辺境暮らしの付与術士

黄舞

文字の大きさ
56 / 133
第3章

第54話

しおりを挟む
 コルマールに住む人々は怒涛の日々を過ごしていた。
 ミューによって伝えられた、クーデター、それに伴うヴァンの死。

 各国の重鎮が招待された博覧会の最中でなされた出来事に、多くの人が驚きを隠さずにいた。
 また、その後に起こる変化に対応出来るよう、様々な所からもたらされる噂話や正式な発表を、漏らさず耳にしていた。

 クーデターの首謀者である、ルーク、ミュー、ララが、新たな独裁者になると噂話が流れたが、直ぐに彼らから元のように、コリカ公国の一都市に戻ることが発表された。
 博覧会に参加していた、ルティの父を通じて、コリカ公国の大公にその事が伝えられ、正式にコルマールは独立国からコリカ公国の属領となる事が承認された。

 その話を聞いて慌てたのが、様々な商人たちである。
 ヴァンのおかげでコリカ公国を含め、ほとんどの国では違法とされる商売をしていた商人達は、慌てて商品の廃棄や、別の合法な国へ移動したりと、大急ぎで行動を始めた。

 しかし、ルーク達による取り締まりにより、奴隷などの命は、廃棄されることなく、無事保護された。
 ルークは、奴隷の中から希望者を募り、自身がマスターとなった新しいクランの冒険者育成機関に入れ、多くの有能な冒険者による教育を施している。

 ルークの作ったクラン、つまり、特定の志の元集まった冒険者達の集団は、その居心地の良さから、所属する冒険者達から『桃源郷ユートピア』と呼ばれ、親しまれた。
 カインや、サラ、ソフィもそのクランに所属し、初心者への指導や、逆に優れた冒険者達と切磋琢磨をしていた。

 現在、コルマールで発行させるクエストの多くは、ヴァンの作った国を再興しようと目論む、既に他の国では捕えられるしか道の残っていない、犯罪者達の集団の取締だった。
 領主がまだ決まっていないため、暫定的に街の事は、ルーク達に一任されていた。

 そもそも大公から、街の統治者として、リーダーのルークに騎士の称号を与えると言われたのだが、ルークはこれを断った。
 自分は生涯現役の冒険者でいたいとの考えから、誰かに仕えるつもりは無いのだと答えたのだ。

 使者として伝えたルティの父は、その返事に対して、立腹したが、ルークのひと睨みで黙った。
 その後、大公にルークの傲慢さについて進言したが、大公は逆にルークを気に入り、領主決定までルークによる統治を任せたのだ。

 ルークはそれを素直に受け、件のクエストを街の財源、ヴァンの遺した資産を使い発行していた。
 犯罪者の摘発に多くの手が入った事により、新しく刷新された警備兵達は、街の秩序を守るため、小さな違法の芽も取り締まることは出来た。

 かくして、コルマールの街に、昔と同じく良識と秩序の伴った風景が戻りつつあった。

「やっと、ここまで来たな」

 ルークは口から煙を吐きながらそう言った。
 その目は連日の夜更かしにより、隈ができており、顔にも疲労が見える。

「ルークちゃん。この書類に目を通してサインしてね」

 ミューが書類の束を持って、ルークの居る部屋に入ってきた。
 ララも一緒だ。

「マスター。クランの皆が、訓練場をもう少し大きくして欲しいって言ってたよ。また加入したいって人が増えて、訓練する場所が足りないんだって」

「だー! お前らは俺を過労死させる気か! ちったぁてめぇらも手伝え!」
「叫んじゃやーよ。ルークちゃん。私やララにサブマスターが務まるわけないでしょう? それに街の仕事はルークちゃんしか権限ないし」

「ちっ! 好きでやってる仕事だが、こうも多くちゃ回らんな。訓練場の件はカインに任せろ。クランの他の要望もひとまずカインに話すよう伝えろ。あいつなら必要だと思ったやつだけ、俺に通すだろう」
「分かったよ。でもカンちゃんそろそろ、娘ちゃんとソフィちゃんと一緒に旅に出るって言ってたよ?」

「なんだと?! あいつめ。俺がくそ忙しいってのにどういうつもりだ?」
「なんでも娘ちゃんの武器の素材を採りに行くんだって。あの時、娘ちゃんの武器折れちゃったでしょ?」

「ああ。そう言えばそうだったな。という事はミスリルか。市場に出回ることはほとんど無いから、採掘現場にでも行くのか?」
「そうみたい。私も一緒に行きたいなー。ルークちゃん、行ってきていい?」

「ふざけるな。お前は魔術師達の指導があるだろうが。俺もしばらくは動けん。お前らだけついて行くなど認めんぞ」
「あらあら。だめよララ。ルークちゃんには内緒で出かけて、旅先で手紙でも書いて知らせるつもりだったのに」

「てめぇもか。ミュー。お前もタンクの指導があるだろう。それに警備兵との連携もお前の仕事だ。投げ出すことは許さんぞ」
「分かってるわよー。ただちょと旅に出たいなーって、ほんとはカインちゃんと一緒にいたいなって思っただけよ」

「十分だめだろうが。それにしてもカインの野郎。補助系魔法はあいつの担当だったろうが。どうする気だ?」
「それがねぇ。カインちゃんの指導を受けた子、皆辞めちゃったのよね」

「なんだと? どういう事だ?」
「カインちゃん、教え方はすごく上手で、最初は人気があったんだけど、厳しすぎたみたいね」

「カンちゃんの訓練は鬼だよ! オーガだよ! 魔法に慣れるためって言って、毎日、魔力枯渇まで魔法を使わせるの。そもそも魔力枯渇なんて普通の状況でなれるはずないのに、そこまで魔力を使うんだーって」
「私はなった事ないから分からないんだけど、魔力枯渇に近付けば近付くほど、頭痛や吐き気が出て、普通の人なら失神するくらいらしいわよ。それを毎日やらせるんじゃあ、ね」

「おいおい。カインってそんなスパルタだったのかよ」
「なんでも、自分はこうやって教わったって言ってたよ。カンちゃんの師匠ってあのカリラなんでしょ? さすが最悪。やる事がえげつないね!」

「それを言うなら災厄でしょ。とにかく、カインちゃんの強さの秘密は少しわかった気がするけど、それを初心者に求めるのは酷よね」
「そういう訳で、教える相手がいなくなっちゃったから、旅に出るって言い出したのー」

「ちっ。それなら文句言うやつもいないのか。俺以外な。ひとまず俺の所に挨拶しに来たら、文句を言ってやる」
「あ! 噂をしたら、来たみたいだよ!」

 ドアをノックする音が聞こえ、カインがルークの部屋に入ってきた。
 サラとソフィも一緒だ。

「ルーク、折り入って話があるんだが」
「ララとミューから聞いた。旅に出るんだって?」

「聞いているなら話が早い。ああ。サラの武器と防具の素材を手に入れたくてね。本来は防具の分だけだったが、剣も必要になった。ヴァンの集めたものの中にもミスリル製のものはあったが、量が足りない」
「それだけが目的か?」

「相変わらず鋭いな。実はそれはついでで、本来の目的は、フェニックスを殺す方法を探すことだ」
「フェニックスだと? どういう事だ? 詳しく聞かせろ」

 カインはフェニックスとの出来事を詳細にルーク達に説明した。
 3人は驚きを隠せず、ただただ話を聞き入っていた。

「なるほどな。とんでもない頼みをされたもんだ。俺も戦ったことがあるが、あいつは不死身だ。危うく逆に焼き殺される所だった」
「やはり、普通の武器や魔法では無理か」

「ああ。だが、世界は広い。どこかにあいつの不死性を妨げる方法のヒントが転がってるかもしれん」
「そうだな。とりあえず当てもないが、色々と探してみるよ」

「分かった。俺も何か情報がないか、調べておくよう、クランのメンバーに言っておこう」
「それは助かる。それじゃあ、ルーク、ミュー、ララ。名残惜しいが、俺は行くよ」

「待て、カイン。これを忘れてるぞ」

 ルークが投げたものをカインが受け取る。
 それはカインの冒険者カードだった。

「間違いなく本物の冒険者カードだ。Sランクのな。これで俺らはお前の居場所が分かる。知ってるな? Sランクは自分の居場所を逐一ギルドに報告する義務がある。俺らも目処が着いたら旅に出る予定だ。その時にまた一緒に冒険するぞ」
「マスターほんと?! やったぁ! カンちゃんまた一緒に冒険できるね!」

「分かった。有難く貰っておくよ。本当は自分の力で取りたかったが、ルークから貰ったんなら文句はない。それに今は他の目的もあるしな。これも色々と役に立ってくれるだろう」
「ああ。それじゃあな。間違っても死ぬんじゃねぇぞ」

「ルークさん。お世話になりました。稽古つけてくださってありがとうございました」
「ララさん。ご指導ありがとうございました。おかげで新しい魔法も覚えましたし」

「ああ。サラ。お前はセンスがある。これからはもっと対人もこなせよ。素直過ぎる剣だけじゃなく、邪道も学べ。剣に善悪はない。強いか弱いか、それだけだ」
「ソフィちゃんは覚えが良くて楽しかったよー。また今度精霊さんのお話聞かせてね」

「あらあら。お姉さんに挨拶してくれる人はいないのかしら。寂しくてすねちゃおうかしら」
「ミュー。相変わらずだな。そう言えば言い忘れてたが、あの時、俺を見捨てず、運んでくれてありがとう。ミューのおかげで今俺は生きている」

 そう言うとカインはミューに握手をした。

「やーね。カインちゃん。こういう場合は、抱きしめるのがマナーよ。それに気にしないで。カインちゃんを見捨てるなんて、パーティの誰も出来るはずがないでしょう?」
「ああ、そうだったな」

 いつまでも居たい気持ちを抑え、カインは再度挨拶をすると、静かにルークの部屋を後にした。
 これから始まる、新たな自分の旅に想いを馳せながら。

 肩にとまっているマチが、私を忘れないでと言わんばかりにぴよっ! と一声、大きな声で鳴いた。


◇◇◇◇◇◇

いつも読んでいただきありがとうございます。
本日も遅くなり申し訳ありません。
明日からは平常運転になる予定です。

これにて3章おしまいです。
途中でてきた令嬢とお犬様はそのうち顔を出すはずです。
4章に出てくるかどうかはまだ秘密です。

最後になりますが、励みになりますので、少しでも面白いと思っていただけたら、お気に入り登録、感想をお願いします。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

無能だと追放された「雑用係」のハル、現代の知恵(ライフハック)を駆使したら、呪われた魔王城が聖域化して伝説の賢者と呼ばれ始めた

ユネ
ファンタジー
「君のような無能な掃除係は必要ない!」 勇者パーティーからゴミのように捨てられた雑用係のハル。だが彼女には、前世で培った【家事のプロとしてのライフハック】があった。 ​移り住んだのは、誰もが恐れる『呪われた魔王城』。しかしハルにとっては、ただの「掃除のしがいがある大型物件」に過ぎなかった! 重曹とクエン酸で呪いを浄化し、アルミホイルで魔物を除け、ジャガイモの皮で伝説の鏡を蘇らせる。 ​魔法より便利な知恵で、お城はいつの間にか世界一快適な聖域に。 一方、ハルを失った勇者たちは、汚部屋と化した拠点と自らの無知に絶望することになり――。 ​これは、一人の「掃除好き」が知恵と工夫だけで異世界に革命を起こし、最高のスローライフを手に入れるまでの物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...