辺境暮らしの付与術士

黄舞

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第4章

第61話

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すいません!登場人物の名前を2話にかけて間違って表記していました。
前話から登場した男はドムドムではなくボルボルです。
現長ではなく、次期長の方です。
大変失礼しました。
該当箇所を修正しました。

◇◇◇◇◇◇


 ボルボルは有無を言わさず、カインの胸ぐらではなく、鳩尾の辺りを掴み、その身長差を物ともせず、持ち上げた。
 カインは突然の出来事に狼狽える。

「すいません。どなたか存じませんが、何か誤解があるようです。ひとまず降ろしていただけませんか」

 既に怒っている相手には、とにかく丁寧に対応するに限る。
 幸い、この屈強な男は、怒りに任せてカインを持ち上げているものの、今すぐ殴り掛かることはしないようだと、カインには分かった。

「どなたか知らないだぁ? てめぇ、とぼけやがって。俺はボルボルだ。そういえば分かるか?!」
「え? ニィニィさんの夫の?」

「そうだ! やっぱり知っているんじゃねぇか! くそう! ニィニィの恩人だと思ってたが、とんだくそ野郎だ! 俺はな、ニィニィから妊娠の話を聞いた時、火の神が戻ってきてくれたくらい嬉しかったんだぞ? それなのに畜生! しかも次期長になるだぁ? 俺を差し置いてよくもそんなこと考えやがったな!」
「え? す、すいません。どうも話が見えてこないのですが・・・」

「いいか? 次期長になるためには、三つのことで国の皆に認められなくちゃいけねぇ。一つは強さ。国の皆を率先して守れるほど強い戦士じゃなきゃ、長は務められねぇ。そんなひょろい身体で俺に勝つ気があるんだろうな?」
「いえ。だから何か誤解が。次期長はあなたでしょう? 私はそんな気は」

「うるせぇ! つべこべ言わずに男ならその身体で話せ。今から重鎮を呼んで、儀式に則った方法で勝負だ。てめぇ、今更、逃げるなんて言わねぇな?」
「だから、逃げるも何も、私はあなたと戦う理由がないわけで」

「まだ言うか。分かった。俺との勝負を受けるなら、それでよし。もしそうじゃないなら、この国からすぐに出ていき、二度と顔を見せるな!」
「ええ?! それは困ります」

 その後、何度か押し問答が続いたが、結局カインは訳が分からずも、国から追い出されては困るので、ボルボルとの決戦を受けることにした。
 決戦の方法は、至ってシンプルで、公式の場、この場合は国の要職の半数以上が居る場で、相手を打ち負かせば勝ちとなった。

「お前は武器を持ってないようだから、そこから好きなものを選べ。どれもこの国の有数の鍛冶が造った業物だ。俺のこの斧の攻撃を受けても折れない。受けることが出来ればの話だがな」
「それではこの長剣を」

 カインが手に持った長剣は、見た目に反して非常に軽く、しかし、使い込まれているように見えて、刃こぼれ一つしていなかった。
 確かに業物に違いない。素材は恐らく鋼を主原料とした何かの合金だろう。Sランクの冒険者ですら、これほどの業物を所有している剣士はそう多くはないだろう。

「いいか? 先に言っておくが、もちろん相手を殺すのは禁止だ。だから安心しろ。お前は死ぬことはない」
「分かりました。相手が降参したら負けですね?」

「そうだ。もしくは相手の武器を壊すことが出来ても、勝ちだ。ドワーフにとって自身の武器は相棒だ。それを壊させるような使い方をするような奴はドワーフ失格だ」
「分かりました。お手柔らかにお願いします」

「ぬかせ!」

 その言葉を合図として、ボルボルは持っている両刃の斧を振り下ろした。
 カインは後ろに身を引くと、剣を構える。

 ボルボルが持っている斧は柄が長く、扱いは難しそうだが、その破壊力は目を見張るものがあった。
 振り下ろされた斧はそのまま地面に打ち付けられ、刃のほとんどは、その地面に埋まっていた。

「相手を殺すのは禁止じゃなかったんですか?」
「ふん。簡単そうに避けておいてよく言いやがる。呆けて当たりそうだったらちゃんと当たる前に止めてやったよ」

 ボルボルの膂力を持ってすれば、この長大な斧を思った所でピタッと止めることも訳ないことであった。
 それが如何に凄いことであるかは、今の一撃を見たカインにとっては明白だった

 カインは試しにと、左から右に振り払う攻撃を繰り出した。
 ちなみに、すでにカインは自身を強化する補助魔法を一通り唱えていた。

 ボルボルはカインの攻撃を、斧の柄で受け止めると、斧を回転させ、剣を上に押し上げながら、降ろした刃を振り上げた。
 カインは剣の動きに逆らわず、そのまま弧を描くように剣先を下に、自身の横に持ってくる。

 キンッ! 金属がぶつかりあう音が響き、そのままカインは数十cm横に身体を吹き飛ばされた。
 剣を持った手が痺れる。強化してもボルボルの攻撃を受け続けるのは危険だと理解した。

 攻撃は苛烈、防御もそつがない。ボルボルの力量を理解したカインは、意識を集中し、ボルボルの動きを読み取るために、視界に用いる魔力量を増大させた。
 これにより、ボルボルの力の流れ、意識の方向、呼吸の強弱すらカインには手に取るように分かった。

 ボルボルが攻撃を繰り返している。
 その攻撃は、ただの大振りではなく、この重量のある得物をよくそこまで器用に扱えると感心させるほど、様々な角度から、強弱をつけて放たれていた。

 カインはそのほとんどを避け、時々見せる、攻撃の始点とするためにわざと避けさせようとするような、力の籠っていない攻撃は逆に受けることによって、未だにボルボルに決定打を与えずにいた。
 一方、カインも隙をついて、攻撃は繰り出しているものの、自分の身長の半分程度しかない標的と、切れ味の良すぎるだろう剣を扱っているのにも関わらず、殺してはいけないという足枷を受け、なかなか有効な攻撃を与えることが出来なかった。

 国の重鎮達は、この様子を固唾を飲んで観戦していた。重鎮達だけではない。
 今や、その場にはほとんどのドワーフの国の男が居た。その顔には皆、驚きの表情が張り付いていた。

 ボルボルはこの国一番の戦士であった。
 現長も優秀な戦士であったが、ボルボルの強さは歴代の長の中でも群を抜いていた。

 実際、次期長を決めるための決闘を開催した際には、ボルボルの相手になる者など一人もいなかった。
 しかし、外から来た、この背だけ高くとも、筋肉の量はドワーフの子供にすら劣ると思われる男は、そのボルボルとすでに半刻以上もの間、戦闘を繰り広げていた。

 一見、攻撃の手数が多く、押している様に見えるボルボルだったが、その顔には焦りと疲れの表情が見え隠れしていた。
 いくら膂力に優れているとはいえ、この重量のある武器を自在に扱うには、半刻という時間は長かった。

 また、積み重なる空振りもボルボルの体力を奪っていった。
 空振り自体受け止められるよりも力を使うが、その隙をつくようなカインの攻撃を受けるため、武器の勢いを強引に止める、その行為が二重にボルボルを疲れさせていった。

 一方、カインは最小限の動きで避け、ボルボルの隙を狙っての攻撃も結果的に数は少なく、まだ余力を残していた。
 攻撃が通じていないことに苛立ちを感じたボルボルは、つい大振りの一撃を放ってしまった。

 横に薙ぎ払われたボルボルの斧を短いステップで、避けると、カインは元居た位置よりも少し前に身体を戻した。
 勢いの付き過ぎた斧の先端を制御するには、ボルボルの体力と疲弊した握力は足りなかった。

 少し、ほんの少しだが、腕が武器の動きにつられて、斜め前に引き伸ばされる。
 その瞬間をカインは見逃さなかった。

 剣の腹でボルボルの持ち手を強く打ち付ける。
 ボルボルはその衝撃に、持っていた斧を手放してしまった。

 すかさずカインは剣の刃をボルボルの首元に滑らせる。
 何が起こったか悟ったボルボルは、負けを認めると、両手を上に高く上げた。
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