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第5章
第88話
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カイン達が宿を取り、求める船を持っていそうな造船所や船着場を回っている頃、街では一人の男がある悩みを抱えて歩いていた。
「ならば、これはどうだ? いや……そうするとここにしわ寄せが……」
筋骨隆々で日に焼けた身体は、見るからに海の漢である。
そんな彼は何かを考えているのだろうか、ブツブツと独り言を言いながら、通りを俯き加減に歩く。
ろくに前を見ていなかったのか、向こうから歩いてきた男と肩がぶつかった。
「痛てぇな! てめぇ! どこ見て歩いてんだ!」
「お? ああ、すまんな。少し考え事をしていて」
顔を上げた男の顔を見ると、ぶつかられた方の男は先程の威勢も失い、途端に丁寧な口調になる。
「あ! シバさんでしたか。すいません。俺も前をちゃんと見てなかったもんで……」
「ん? ああ。大丈夫だ。こっちもすまんな」
シバと呼ばれた男は、気にすることも無く、再び自分の思考へと落ちていく。
低姿勢になった男は、その去っていく姿に向かい、何度も頭を下げていた。
「結局、俺一人ではどうにもならんか……祖先よ。あなたは十分な魔力を持っていたと聞く。何故その力を私に宿してはくれなかったのか……」
シバは一度天を仰ぎ、そう嘆息すると、再び目的地へと歩いていった。
◇
「うーん。そう簡単に見つかるとは思っていなかったが、さすがにここまで無下にされるとは思ってなかったなぁ」
カインがこの街に数ある造船所に足を運び、リヴァイアサンと戦うことの出来る船を探していると伝えると、返ってきたのは嘲笑だった。
新たな大陸を探すために、外海へでても沈むことの無い船を作り続けているはずのこの街の職人ですら、伝説の魔物であるリヴァイアサンを倒すなどというのは、荒唐無稽に聞こえたのだろう。
ある者など、カインを気狂いだと馬鹿にし、頭の横で指を回してみせた。
切りかかろうとしたサラを止めるのが大変で、それを思い出すとカインはため息が出る。
いずれにしろ、一から作るほどの時間も出来るならかけたくないから、既に造られている船を見に行こうと、次に船着場に向かった。
そこには大小様々な船が所狭しと並んでいたが、結局船に関しては素人である三人には、どれが求める性能を持つのか、皆目検討もつかなかった。
「ちょっとすいません。少し伺いたいんですが」
「はいはい。こんな年寄りに何の用ですかな?」
分からないことは分かる人に聞いた方が早い。
そう思ったカインは、埠頭に腰掛ける、一人の老人に声をかけた。
老人の年はカインのふた周りはありそうだが、シワが深く刻まれた肌は褐色に焼かれ、座ったままでも体幹が鍛えられているのが分かるほど、しっかりとした格好で海の方を眺めていた。
カインには肌の色など分からないが、佇まいから、おそらく長年海に出ていた人だろうと思ったのだ。
「実は頑丈な船を探していましてね。ただあいにく素人で、どれがいい船なのか分かりません。もし良ければお知恵をおかしいただけませんか?」
「それはそれは。そんな頑丈な船をなんにお使いになるんですかな?」
「はい。ひどく真面目な話なんですが、リヴァイアサンを討伐しようと考えていまして」
「……ほう。リヴァイアサンですか……」
老人は突然立ち上がり、目線を合わせようと腰を曲げていたカインの顔を両手で挟み込み、まじまじと顔を覗き込んだ。
「お前さん。目が見えてないね?」
「はい。昔、冒険者だった頃に怪我をしまして」
「ふむ。見えないのにこの目ができるか……お前さんならできるかもしれんな。わしについて来なさい。ある男を紹介しよう」
老人は掴んでいた両手を離すと、カインの返事も待たずに歩き出した。
カインはサラ達に一度だけ顔を向けると、歳の割に足取りの確かな老人の後を、急いで追うことにした。
しばらく行くと、大きな造船所にたどり着いた。
おそらくこの街で一番大きな造船所で、カイン達も最初に訪れた場所だ。
三人だけで訪れた時は、忙しいの一言で、話も聞いてもらえなかったが、老人の後を歩くとみな丁寧に挨拶をしてきた。
どうやら、この老人はこの造船所の地位のある人らしい。
しばらくすると、造船スペースで何やら作図をしている一人の男いる所までやってきた。
「シバ! お前が探していた人物かもしれない人を連れてきたぞ!」
「マスター。今日はお出かけの予定では? それに、俺の探していた人物とは……」
マスターと呼ばれた老人は、シバという男にカイン達を紹介する。
会って間もない間柄なので、名前はおろか、どんな人物かも知らない老人は、ただ一言、リヴァイアサンを倒せる船を探している、と伝えた。
マスターと呼ばれたということは、この老人こそが、この造船所の長、ドッグマスターなんだろう。
シバはドッグマスターから、カイン達の紹介を受けると、訝しげな表情を向けてきた。
「リヴァイアサンを倒すだって? どうやって? そもそもなんのために?」
「すみません。もし私達が探している船を提供して頂けるなら、詳しく話しますが、そうでなければ話せません」
シバは丸太のように太い腕を組みながら少し考え込み、やがて、口を開いた。
「分かった。耐えきれる保証は出来ないが、この街で一番頑丈な船を造り上げられる自信はある。ただ色々と問題もあってな。それと、こっちもなかなかおおっぴらに出来ない事もある。まずはお互い話せる範囲で話してみないか? 結論はそれからでいい」
「ええ。それで構いませんよ。よろしくお願いします」
シバはゴツゴツとした右手をカインの前に差し出す。
カインはその手を握り返し、固く握手をした。
「ならば、これはどうだ? いや……そうするとここにしわ寄せが……」
筋骨隆々で日に焼けた身体は、見るからに海の漢である。
そんな彼は何かを考えているのだろうか、ブツブツと独り言を言いながら、通りを俯き加減に歩く。
ろくに前を見ていなかったのか、向こうから歩いてきた男と肩がぶつかった。
「痛てぇな! てめぇ! どこ見て歩いてんだ!」
「お? ああ、すまんな。少し考え事をしていて」
顔を上げた男の顔を見ると、ぶつかられた方の男は先程の威勢も失い、途端に丁寧な口調になる。
「あ! シバさんでしたか。すいません。俺も前をちゃんと見てなかったもんで……」
「ん? ああ。大丈夫だ。こっちもすまんな」
シバと呼ばれた男は、気にすることも無く、再び自分の思考へと落ちていく。
低姿勢になった男は、その去っていく姿に向かい、何度も頭を下げていた。
「結局、俺一人ではどうにもならんか……祖先よ。あなたは十分な魔力を持っていたと聞く。何故その力を私に宿してはくれなかったのか……」
シバは一度天を仰ぎ、そう嘆息すると、再び目的地へと歩いていった。
◇
「うーん。そう簡単に見つかるとは思っていなかったが、さすがにここまで無下にされるとは思ってなかったなぁ」
カインがこの街に数ある造船所に足を運び、リヴァイアサンと戦うことの出来る船を探していると伝えると、返ってきたのは嘲笑だった。
新たな大陸を探すために、外海へでても沈むことの無い船を作り続けているはずのこの街の職人ですら、伝説の魔物であるリヴァイアサンを倒すなどというのは、荒唐無稽に聞こえたのだろう。
ある者など、カインを気狂いだと馬鹿にし、頭の横で指を回してみせた。
切りかかろうとしたサラを止めるのが大変で、それを思い出すとカインはため息が出る。
いずれにしろ、一から作るほどの時間も出来るならかけたくないから、既に造られている船を見に行こうと、次に船着場に向かった。
そこには大小様々な船が所狭しと並んでいたが、結局船に関しては素人である三人には、どれが求める性能を持つのか、皆目検討もつかなかった。
「ちょっとすいません。少し伺いたいんですが」
「はいはい。こんな年寄りに何の用ですかな?」
分からないことは分かる人に聞いた方が早い。
そう思ったカインは、埠頭に腰掛ける、一人の老人に声をかけた。
老人の年はカインのふた周りはありそうだが、シワが深く刻まれた肌は褐色に焼かれ、座ったままでも体幹が鍛えられているのが分かるほど、しっかりとした格好で海の方を眺めていた。
カインには肌の色など分からないが、佇まいから、おそらく長年海に出ていた人だろうと思ったのだ。
「実は頑丈な船を探していましてね。ただあいにく素人で、どれがいい船なのか分かりません。もし良ければお知恵をおかしいただけませんか?」
「それはそれは。そんな頑丈な船をなんにお使いになるんですかな?」
「はい。ひどく真面目な話なんですが、リヴァイアサンを討伐しようと考えていまして」
「……ほう。リヴァイアサンですか……」
老人は突然立ち上がり、目線を合わせようと腰を曲げていたカインの顔を両手で挟み込み、まじまじと顔を覗き込んだ。
「お前さん。目が見えてないね?」
「はい。昔、冒険者だった頃に怪我をしまして」
「ふむ。見えないのにこの目ができるか……お前さんならできるかもしれんな。わしについて来なさい。ある男を紹介しよう」
老人は掴んでいた両手を離すと、カインの返事も待たずに歩き出した。
カインはサラ達に一度だけ顔を向けると、歳の割に足取りの確かな老人の後を、急いで追うことにした。
しばらく行くと、大きな造船所にたどり着いた。
おそらくこの街で一番大きな造船所で、カイン達も最初に訪れた場所だ。
三人だけで訪れた時は、忙しいの一言で、話も聞いてもらえなかったが、老人の後を歩くとみな丁寧に挨拶をしてきた。
どうやら、この老人はこの造船所の地位のある人らしい。
しばらくすると、造船スペースで何やら作図をしている一人の男いる所までやってきた。
「シバ! お前が探していた人物かもしれない人を連れてきたぞ!」
「マスター。今日はお出かけの予定では? それに、俺の探していた人物とは……」
マスターと呼ばれた老人は、シバという男にカイン達を紹介する。
会って間もない間柄なので、名前はおろか、どんな人物かも知らない老人は、ただ一言、リヴァイアサンを倒せる船を探している、と伝えた。
マスターと呼ばれたということは、この老人こそが、この造船所の長、ドッグマスターなんだろう。
シバはドッグマスターから、カイン達の紹介を受けると、訝しげな表情を向けてきた。
「リヴァイアサンを倒すだって? どうやって? そもそもなんのために?」
「すみません。もし私達が探している船を提供して頂けるなら、詳しく話しますが、そうでなければ話せません」
シバは丸太のように太い腕を組みながら少し考え込み、やがて、口を開いた。
「分かった。耐えきれる保証は出来ないが、この街で一番頑丈な船を造り上げられる自信はある。ただ色々と問題もあってな。それと、こっちもなかなかおおっぴらに出来ない事もある。まずはお互い話せる範囲で話してみないか? 結論はそれからでいい」
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