辺境暮らしの付与術士

黄舞

文字の大きさ
102 / 133
第5章

第99話

しおりを挟む
「ちょっと、あんた達どういうつもり?!」

 問いかけも虚しく第二陣の矢が雨のようにソフィを襲う。
 短く詠唱したソフィの目の前に突風が吹き抜け、矢を空中へと撒き散らした。

「念の為、もう一度だけ言うわよ? あんた達正気?」

 虚ろな目をしたエルフ達は既に次の矢を継ぎ、三度目となる攻撃を繰り出した。
 先程と同じように一陣の風が吹き矢を吹き飛ばし、その後を追うように巨大な風の刃がエルフ達の立つ木々を根元から切り裂く。

 折り重なるように倒れゆく木々。
 生い茂る枝や幹に押し潰されぬよう、安全な土地へと移るため、エルフ達は空中へと身を投げた。

 そこへ襲いかかる迅雷。
 その身に受けた雷は身体の自由を奪い、不格好な姿のまま地面へと落ちていく。

 地面に打ち付けられる瞬間ふわりと優しい風がエルフ達を包み込む。
 見えない腕に抱き抱えられるかのようにエルフ達は優しく地面へと着地した。

「ちょっとやりすぎちゃったかもしれないけど、まだ意識はあるわよね?」

 未だに身動きの取れないエルフ達に近付き、ソフィはエルフの真意を知るため、三度目の問いかけをした。
 まだ雷の影響でまともな動きは出来ないものの、意識ははっきりしているはずのエルフ達からは返事は無かった。

 仕方なく地面にうずくまっているエルフ達をひとまとめにして再び襲ってこれないよう、手足をそこら辺から手に入れた蔓で結ぶ。
 その間に何度かエルフ達の顔を間近で見たが、やはり目の焦点が合っていないようで、正気では無いようだった。

「ふぅ。ひとまずこんなところかしら。襲われたってことはここから近くにエルフの集落があるってことよね?」

 ソフィはひとまずこの場でこの訳の分からないエルフ達から情報を得るよりも、集落で集めた方が早いと判断した。
 問題は拘束したエルフ達をどうやって運ぶかだった。

「一応、気を使ってたけど、向こうから攻撃してきたんだから、もういいわよね」

 そういうとソフィは呪文を唱え、先程と同じ様に目の前の木々をなぎ倒していく。
 数回唱えた後には、それなりの幅に障害物が覗かれた道が形成されていた。

 倒れた巨木からそれなりの厚みのある板を風の魔法で切り出し、その上へエルフ達のを乗せていく。
 最後の呪文を唱えると、絶え間なく吹きあがる風のおかげで、板が僅かに浮かび上がる。

 先端に括りつけられた蔓を引くと、複数のエルフ達が乗っているのにも関わず、ほとんど無抵抗に板が動き出した。

「うん。これで運べる。風の精霊って便利ね」

 ソフィが運んでいる間も、板の上のエルフ達は虚ろな目をしたまま無言で中空を眺めていた。
 後ろ手に縛られた腕を力任せに動かそうとするため、手先は鬱血し赤く変色していた。

 やがて一周歩くのに半日かかる程度の大きさの集落が見えてきた。
 森と上手く共生し、木々の間に住居を建築しているような不思議な作りの集落だった。

 ある家は地面に建ち、またある家は太い枝の上に建てられていた。
 大きさも様々で、家があったところに木が生えたのか、木があるところに家を建てたのか分からないが、屋根から幹が突き出た家も複数あった。

 どうやらこの中にいるエルフ達も友好的ではないようだ。
 集落の中の木々や家から、複数のエルフ達が再び弓を持ちソフィを狙っていた。

 近くにいるエルフの顔を見るとどうやらこちらも焦点があっていないように見える。

「しょうがないわねぇ……あっちがその気ならこっちだって……」

 ソフィはおもむろに呪文を唱え始めた。
 先行のエルフ達だけが敵意を向けただけなら話し合いの目処がつくかと期待したが、この有り様を見ればそれも無可能だろう。

 殺すことはしないが武力で黙らせる。結果として死んだとしてもそれは止むを得ない。
 それしか無いと、冒険の日々を過ごしたソフィの頭の中で何かが囁く。

 一瞬コルマールに居るであろう、自分の師匠の顔が浮かんだ。
 自分よりも小さな、そしてとても大きなエルフの師匠。

 自分の倍どころかどれだけの年齢なのか誰も知らないが、ころころと変える表情はまるで少女のようだ。
 もし目的を達成した後クランに戻って、この話を師匠のララに笑ってできるだろうか。

「えーい! 全部師匠が悪いのよー!!」

 そういうとソフィは集落全体を覆い尽くす広範囲電撃を放った。
 爆音が鳴り響き、外に出ているものはその電撃に晒されみな地にひれ伏した。

「なんじゃ? 今度は何事じゃ?!」

 一番近くの小さめの家の扉が勢いよく開き、エルフの女性が一人外を窺う。
 そのエルフと目が会い、二人とも固まってしまった。

 エルフの女性は髪は艶のある銀髪を長く伸ばし、端正な顔の中にある大きめのくりっとした目が特徴的だった。
 乗り出した上半身から窺い知れるだけでもスラリとした長身で、エルフの戒律にそって素肌をなるべく見せないゆったりとしたローブを着ているが、胸元には女性のソフィでも恥ずかしくなるほどの豊満な膨らみが強調されている。

「あなた! 話が通じるのね? ここのエルフ達はどうなっているのよ?! 話は通じない、問答無用で攻撃を仕掛けてくる。しまいにはみんな目が虚ろだわ。何か知っているなら教えてちょうだい!」
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

無能だと追放された「雑用係」のハル、現代の知恵(ライフハック)を駆使したら、呪われた魔王城が聖域化して伝説の賢者と呼ばれ始めた

ユネ
ファンタジー
「君のような無能な掃除係は必要ない!」 勇者パーティーからゴミのように捨てられた雑用係のハル。だが彼女には、前世で培った【家事のプロとしてのライフハック】があった。 ​移り住んだのは、誰もが恐れる『呪われた魔王城』。しかしハルにとっては、ただの「掃除のしがいがある大型物件」に過ぎなかった! 重曹とクエン酸で呪いを浄化し、アルミホイルで魔物を除け、ジャガイモの皮で伝説の鏡を蘇らせる。 ​魔法より便利な知恵で、お城はいつの間にか世界一快適な聖域に。 一方、ハルを失った勇者たちは、汚部屋と化した拠点と自らの無知に絶望することになり――。 ​これは、一人の「掃除好き」が知恵と工夫だけで異世界に革命を起こし、最高のスローライフを手に入れるまでの物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...