辺境暮らしの付与術士

黄舞

文字の大きさ
69 / 133
第4章

第67話

しおりを挟む
 カインは街に戻ってからずっと山の方を視ていた。
 予想よりも多くの魔物が集まっていたが、中心にいるグリフォンの群れは、全く意に介さず、蹂躙を続けていた。

 恐らくあの群れよりも強力な魔物は、この山には存在しないだろう。
 すなわちそれは、カイン達が打つべき相手が、あのグリフォンの群れであることを意味していた。

 群れというのが厄介だった。
 強力な個体であれば、攻撃を受ける者、攻撃する者と役割を分担でき、安全な方法を取る事が出来るし、何より意識する相手が一つだけと言うのはやりやすい。

 しかし、群れではそうはいかない。
 全員が攻守を担わなければ行けないし、気を抜けば後ろから攻撃を食らうこともありえる。

 サポート役としてのカインの役割も飛躍的に跳ね上がる。
 数が多いようでは、瞬間的にかける魔法では間に合わないだろうから、事前にかけておく必要がある。

 そうなると、今度は参加する人数が問題になる。
 複数人に多種の補助魔法を唱えるためには、効果を弱めるか、時間を短くするしかない。

 通常のグリフォンならそれでもいけるかもしれないが、カインの観察では、群れの中央にいる、小さい個体と、常にそれを守るように動いている、3体は別格の強さに見えた。
 どうやら魔物寄せの付与魔法をかけたオリハルコンの欠片は、その群れの中心にいるグリフォンが持っているらしい。

 行方を追うことが出来るから、有難いことだし、他の魔物はそこを目指して移動するから、近辺の魔物の削減という意味では成功と言えた。
 カインは向かってくれているであろうルーク達のことを考え、あのグリフォン達をどうするか作戦を考えていた。



「それではルティ殿。今夜はこの村で一休みですぞ。明日にはドワーフの国に辿り着きますからな。さて、私はいつもの様に英気を養って来ますぞ。ああ。ルティ殿がその気になれば、いつでも御相手差し上げますぞ。はっはっは」

 ルティは無言で、自分の部屋へ入ると、そのままベッドに身を委ねた。
 ライヤンはいつもの様にルティの部屋に入り、既にベッドの上で丸くなっている。

 ルティ達が居る村は、既にドワーフの国の領地内なのだが、それを承知で山から採鉱するために作られた人間の村だった。
 ドワーフ達も存在は知っているものの、数で圧倒的に負ける人間と戦争を始める訳にもいかないので、文句はありながらも黙認している。

 今頃ジュダールは村の女を抱いているのだろう。
 子供ではないルティは、そういう行為についての知識はあるものの、本人には経験がなかった。

 出来るならば、最愛の人へ捧げたい。
 叶わぬならば、せめて淑女としての貞操は守りたいと考えていた。

 ジュダールと過ごすだけで、自分が何か汚れていくような錯覚を感じ、サラに会えるであろう明日を心待ちにしていた。
 この嫌な気持ちにさせられる旅も明日で終わり。

 そう自分に言い聞かせながら、旅から帰った後の父への苦言を、忘れぬよう、常日頃携帯している執筆道具で、書き連ねようと、ルティはベッドから出ると、机に向かった。
 一方、その頃ジュダールは自分の日々の楽しみを他人に邪魔された事を知り、憤慨していた。

「一人も娘がいないとはどういうことですぞ?! いくら小さい村とはいえ、一人もいないなんてことはありえないですぞ! いいから今すぐここに連れてくるのですぞ!」
「へぃ。旦那様。本当に今全員が出払ってまして。へぃ」

「それは一体どういうことですぞ? こんな辺鄙な所に、私より重要な客がいるとでも言うのですか?」
「へぃ。普段はこんな事ないんですが。旦那様。なんでも、随分な魔物を狩るとかで。凄腕の冒険者様達が大勢いらっしゃいまして。へぃ」

「なに? 冒険者ですと? あんな堕落した人種に私の楽しみを奪われたというのですぞ? 主人、そもそもその冒険者どもは何を狩りに集まっているのですぞ?」
「へぃ。なんでも、グリフォンクイーンが出たとか。わっしもよく分からないんですが、なんでも、随分な薬の原料になるとか言っとりました。へぃ」

「グリフォンクイーンですと? それは聞き捨てならないですぞ。主人、その冒険者達は今どこにいるのですか?」
「へぃ。この村には一つしかないんですが、西の方にある酒場で騒いでおります。女達も皆そこへ。へぃ」

 ジュダールは店を後にして、主人が伝えた酒場まで向かった。
 扉を開けるとそこには、馬鹿騒ぎを絵に書いたような喧騒が広っがっていた。

 ジュダールは鼻を摘みながら、眉根をひそめて冒険者達の方へ歩いていく。
 入口近くにいた冒険者がその様子に気付き、ジュダールの方を向く。腰の上には半裸の女性が乗ったままだ。

「なんだてめぇは。今ここは貸切だ。酒が飲みたいなら明日の朝にでも来るんだな」
「全く冒険者と言うのは、救いようのないクズですな。このような悪魔の飲み物を有難がって飲むなどと。臭くて鼻が曲がりそうですぞ」

 相変わらず本人には全く悪気は無いのだが、ここに居る冒険者全てを敵に回す発言は、当然看過されず、何人かの冒険者達は脇に置いた得物を手に持ち、ジュダールを威圧し始める。
 ちなみに、ジュダールは酒が全く飲めず、一度だけ入隊の祝いの席で、上官から勧められて飲んだ際、意識を失い、それを今でも話の種にされていた。

「ふむ。まぁ、頼りなげではありますが、この際仕方ないでしょうな。喜びなさい。グリフォンクイーンを討伐する指揮は私、ジュダールがやってやりますぞ」
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

無能だと追放された「雑用係」のハル、現代の知恵(ライフハック)を駆使したら、呪われた魔王城が聖域化して伝説の賢者と呼ばれ始めた

ユネ
ファンタジー
「君のような無能な掃除係は必要ない!」 勇者パーティーからゴミのように捨てられた雑用係のハル。だが彼女には、前世で培った【家事のプロとしてのライフハック】があった。 ​移り住んだのは、誰もが恐れる『呪われた魔王城』。しかしハルにとっては、ただの「掃除のしがいがある大型物件」に過ぎなかった! 重曹とクエン酸で呪いを浄化し、アルミホイルで魔物を除け、ジャガイモの皮で伝説の鏡を蘇らせる。 ​魔法より便利な知恵で、お城はいつの間にか世界一快適な聖域に。 一方、ハルを失った勇者たちは、汚部屋と化した拠点と自らの無知に絶望することになり――。 ​これは、一人の「掃除好き」が知恵と工夫だけで異世界に革命を起こし、最高のスローライフを手に入れるまでの物語。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...