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第5章
第94話
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目の前に突如現れた伝説は、しっかりと二人を見据え、今にも襲いかかろうと筋肉を緊張させているように見えた。
カインとアオイは一瞬、息をするのも忘れて、ベヒーモスに見入っていたが、次の瞬間出来るだけ素早く、そして遠くへ飛び退いた。
一陣の風が吹き抜けたと思った瞬間、遅れて空圧による衝撃が二人を襲った。
二人が先程まで立っていた場所に積み重なっていた瓦礫を撒き散らしながら、ベヒーモスは恐るべき速度で突進をしたようだ。
『グルゥガァァァァァァ!』
駆け抜けた身体を素早く翻し、ベヒーモスは天に向かって身の毛もよだつような咆哮をあげた。
ベヒーモスにとってはただの声だが、それを聞いた者の意識を刈り取る、そんな咆哮に二人はなんとか耐え、生への執着に縋った。
ここにたどり着くまでに聞こえていた鳥のさえずり等は一切無くなり、森は驚く程静まり返っていた。
ベヒーモスの出現に、既に逃げたのか、それともベヒーモスが垂れ流す威圧感に、気を失ったのかどちらかだろう。
「アオイさん! おそらくベヒーモスを二人で倒すのは不可能です! なんとかして逃げましょう!」
「馬鹿言え! いくら人里から離れているとはいえ、少し行けば街もあるんだぞ! 俺に考えがある!」
叫び合う二人の声を遮るようにベヒーモスは再び咆哮し、鼻先を地面に向けた。
せり出した二本の角が赤黒く輝き、角の先端にエネルギーの塊の様なものが形成されていく。
「あれはまずい! あの部屋の裏に隠れろ!」
アオイが叫ぶと同時に、カインもアダマンタイトで作られた立方体へ疾走する。
既にカインは補助魔法で自身とアオイを強化済みだが、アオイは特に違和感なく対応出来ているようだ。
二人がベヒーモスの死角へ滑り込んだ瞬間、眩い光が起こり、ベヒーモスが放ったエネルギー弾の線上に存在した全てのものは塵と化した。
辛うじて、アダマンタイトが壁となり、カインとアオイは難を逃れた。
「ふぅ! これは災厄の魔女に礼を言わなきゃな。運良くこの部屋が無ければ、俺達も言葉の通り姿を消してたわけだ」
アオイは冗談っぽく恐ろしいことを言う。
これがアオイなりの場の落ち着かせ方なのだろう。
「それで、アオイさん。考えってなんですか?」
「ベヒーモスに出会って、生き延びた者が居ないって噂だけどな。あれは多分嘘だ。そうじゃなきゃあ、誰がベヒーモスの話を出来るんだ? それでな。昔聞いた話だと、あの二本の角を折ることが出来れば、道はあるらしい」
「どういうことですか?」
「あの角がベヒーモスの力の源らしい。それを折ることが出来れば、ベヒーモスは力を失うらしい。」
なるほど……とカインは頷き、ベヒーモスの頭部から突き出た一対の角に意識を集中した。
先程のエネルギー弾を放つ時はより顕著だったが、確かにあそこには恐ろしい程の魔力が蓄えられているようだ。
先程の技を使うと若干のインターバルが必要なのか、ベヒーモスはその場から動こうとする様子はなかった。
「しかし……あれを折るのは至難の業ですよ? 恐らく強度もこのアダマンタイトと同程度かと……」
「そこが問題なんだよな……正直、あの太さ、俺の剣技でもなんとか出来るかどうか……それに二本を同時にやらんと警戒されるだろうし。チャンスは一回だけだな……」
カインは今手元にある全てのものを、もう一度頭の中に思い浮かべた。
自分に出来ること、アオイが出来ること、この場にあるもの。
「アオイさん。成功する可能性は極めて低いかもしれませんが、なんとかなるかもしれません。後は、この短剣の強度次第ですが……」
「本当か? 残念だが、こればっかりは俺も案が思い浮かばない。カインさんの案に乗るぜ。どうせこのままじゃあ、二人してあの世行きだからな。それと、その短剣の強度を確かめるのなんて簡単だ。貸してみな」
アオイに言われ、カインは先程カリラの書斎から見つけた、一対の短剣のうち、一本をアオイに手渡した。
アオイは受け取ったそれを無造作に目の前の壁に強く打ち付けた。
硬いもの同士がぶつかる音が鳴り、アオイの腕はぶつかった衝撃の反動で後ろに弾かれる。
すぐさま短剣の刃先、アダマンタイトの壁に切り付けた部分を確認し、アオイはカインの方に見せた。
「見てみな。刃こぼれ一つしていない。驚いたが、この短剣の元となった素材はアダマンタイトに匹敵する強度らしい」
真面目な顔をするアオイに、カインはカリラの形見の品をもし折れたりしたらどうするかのか、などとは思わず、素直に感心した。
確かにベヒーモスの角の強度がアダマンタイト並であるならば、この短剣がアダマンタイトに打ち付けて折れる程度のものなら用をなさないのだ。
アオイは的確にカインが知りたいことの答えを、最も簡単で確実な方法で示した。
カインは今この場にこの熟練の冒険者と共に居れたこと、また、運良くこの手に必要な武器を渡らせてくれた養祖母に感謝した。
カインは即座に上空に向かって魔力を放った。
それはここに来る時に、ソフィに頼んでゼロに伝えておいた緊急時の合図だった。
上空を旋回していたゼロはすぐにその合図に気付き、カインの元へほぼ地面と垂直に滑空を始めた。
先程の技の影響が取れたのか、再びベヒーモスが動き出したのはその直後のことだった。
◇◇◇◇◇◇
いつも読んでいただきありがとうございます
更新遅れてすいません
度々宣伝で申し訳ありませんが、第12回ファンタジー小説大賞に応募中です。
残念ながら少しずつ順位を落としていますが、まだまだ希望は残っていると思っています
どうか、応援、投票お願いします
カインとアオイは一瞬、息をするのも忘れて、ベヒーモスに見入っていたが、次の瞬間出来るだけ素早く、そして遠くへ飛び退いた。
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ここにたどり着くまでに聞こえていた鳥のさえずり等は一切無くなり、森は驚く程静まり返っていた。
ベヒーモスの出現に、既に逃げたのか、それともベヒーモスが垂れ流す威圧感に、気を失ったのかどちらかだろう。
「アオイさん! おそらくベヒーモスを二人で倒すのは不可能です! なんとかして逃げましょう!」
「馬鹿言え! いくら人里から離れているとはいえ、少し行けば街もあるんだぞ! 俺に考えがある!」
叫び合う二人の声を遮るようにベヒーモスは再び咆哮し、鼻先を地面に向けた。
せり出した二本の角が赤黒く輝き、角の先端にエネルギーの塊の様なものが形成されていく。
「あれはまずい! あの部屋の裏に隠れろ!」
アオイが叫ぶと同時に、カインもアダマンタイトで作られた立方体へ疾走する。
既にカインは補助魔法で自身とアオイを強化済みだが、アオイは特に違和感なく対応出来ているようだ。
二人がベヒーモスの死角へ滑り込んだ瞬間、眩い光が起こり、ベヒーモスが放ったエネルギー弾の線上に存在した全てのものは塵と化した。
辛うじて、アダマンタイトが壁となり、カインとアオイは難を逃れた。
「ふぅ! これは災厄の魔女に礼を言わなきゃな。運良くこの部屋が無ければ、俺達も言葉の通り姿を消してたわけだ」
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「あの角がベヒーモスの力の源らしい。それを折ることが出来れば、ベヒーモスは力を失うらしい。」
なるほど……とカインは頷き、ベヒーモスの頭部から突き出た一対の角に意識を集中した。
先程のエネルギー弾を放つ時はより顕著だったが、確かにあそこには恐ろしい程の魔力が蓄えられているようだ。
先程の技を使うと若干のインターバルが必要なのか、ベヒーモスはその場から動こうとする様子はなかった。
「しかし……あれを折るのは至難の業ですよ? 恐らく強度もこのアダマンタイトと同程度かと……」
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「アオイさん。成功する可能性は極めて低いかもしれませんが、なんとかなるかもしれません。後は、この短剣の強度次第ですが……」
「本当か? 残念だが、こればっかりは俺も案が思い浮かばない。カインさんの案に乗るぜ。どうせこのままじゃあ、二人してあの世行きだからな。それと、その短剣の強度を確かめるのなんて簡単だ。貸してみな」
アオイに言われ、カインは先程カリラの書斎から見つけた、一対の短剣のうち、一本をアオイに手渡した。
アオイは受け取ったそれを無造作に目の前の壁に強く打ち付けた。
硬いもの同士がぶつかる音が鳴り、アオイの腕はぶつかった衝撃の反動で後ろに弾かれる。
すぐさま短剣の刃先、アダマンタイトの壁に切り付けた部分を確認し、アオイはカインの方に見せた。
「見てみな。刃こぼれ一つしていない。驚いたが、この短剣の元となった素材はアダマンタイトに匹敵する強度らしい」
真面目な顔をするアオイに、カインはカリラの形見の品をもし折れたりしたらどうするかのか、などとは思わず、素直に感心した。
確かにベヒーモスの角の強度がアダマンタイト並であるならば、この短剣がアダマンタイトに打ち付けて折れる程度のものなら用をなさないのだ。
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