インフィニティ・オンライン~ネタ職「商人」を選んだもふもふワンコは金の力(銭投げ)で無双する~

黄舞

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第2章

第33話【敏捷極振り】

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「それで。結局お前は何がしたいんだ? 別に俺に恨みがある訳じゃないんだろ?」
「ああ! むしろ感謝してるくらいだ!! ステ振りに失敗したと絶望してた時に、お前の噂が聞こえてきてやる気になれた」

 葵と名乗った女の子は、今俺らと一緒にヒミコの用意してくれたティーセットでお茶を飲んでいる。
 ゲーム内でこういう経験は初めてだったようで、ヒミコ特製のカフェみたいな作りのアトリエを物珍しそうにキョロキョロしながら、幸せそうな顔でお茶を味わっている。

 そういえば、俺も久しぶりだったから、ヒミコのアトリエを『工房』なんて呼んでしまったが、何故かめちゃめちゃ怒られたので、今後は気を付けよう。
 まぁ、俺の頭の中なんて分かるやつがいたら怖いけどな。

「ステ振りって俺のステータスなんて、知らない奴に教えたことなんか無いはずだが?」
「うん? 知らないのか? 魔人ロキが上げた動画があっただろう。アレの内容を考察するサイトが立つくらい人気の」

 ロキが上げた動画ってことは、俺が一人でダンジョンをクリアする時に同行して撮ってもらったやつかな?
 でも、あの時もステ振りについては説明はしてなかったはずだ。してなかったよな……?

「ロキの目線の動画だが、モンスターの情報がありえないくらい詳細に見えてた。職業的にロキのステータスの効果とは思えない。そして今のところそんな効果の装備もない」
「お、おう……」

「色んな人が情報出し合って、最終的にアレは知識の効果であることは間違いなく、かつ誰が試してもそこまでの情報を出せることは出来なかった。つまり、装備も含めて、ショーニン。あんたは知識極振りだってことだ」
「まじかよ……解析班って本当にいるんだな。気を付けよう」

 ネットの世界を俺は舐めていたようだ。
 何気なく書いたことや載せた画像から簡単に身バレすることもあるって言うしな。

 さすがに現実世界にまで影響が出たら困るから、今後軽々しくネットで何かを言うことは控えよう……。
 俺はそう心に刻んだ。

「まぁ、俺のステ振りを想像したのは分かった。それで。それがなんでお前の役に立たんだ? どう考えたって、知識極振りじゃないよな? ……ないよな?」
「まさか! 【武道家】で知識極振りする馬鹿がどこにいるんだよ。私は全て敏捷に振っていたんだ。武道家って言ったら素早いイメージだろ? でもな、上手くいかなかった」

 葵の話は単純だった。
 まさにイメージで全て敏捷に振った葵は、回避と命中率が高く、最初の頃は苦もなく敵を倒すことが出来た。

 気を良くした葵はその後も全て敏捷につぎ込んでいったらしい。
 装備もなるべく敏捷が上がるものを選んで手に入れたんだとか。

 初めの頃はそれで良かった。
 力を上げないと物攻は上がらないが、武器と敏捷から得た手数で何とかなったらしい。

 知らなかったが、敏捷を上げていくと数値に応じてクールタイムの短縮効果が得られるらしい。
 元々【武道家】は豊富な攻撃スキルを持ち、絶え間ないコンボを与えるのが持ち味らしいので間違いではないのかもしれない。

「それにしてもなぁ。力を全く上げなかったら、装備が出来ないなんて、途中で分かりそうなもんだけどな」
「う……それは……仕方ないだろ!? 一度極めると決めたものを後から変えるなんて女が廃る!!」

 いや、性別関係なく、必要ならきちんと軌道修正する方が偉いと思うぞ?
 頑固でもいいのは、漫画やアニメの空き地の裏に住んでるおっさんだけだろ。

 ということで、レベルが上がるにつれ敵の防御も高くなり最低限必要な物攻もそれなりになったが、レベルに応じた武器が装備できないのでそれを稼ぐことが出来ない。
 いくら手数が多くても、与えるダメージが0や1ばかりでは話にならない。

 結局途中で挫折して放置してしまっていたらしい。
 自分でプレイする訳でもなく、何となく掲示板やプレイ動画を観てやった気になっていたんだとか。

「しかし、ネタ職と言われていた【商人】が、あろう事か知識極振りで無双していたと知った時は、正直震えたよ。そして自分に腹が立った。自分は怠けてただけなんだとな!」
「おう? なんでもいいけどな。最初から思ってたけど、お前テンション高ぇな?」

「このゲームは自由が売りなはずだ! どんなステ振りでもやり方によっては強くなれる! ショーニン。あんたが見せてくれたようにな! だから!! 私はそこからとにかく考え、探し、そしてやり込んだ! そして見つけたんだ。敏捷極振りの使い道をな!!」
「なぁ。俺の話聞いてる? ひとまず座れよ。別に拭かなくても消えるけど、さっきから握りしめたままになってるカップから、お茶がこぼれてるぞ?」

 葵は熱が入ったのか、さっきから立ち上がって何やら熱弁してくれてる。
 ロキはその様子を嬉しそうな顔で眺めている。

 ああ。そういえばこいつは、こうやって自分の道を自力で切り開こうとするやつが好きだったな。
 ロキには世話になったから、ロキが好きなやつは俺も丁寧に扱うことにしておこう。

「ああ。すまない。それにしてもこれ美味しいな。ありがとう」
「気に入ってくださって嬉しいですわ。他にもいくつか茶葉の用意がありますから、良かったらたまに尋ねてくださってもいいですよ。知り合いでお茶会も開いてますの」

「なに!? いいのか? それじゃあ、お言葉に甘えて……」
「おい……お前は俺に宣戦布告しに来たんだじゃなかったのか? 何和んでんだよ……」

 なんなんだこれ。
 結局こいつはどうしたいんだ。

 話が一向に進まん。
 さっさと先に進もうぜ。

「ああ。そうだった! えーっと、とにかく! お前のおかげで私はやる気を取り戻し、そして何故だか知らないがお前がめっきりインしなくなった間に、【魔人カルラ】を倒せるまでに成長した! お前は私の目標だ! 目標は打ち破ってこそ! だから、お前よりも先に最終ダンジョンをクリアしてやる!!」
「なるほどな。こりゃあ、俺も負けてなんないってことだな。その勝負、受けて立つ!」

 こうして、よく分からないが、突然現れた葵のおかげで、俺もやる気を出すことになった。
 やるからには勝利の二文字しか必要ない。

 ゲーム初心者なのに最速クリアを達成した俺の実力を、思う存分見せつけてやるぜ!
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