辺境暮らしの付与術士

黄舞

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第4章

第74話

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 ミューが一体仕留めたのを見届けると、カインは最も多くのグリフォンを相手にしているルークとララに意識を集中した。
 ルークはその素早さと手数で、なんとか相手をしているが、いかんせん数が多いため、全てを相手取ることが出来ずにいる。

 そのため、ララは強力な魔法を唱えるための集中と詠唱時間を確保することが出来ずにいる。
 恐らくこの拮抗を打開するにはララの魔法が欠かせない、そう判断したカインは、自身を守ってくれているボルボルや、周囲にいるメンバーに指示を出した。

「今から数分間、私からの補助を期待しないでください! 防戦でいい! とにかくこの数分間を耐えてください!」

 カインはそう叫ぶと詠唱を始めた。

「あの野郎。何か面白いことでも思いついたか?」

 ルークは口の端を上げながら、襲い掛かるグリフォンの攻撃をいなしていた。
 カインが魔法を唱えると、ララに襲いかかろうとしたグリフォンが、見えない壁に阻まれ、弾き返された。

 グリフォンの放つ風魔法も、その壁に阻まれ、ララに届くことなく消滅する。
 ララを中心に球状の壁を作り上げたのだ。

「すごーい! カンちゃん、ありがと!」

 ララはカインの意図を読み取り、魔力を集中させ、詠唱を始めた。

「黄昏の紅。禍時の蒼。漆黒の闇よ。我、汝に願う。我、汝に誓う。我が前に立ち塞がりし、全ての生けるものに、等しく死の安らぎを」

 ララが詠唱を終えると、周囲にあった球状の壁は音もなく消え失せた。
 同時にララの杖先から、赤と青の珠が発生し、尾を引きながら互いを追うように空中でくるくると回り始めた。

 次第にふたつは混ざり合い、漆黒の闇に似た黒い霧状の塊となる。
 やがてゆっくりと前に動き出した。

 そこへ、一体のグリフォンが襲いかかってきた。
 見えない壁が消失したことに気付き、ララを狙って急降下してきたのだ。

 するとゆっくりと動いていた黒い霧状の塊は、急に速度を上げ、グリフォンに向け方向を変えた。
 まさか自分に向かって進路を変えるなどと思っていなかったグリフォンは、黒い塊に包まれた。

 派手な音が出るわけでも、強い光が出るでもなく、何事も無かったかのように、グリフォンの身体をすり抜けると、またゆっくりと次のグリフォン目掛けて飛んでいく。
 魔法を身体に受けたグリフォンは、ピクリとも動くことなく、そのまま地面に落ちていった。

 音と砂埃を上げながら落ちたグリフォンは、その生命活動を止めていた。
 その後も他の二体のグリフォンを次々と襲い、その身体を屍と変えると、音もなく文字通り霧散した。

「おいおい。普段よりも随分でかいな。それにグリフォン三体も一発で仕留めるとは。そんなに威力高かったか?」
「へっへー。カンちゃんのおかげだよ。このリング、私用にカスタマイズして貰ったからね」

 カインは三人のミスリルのアクセサリーに再度付与魔法をかける際、それぞれに応じた、カスタマイズをしていた。
 ララの場合は、魔法の効果の上乗せに重点が置かれていた。

 本来なら先程の魔法は、拳大ほどの塊を発生させ、触れたものの命を奪うという効果は変わらないが、魔力耐性の高いグリフォンなどには防止される可能性が極めて高かった。
 それがグリフォンをまるまる包むだけの塊で、三体ものグリフォンの命を奪うなどと言うのは、規格外と言っても過言ではない。

 周りのグリフォンの数が減ったおかげで、ルークは攻守のバランスを攻勢に変え、襲いかかってきたグリフォンの一体を切り刻み、絶命させた。
 ララも余裕が出来たのか、先程と同じとまでは言わないが、威力の高い魔法を放ち、グリフォン達の数を着実に減らしていった。

 カインはルーク達が拮抗を崩したことを確認すると、サラ達の方へ意識を向けた。
 こちらもルーク達と同じように、他のグリフォン達に混ざって、一体の強力なグリフォンがいるため、苦戦を強いられていた。

 カインはこれまで試したことの無い魔法の使い方をやってみることにした。
 それは慣れ親しんだ補助魔法のかけ方を、付与魔法に適用する試みだった。

 持続力ゼロの瞬発的な付与、それを付与魔法で行ってみようというのだ。
 予想通りになれば、一瞬だが、威力の高い付与が可能になるはずだ。

 カインはタイミングを合わせられるよう、注意深くサラ達の戦いに意識を向けながら、呪文を唱えた。
 サラの持つ長剣の剣先がグリフォンの脇腹を掠める瞬間、カインは魔法を解き放つ。

 グリフォンの切り口から炎が上がる。
 長剣に付与された精霊魔法と付与魔法の複合魔法の効果だ。

 先程までと同様、すぐに鎮火してしまうだろうと、サラもグリフォンも思っていた。
 しかし、燃え上がる炎は鎮火するどころか、勢いを増し、グリフォンの身体全体に広がった。

 炎に焼かれのたうち回るグリフォンだが、通常の炎とは違い、実態を持たないこの火は、地面の上を転げ回っても一向に勢いが衰えることなく、鼓動の動きを止めるまでその身を焦がした。
 やがて炎が消えると、そこには黒焦げになった一体の死体が転がっていた。
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