手札を見れない以上、グルの女性は男にカインの手札を教えることが出来ないのです。
一方、カインにはアレがあります。
可視光を通さないようなものも別の波長の光は通したりします。
身近な例だとレントゲンとか空港の手荷物検査とかですね。
同じようなことがカインのアレにも適用されます。
ということでカインは初めから無双できたわけですね。
ちなみに作中で表現された役は男がフルハウス、カインはフォーカードです。

所で、私事で恐縮ですが、先日、とうとうお気に入り数が1000人を突破しました。
その後も僅かずつですが、順調に数を増やしています。
いつも読んでくださっている方、お気に入り登録をしてくださっている方、感想を書いてくださった方ありがとうございます。
これからも読んでいただけるよう頑張って書いていきますのでこれからもよろしくお願いします。

ちなみに書いていて楽しいのでカイン編が長くなりそうです。
サラ達の出番はもうしばらくお待ちください。
もしかしたら気が変わりすぐにでも出場するかもしれませんが。

また、最後になりましたが、励みになりますので、少しでも面白いと思っていただけましたらお気に入り登録、感想を頂けたら嬉しいです。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

無能だと追放された「雑用係」のハル、現代の知恵(ライフハック)を駆使したら、呪われた魔王城が聖域化して伝説の賢者と呼ばれ始めた

ユネ
ファンタジー
「君のような無能な掃除係は必要ない!」 勇者パーティーからゴミのように捨てられた雑用係のハル。だが彼女には、前世で培った【家事のプロとしてのライフハック】があった。 ​移り住んだのは、誰もが恐れる『呪われた魔王城』。しかしハルにとっては、ただの「掃除のしがいがある大型物件」に過ぎなかった! 重曹とクエン酸で呪いを浄化し、アルミホイルで魔物を除け、ジャガイモの皮で伝説の鏡を蘇らせる。 ​魔法より便利な知恵で、お城はいつの間にか世界一快適な聖域に。 一方、ハルを失った勇者たちは、汚部屋と化した拠点と自らの無知に絶望することになり――。 ​これは、一人の「掃除好き」が知恵と工夫だけで異世界に革命を起こし、最高のスローライフを手に入れるまでの物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...