辺境暮らしの付与術士

黄舞

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第3章

第41話

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少し人によっては嫌悪感を感じる表現があります。念の為ですが、作者は性に関するいかなる偏見もこの作品で表現するつもりはありません。ただ話の流れ上、かいているのですが、邪推される方もいらっしゃるかもしれません。気になる方は初めから場面転換(◇)までを読み飛ばしてください。いつも通りまとめに書きます。


◇◇◇◇◇◇

 斬っても斬っても続々と現れる魔物達に、サラ達は流石に疲弊していた。
 恐らくカインが新しく付与してくれた武器が無ければ、今頃とうに疲れ果て、撤退を余儀なくされていただろう。

 それでも必死に自分を鼓舞し、重くなった腕を持ち上げ、目の前の魔物を葬り去っていった。
 ソフィも今日2本目の魔力回復薬を飲み終え、広範囲の敵を打ち倒していた。

「見て! サラ。あれ何かしら?」

 洞窟のほぼ終点、少し開けた場所の中央のそれはあった。
 どうやらそれから魔物達が生まれているらしい。

「やだ・・・なにあれ?」

 それは頭に2本の角を生やし、皮膜を持つ角張った翼を背負った女性の上半身のように見えた。
 その身体は漆黒に染まっており、身体の一部が歪んだと思うと、そこから新たな魔物が生まれた。

 生まれたばかりの魔物はこちらに気がつくと、鼻息を荒らげ襲いかかってくる。
 2人はその魔物を倒すと、それまで倒してきた魔物のあることに気がついた。

 ひとつは多種多様な魔物がいたが、その中にメスがいなかったこと。
 性別がない、もしくは見た目では性別が判断できない魔物も存在するが、逆に見た目で性別が判明する魔物も多い。

 明らかにオスであるか、もしくは見た目では分からない魔物ばかりで、一目でメスと分かる魔物には遭遇しなかった。
 唯一この洞窟で遭遇したのは目の前で次々と魔物を生み出している、得体の知れない何かだった。

 もうひとつは、全ての魔物が何らかの精神異常に陥っているということ。
 おそらく魅了状態だと思われるが、何かに操られているような、正気ではないように見えた。

「とにかくあれが元凶ね。あれを撃てばこの騒ぎは収束するわ」
「任せて!」

 ソフィが騒ぎの元凶、漆黒の上半身目掛けて雷魔法を放つ。
 すると周りにいた魔物達がまるでそれを守るように、立ち塞がった。

 ソフィの雷魔法の直撃を受けた魔物は、黒焦げになりながら倒れて行ったが、複数の厚い肉に阻まれ、目的まで届かなかったようだ。
 続いてサラも切りかかろうとするが、こちらも行く手を阻むように魔物が群がり、なかなか辿り着けそうもなかった。

「ねぇ。あれ、前に見たタイラントドラゴンやオークキングに似てない?」
「どういうこと?」

「あの身体の色。多分あの魔物は夢魔よね? まるで夢魔の身体が漆黒に染まったみたいよ」
「言われてみたらそうかもね」

 サラはソフィにそういうと、襲いかかってくる魔物を切り伏せる。
 しかし、サラが魔物を倒すよりも早く、夢魔は新たな魔物を生み出し続けていた。

「もう! どういう理屈なのよ! 絶対質量おかしいでしょ!」
「まずは周りの魔物をどうにかしないとね」

「ソフィ! いい考えがある! この洞窟、地面は湿ってるわよね?」
「ええ。ああ、なるほど。ちゃんとタイミングよく飛んでよね?」
「任せて!」

 サラの返事を聞くと、ソフィは呪文を唱え始める。
 オークキングを仕留める時に使った魔法を地面に手を当てて放った。

 サラは精一杯飛び上がり、地上からその身体を退避させていた。
 瞬間、無数の雷撃が地面を這うように周囲に広がり、地に足を付けた魔物達を打ち据えていった。

 サラが降り立つと、感電により身体の自由を奪われた魔物がもがいていた。
 最短距離で必要な魔物だけを切り付け、サラは夢魔に近寄ると、既に横に切断された後の身体を、今度は縦に分離させた。



 男は退屈をしていた。
 欲しい物全てを手に入れる。それが男の原動力だった。

 あの日、あいつが俺にくれた能力で、欲しい物はなんでも手に入れてきた。
 そう男は思った。

 しかし、最近欲しいと思えるものが少なくなってきていた。
 それだけ男は今までに手に入れ続けて来たのだろう。

「ヴァン様、失礼します。例の男を連れて来ました」
「ああ、そこに座らせておけ。今行く」

 ヴァンと呼ばれた男は、簾の向こうで部下が連れて来た男を椅子に座らせ、部屋から出ていくのを確認した後、おもむろに簾の向こう側に移動した。
 椅子に座らされた男の顔が驚愕に変わる。

 この男は、最近この街にやって来た男で、珍しい材質で出来た飾りをヴァンに売りつけ、その金で自由に暮らしていた。
 しかし、ギャンブル好きが高じてせっかく手に入れた金はすぐに底をつき、ヴァンから金を借り、それを元手に今度はちゃちなイカサマでなんとか借金を返済しようとしていたはずだ。

 それが、どうやら上手のイカサマに会い、貸した金さえも空にしてしまったという。
 その返済について金を貸す際に交わした借用書の条件の履行のために呼び寄せたのだった。

 これは完全なお遊びだった。
 そもそもヴァンはその姿を人に見せることはしなかった。

 この街の住民に姿を知られると色々面倒なことになるからだ。
 それなのにこの男の前に姿を現す、それはこの男の未来が確実に決められたものになることを意味していた。

「やぁ。会えて嬉しいよ。君が売ってくれた飾りはなかなか良いものだった。最近手に入れた物の中では逸品だよ」
「あ・・・あ・・・」

 男は恐怖のためか声も出せない状況だ。
 ヴァンはその男の様子などお構い無しに喋り続ける。

「それで、君に貸したお金なんだけどね。困ったなぁ。全部取られちゃったんだって? 一応確認するけど、どうやって返すつもりだい?」
「なんでもっ! なんでもするから! なんでもするから命だけは!」

「おやおや。まるで僕が命を取るみたいな言い方だね。そんなにこの姿が怖いのかい? ああ、そうだね。君はなかなか見た目がいい。人間にとってはだけどね。それじゃあ、借金の形にそれをもらおうか」

 ヴァンは被っていたフードを除けると男の顔に自分の顔を近づけた。
 その顔はとがった耳、ぎょろりとした大きな瞳、不恰好に曲がった鼻、大きく裂けた口をしていた。

 男の口から声にならない息が漏れた。
 ヴァンは男の顔に手を当てると、何かを念じた。

 すると不思議なことが起こった。
 先程椅子に座っていたはずの男が、ヴァンが立っていた場所に立っており、代わりにヴァンが椅子に座っているのだ。

 唯一違うのは、先程まで漆黒に染った色をしていたヴァンは、本来の土気色に戻り、逆に座っていたはずの男の身体は、先程のヴァンのように漆黒に染っていた。
 ヴァンの姿をした男は何が起こったか分からず、手や足を見たり、自分の顔を必死で触れたりしていた。

「さて、これでいい。その身体気に入っていたんだけどね。よく考えたら不便だから君にあげるよ。ああ、君の討伐クエストも発注しておかないとね。せいぜい頑張って生き延びておくれよ」

 そういうと先程椅子に座っていた男に姿を変えたヴァンは、元の姿をした男を片手で持ち上げると、窓の外へ放り投げた。
 男は身体を強く打ち付けたが、幸いにも落ちた先は堀で、一命は取り留めた。

 おそらくヴァンはそれを狙って男を放り投げたのだろう。
 討伐クエストを発注する、その言葉を思い出した男は必死に泳ぐと、何処かに身を隠さなくてはと痛む体に鞭打ち、何処へともなく走っていった。

 それを見届けたヴァンは、次のおもちゃを探すため、思案するのだった。


◇◇◇◇◇◇

まとめ:やっと出番のヒロイン達。魔物大量発生の原因は漆黒に染った夢魔。何故か上半身だけ。漆黒に染ったってなんかこれまでにも見たことあるよね。出てきてそうそうサラに更に半分にされてしまったとさ。
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