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第1章
第1話【ネタ職『商人』】
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床に置かれた懸賞品のダンボールを眺めながら、俺はにやにやが止まらなかった。
貼られている伝票の宛名にはもちろん俺の本名、商山人志の文字。
買う金なんて逆立ちしてもひねり出すことの出来ない目の前の中身を、俺は慎重に取り出す。
箱の中身は「インフィニティ・オンライン」と言う正式版が公開されたばかりのVRMMORPGゲームと、それを起動させるゲーム機一式だった。
これを買うだけで十万はくだらない。
これをプレイしているという事実だけで、俺から見れば金持ち認定待ったナシだ。
しかし、先月まで何度か行われたオープンβの反響で、このゲームは数あるVRMMOの中でもトップの人気と注目度で迎えられた。
「とにかく完成度と自由度が他の別格ってネットに書いてあったしなー。しかし、もしこれ新品で今売ったら一年分の食費になるんじゃ……」
俺はせっかく当たったゲーム機とゲームを見ながらそんなことを思ってしまった。
「いや。だめだだめだ。俺はせめてVRの世界だけでも金持ちを、大金持ちの気分を楽しむって決めたんだから」
生まれてから今までゲームなどとはほぼ無縁の日々を過ごしていた。
VRゲームなんてやるのはもちろん初めてだ。
学校の友人やネットの情報では、ゲーム内ではかなり自由に過ごすことができるらしい。
その中の経験はまるで本物と間違えるほどにリアリティに溢れているという。
「えーっと、よく分からないけどこれをこうセットすればいいのかな?」
初心者の俺は説明書に従いゲームギアをセットした後、緊張の瞬間を迎えていた。
「よ、よーし。とにかく金を稼ぎまくって、ゲームの中だけでも豪遊するぞー!」
勢いよくスイッチを入れると、まるで眠りに落ちるような錯覚を覚えた。
☆
「『インフィニティ・オンライン』の世界へようこそ! 私はナビゲーターのサキです。まずはキャラメイクをどうぞ」
気が付くと俺は真っ白い空間にいた。
目の前には手のひらほどの大きさの妖精が飛んでいる。
俺は目の前に現れた画面の項目をひとつずつ埋めていく。
初めての経験で多少戸惑ったが、ナビゲーターというこの妖精に言葉で質問すると丁寧に答えてくれた。
「名前はショーニン、でいいかな。慣れたあだ名だし。えーと見た目はこんなんでいいか」
画面に映し出されたのは、一匹の人懐っこそうな犬の顔をした獣人だった。
このゲームはキャラメイクの自由度も高く、様々なファンタジーの世界の生き物、あくまで人型だけだが、になることが出来る。
「これでよろしいですか?」
俺は迷うことなく「はい」を選択する。
あくまで見た目、強さなどには一切影響しないことは確認済みだ。
「それではショーニン様。次に職業を選択してください」
そう言われて見た画面には無数の職業が並んでいる。
俺は迷うことなくその中から「商人」を選んだ。
「これでよろしいですか?」
同じ質問に俺は再度「はい」を選択する。
俺はこのゲームの前情報でこの職業をやることを決めていた。
最後のオープンβの後の書き込みを見て、もしやるならこの職業しかない、と思った。
その書き込みに添付されていた画像には、おそらく当時でトップレベルの大金を持ったキャラが映されていた。
その職業が「商人」だった。
しかもトップランカーと言われていたキャラたちのレベルは、当然の事ながら当時のレベル上限の40だったが、そのキャラはなんとレベル10だった。
書き込み内容は「商人ってマジでぼろ儲け出来る。このレベルでこの資産wwww」だった。
それを見た時俺は震えた。
「それではこれからショーニン様を『インフィニティ・オンライン』の世界へとお送り致します。これでもう変更は出来ませんが、本当によろしいですか?」
「ああ。さっさと始めたくてうずうずしてるんだ。始めてくれ」
「かしこまりました。それでは心ゆくまで『インフィニティ・オンライン』の世界をお楽しみください」
そう言い終わると、ナビゲーターは消え、白一色だった周りの景色が崩れ始めた。
そして現れたのは、賑やかで恐ろしいまでに精巧な街並みと、そこで共にこのゲームを楽しむ数多くのプレイヤーの姿だった。
「うわぁぁぁ。まじかよ。こりゃすげぇな」
まさに本物と間違うような建物や目の前にいる人々の見た目。
ちょうどガラスのショーウィンドウがあったので自分の姿を写してみた。
「おー。本当に獣人になってる! 耳も尻尾もあるし。おお! 触るとめちゃくちゃ手触りいいな!」
「おい。あんた。今日が初めてだよな? それにしてもその見た目、勇気あんなー」
突然話しかけられて俺は驚きながら後ろを振り向いた。
そこには格好のいい装備を身にまとったイケメンの男がいた。
「え? そうだけど。この見た目がどうかしたのか? 勇気あるって?」
「あれ? 珍しく前情報無しで始めるタイプ? それはそれで勇気というか無謀というか……その見た目ってさ、人間じゃないじゃん。普通選ばないんだよね」
おかしな事を言い出すやつだな。
ゲームなんだし、せっかく人間以外も選べるんだからそれを選ぶのが普通なんじゃないのか?
そういえば、周り見てもみんな見た目は良いが、ほとんど人間だな。
たまに耳が長くとんがっているやつもいるけど。
「なんで人間以外選ばないんだ? 見た目と強さは関係ないんだろう?」
「そうだよ。でもさ。これってゲームなわけ。モンスターを狩るさ。で、キャラメイクで選べる獣人って全部モンスターとして出てくるんだよね」
「うん? それがどうかしたのか?」
「あちゃー。あんた、オンラインゲーム自体初めて? PKって知らないの?」
「それはなんか書き込みで見たな。プレイヤーがプレイヤーを殺すことだろ?」
「なんだ知ってんじゃん。そしたら、街の中はいいとして、そんな格好で外歩いてたらモンスターと間違われて殺される危険があるって分かるよね?」
そこまで言われて俺はようやく理解した。
このゲームは自由度が高いと言っても、モンスターを狩ることがメインのゲームなのは違いない。
俺がのほほんと外を歩いていたら見た目に勘違いして殺しにくるプレイヤーがいるってことか。
でもそんなことネットのどこにも書いてなかったぞ?
「正式版が発表されてからさ。結構そう言う事故があって書き込み相当あったんだけど見てないの?」
しまった!
まさか懸賞が当たるなんて思わなかったから、懸賞出したあとはネットで調べるなんてしてなかった。
「まぁ。あくまで人間の見た目よりも襲われやすいってだけだけどね。意図的にPKやってくるやつは見た目なんて気にしないし。強ければ返り討ちにできるしね」
「ああ。それなら大丈夫。戦闘はガチでするつもりないから。俺は商人で金を稼いで豪遊するのが目的なんだ」
「は……?」
イケメンは目を丸くして一瞬放心状態になった。
それを見て俺も何が起きたのかと言葉を失い、二人に妙な間が出来てしまった。
「え? ねぇ。それ本気で言ってる? 嘘でしょ? あはははははは!!」
「なんだよ。何がおかしい。獣人がPKで危ないってのはたしかに知らなかったけど、商人のぼろ儲けはちゃんと見たんだからな」
「あー、あははははは! あれね。まじか。あんた、いいね。俺そういうの好きだよ。あはははははは!」
イケメンは笑いが止まらず苦しそうにしながら、なおも腹を抱えている。
「あー。ごめん。最近で一番笑ったよ。お礼にいいことを教えてあげるね。あれね。ネタだから」
「は?」
「あれやったのジェシーさんでしょ? トップランカー。β版はいつでも自由に職業変えれたんだよ。変えるとレベルが1からやり直しだけどね。だからあんなことする人なんてあの人しかいないけど」
「え? どういうことだ?」
「だから。あの金はさ。ジェシーさんが本職で稼いだお金。もちろんレベルはとっくにカンストしてたよ。それで、β版終了間際に、ジョブチェンジしてスクショしたわけ」
「う……嘘だろ?」
「β版参加者では有名なネタだよ。本人もまた職変えて楽しんでるし。商人であの額稼ぐのは無理だよ。っていうか、まともなプレイも無理じゃないかなー?」
「そんな!? あ、じゃあ俺も今から職業変えればいいのか! 簡単に金を稼げる職業を教えてくれ!」
笑って涙を貯めていたイケメンの目がすっと鋭くなったのを俺は感じた。
「無いよ。そんなの。オンラインゲームってさ、やればやっただけ強くなるし、強くなった人が稼げるんだよね。あと、クレクレ君は嫌いだな」
突然の豹変ぶりに俺は寒気を覚えた。
どうやら俺はこのイケメンの地雷を踏んだらしい。
「あと、正式版は一回決めたら職業変更できないんだよね。アバターから作り直し。そっちの方がいいんじゃない? 見た目も変えれるし」
「あ、そうか。ありがと。やってみるよ」
じゃあね、と手を振って去るイケメンをしり目に、俺は設定画面を開くとアバターの変更を押そうとして指を止めた。
「え? なにこれ。新しいキャラの枠作るのって金がかかるの!? なんだよそれええぇぇぇぇ!!」
始まりの街、インフィニティタウンに俺の絶叫が響き渡った。
貼られている伝票の宛名にはもちろん俺の本名、商山人志の文字。
買う金なんて逆立ちしてもひねり出すことの出来ない目の前の中身を、俺は慎重に取り出す。
箱の中身は「インフィニティ・オンライン」と言う正式版が公開されたばかりのVRMMORPGゲームと、それを起動させるゲーム機一式だった。
これを買うだけで十万はくだらない。
これをプレイしているという事実だけで、俺から見れば金持ち認定待ったナシだ。
しかし、先月まで何度か行われたオープンβの反響で、このゲームは数あるVRMMOの中でもトップの人気と注目度で迎えられた。
「とにかく完成度と自由度が他の別格ってネットに書いてあったしなー。しかし、もしこれ新品で今売ったら一年分の食費になるんじゃ……」
俺はせっかく当たったゲーム機とゲームを見ながらそんなことを思ってしまった。
「いや。だめだだめだ。俺はせめてVRの世界だけでも金持ちを、大金持ちの気分を楽しむって決めたんだから」
生まれてから今までゲームなどとはほぼ無縁の日々を過ごしていた。
VRゲームなんてやるのはもちろん初めてだ。
学校の友人やネットの情報では、ゲーム内ではかなり自由に過ごすことができるらしい。
その中の経験はまるで本物と間違えるほどにリアリティに溢れているという。
「えーっと、よく分からないけどこれをこうセットすればいいのかな?」
初心者の俺は説明書に従いゲームギアをセットした後、緊張の瞬間を迎えていた。
「よ、よーし。とにかく金を稼ぎまくって、ゲームの中だけでも豪遊するぞー!」
勢いよくスイッチを入れると、まるで眠りに落ちるような錯覚を覚えた。
☆
「『インフィニティ・オンライン』の世界へようこそ! 私はナビゲーターのサキです。まずはキャラメイクをどうぞ」
気が付くと俺は真っ白い空間にいた。
目の前には手のひらほどの大きさの妖精が飛んでいる。
俺は目の前に現れた画面の項目をひとつずつ埋めていく。
初めての経験で多少戸惑ったが、ナビゲーターというこの妖精に言葉で質問すると丁寧に答えてくれた。
「名前はショーニン、でいいかな。慣れたあだ名だし。えーと見た目はこんなんでいいか」
画面に映し出されたのは、一匹の人懐っこそうな犬の顔をした獣人だった。
このゲームはキャラメイクの自由度も高く、様々なファンタジーの世界の生き物、あくまで人型だけだが、になることが出来る。
「これでよろしいですか?」
俺は迷うことなく「はい」を選択する。
あくまで見た目、強さなどには一切影響しないことは確認済みだ。
「それではショーニン様。次に職業を選択してください」
そう言われて見た画面には無数の職業が並んでいる。
俺は迷うことなくその中から「商人」を選んだ。
「これでよろしいですか?」
同じ質問に俺は再度「はい」を選択する。
俺はこのゲームの前情報でこの職業をやることを決めていた。
最後のオープンβの後の書き込みを見て、もしやるならこの職業しかない、と思った。
その書き込みに添付されていた画像には、おそらく当時でトップレベルの大金を持ったキャラが映されていた。
その職業が「商人」だった。
しかもトップランカーと言われていたキャラたちのレベルは、当然の事ながら当時のレベル上限の40だったが、そのキャラはなんとレベル10だった。
書き込み内容は「商人ってマジでぼろ儲け出来る。このレベルでこの資産wwww」だった。
それを見た時俺は震えた。
「それではこれからショーニン様を『インフィニティ・オンライン』の世界へとお送り致します。これでもう変更は出来ませんが、本当によろしいですか?」
「ああ。さっさと始めたくてうずうずしてるんだ。始めてくれ」
「かしこまりました。それでは心ゆくまで『インフィニティ・オンライン』の世界をお楽しみください」
そう言い終わると、ナビゲーターは消え、白一色だった周りの景色が崩れ始めた。
そして現れたのは、賑やかで恐ろしいまでに精巧な街並みと、そこで共にこのゲームを楽しむ数多くのプレイヤーの姿だった。
「うわぁぁぁ。まじかよ。こりゃすげぇな」
まさに本物と間違うような建物や目の前にいる人々の見た目。
ちょうどガラスのショーウィンドウがあったので自分の姿を写してみた。
「おー。本当に獣人になってる! 耳も尻尾もあるし。おお! 触るとめちゃくちゃ手触りいいな!」
「おい。あんた。今日が初めてだよな? それにしてもその見た目、勇気あんなー」
突然話しかけられて俺は驚きながら後ろを振り向いた。
そこには格好のいい装備を身にまとったイケメンの男がいた。
「え? そうだけど。この見た目がどうかしたのか? 勇気あるって?」
「あれ? 珍しく前情報無しで始めるタイプ? それはそれで勇気というか無謀というか……その見た目ってさ、人間じゃないじゃん。普通選ばないんだよね」
おかしな事を言い出すやつだな。
ゲームなんだし、せっかく人間以外も選べるんだからそれを選ぶのが普通なんじゃないのか?
そういえば、周り見てもみんな見た目は良いが、ほとんど人間だな。
たまに耳が長くとんがっているやつもいるけど。
「なんで人間以外選ばないんだ? 見た目と強さは関係ないんだろう?」
「そうだよ。でもさ。これってゲームなわけ。モンスターを狩るさ。で、キャラメイクで選べる獣人って全部モンスターとして出てくるんだよね」
「うん? それがどうかしたのか?」
「あちゃー。あんた、オンラインゲーム自体初めて? PKって知らないの?」
「それはなんか書き込みで見たな。プレイヤーがプレイヤーを殺すことだろ?」
「なんだ知ってんじゃん。そしたら、街の中はいいとして、そんな格好で外歩いてたらモンスターと間違われて殺される危険があるって分かるよね?」
そこまで言われて俺はようやく理解した。
このゲームは自由度が高いと言っても、モンスターを狩ることがメインのゲームなのは違いない。
俺がのほほんと外を歩いていたら見た目に勘違いして殺しにくるプレイヤーがいるってことか。
でもそんなことネットのどこにも書いてなかったぞ?
「正式版が発表されてからさ。結構そう言う事故があって書き込み相当あったんだけど見てないの?」
しまった!
まさか懸賞が当たるなんて思わなかったから、懸賞出したあとはネットで調べるなんてしてなかった。
「まぁ。あくまで人間の見た目よりも襲われやすいってだけだけどね。意図的にPKやってくるやつは見た目なんて気にしないし。強ければ返り討ちにできるしね」
「ああ。それなら大丈夫。戦闘はガチでするつもりないから。俺は商人で金を稼いで豪遊するのが目的なんだ」
「は……?」
イケメンは目を丸くして一瞬放心状態になった。
それを見て俺も何が起きたのかと言葉を失い、二人に妙な間が出来てしまった。
「え? ねぇ。それ本気で言ってる? 嘘でしょ? あはははははは!!」
「なんだよ。何がおかしい。獣人がPKで危ないってのはたしかに知らなかったけど、商人のぼろ儲けはちゃんと見たんだからな」
「あー、あははははは! あれね。まじか。あんた、いいね。俺そういうの好きだよ。あはははははは!」
イケメンは笑いが止まらず苦しそうにしながら、なおも腹を抱えている。
「あー。ごめん。最近で一番笑ったよ。お礼にいいことを教えてあげるね。あれね。ネタだから」
「は?」
「あれやったのジェシーさんでしょ? トップランカー。β版はいつでも自由に職業変えれたんだよ。変えるとレベルが1からやり直しだけどね。だからあんなことする人なんてあの人しかいないけど」
「え? どういうことだ?」
「だから。あの金はさ。ジェシーさんが本職で稼いだお金。もちろんレベルはとっくにカンストしてたよ。それで、β版終了間際に、ジョブチェンジしてスクショしたわけ」
「う……嘘だろ?」
「β版参加者では有名なネタだよ。本人もまた職変えて楽しんでるし。商人であの額稼ぐのは無理だよ。っていうか、まともなプレイも無理じゃないかなー?」
「そんな!? あ、じゃあ俺も今から職業変えればいいのか! 簡単に金を稼げる職業を教えてくれ!」
笑って涙を貯めていたイケメンの目がすっと鋭くなったのを俺は感じた。
「無いよ。そんなの。オンラインゲームってさ、やればやっただけ強くなるし、強くなった人が稼げるんだよね。あと、クレクレ君は嫌いだな」
突然の豹変ぶりに俺は寒気を覚えた。
どうやら俺はこのイケメンの地雷を踏んだらしい。
「あと、正式版は一回決めたら職業変更できないんだよね。アバターから作り直し。そっちの方がいいんじゃない? 見た目も変えれるし」
「あ、そうか。ありがと。やってみるよ」
じゃあね、と手を振って去るイケメンをしり目に、俺は設定画面を開くとアバターの変更を押そうとして指を止めた。
「え? なにこれ。新しいキャラの枠作るのって金がかかるの!? なんだよそれええぇぇぇぇ!!」
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