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第3章
第92話【会食への招待】
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「うん。内容に問題はなさそうだね。ヴァイト伯爵はどう思いますか?」
一通りジュベールが持ってきた書類に目を通した俺は、ヴァイト伯爵に書類を渡す。
アイリーンがいれば彼女に確認してもらっていただろうが、残念ながら今はいないし、いくら元貴族令嬢だと知った今でも、ソフィアに頼むのは違う気がした。
書類を受け取ったヴァイト伯爵は、入念に内容を確認してから俺の方を見て頷く。
どうやら問題はなさそうだ。
「ところで、一つ気になったのですが。ソフィアの父、ジュベール様はかなり上位の立場にいると思うのに、何故俺なんかの署名に立ち会ったりしているのでしょう?」
「ん? ああ。そうだったな。ソフィア殿がまさかジュベール様の娘だったとは驚きだが……いや、これは話題にするべきではないな」
ヴァイト伯爵は顎をさすりながら少し考えているようなそぶりを見せる。
当の本人であるソフィアは特に気にした様子は見られない。
「ジュベール様は、内務大臣を務められている方でな。いわゆる宮廷貴族というものなのだが……」
「宮廷貴族?」
「領土を持たず、城勤めの官職だな。一般的には領地を継ぐことが出来ない次男以降がなることが多い。ジュベール様もフォン侯爵家の次男として生まれて、若いころから城に務めていると聞いている」
「そうなんですね。でも、聞けば聞くほどこんな俺に構っているような立場の人には思えません」
俺の言葉に、ヴァイト伯爵は少し声量を下げ、耳打ちするように近付いてから話を続けた。
ジュベールの指示で入り口近くから俺たちを監視する男性に聞こえないようにするするためだろう。
「あまり好ましいことではないが、目を付けられた。ということだろう。気を付けた方がいい。とにかく変なことは慎んでおいた方がな」
「やはり……父上は今でも自分がのし上がることと、自分以外の誰かが力を持つことを阻止することにしか興味がないようですね」
話を黙って聞いていたソフィアが口を開く。
その声は少し悲しそうな色を伴っていた。
「ソフィア。ごめんね? 君が家から勘当されたことも、その父親とこんなところで出くわすことも思いもよらなかったんだ。知っていたら、君を護衛として連れてくるなんてしなかったのに」
「いや、良いんだ。ハンス。父上のことは気にしないでくれ。これは私と父、二人の問題だ。ハンスは何も知らなかったんだ。謝る必要などないよ」
少し重たい空気を感じた時、リラが明るい調子で声を上げた。
「さぁさぁ。複雑なことは後で考えるとして。ジュベール様をお待たせしてかなりの時間が経っていますよ? 書類に問題がないのであれば、まずはお呼びして。署名をされた方がいいんではないですか?」
「うむ。確かにリラの言うとおりだな。どれ。そこの者。書類の確認が取れたから、ジュベール様を読んでもらえるかな? 署名を続けると伝えてくれ」
「かしこまりました」
ヴァイト伯爵に言われ、無言でこちらを見つめていた男性は返事とともに一礼し、扉の外にいる誰かにジュベールを読んでくるよう伝えた。
しばらくして、再びジュベールが姿を現す。
「ふむ。無駄に時間を使って何か悪だくみでもしていたか? まぁいい。署名を始めろ」
ジュベールが凝視する中、俺は署名を数か所に書き込んでいく。
署名の書き方についても、作法があるらしく、事前に学んでおかなければ過ちをおかしてしまったかもしれない。
もしかしたら、ジュベールはそれを期待して俺の署名の立ち合いを自ら望んだのかもしれないとまで思ってしまう。
他の人に任せたら、間違いを指摘し、修正してしまうかもしれないから。
そんなことを頭で考えながらも、俺は間違いがないよう何度も確認し、無事に全ての署名を終えた。
全て書き終えた瞬間、ジュベールから小さな舌打ちが聞こえた気がするが、気にするのは止めておこう。
「ふん。自分の名前くらいはまともに書けるようだな。これで終わりだ。それと伝言が一つ。どうやったか知らんが、シャルロット様がお前に褒美をやれと王に進言していただろう。その内容が決まったぞ。国王、そしてシャルロット様と食を共にすることが許された。明日の昼だ」
「なんですって!? ははは。これは凄い。まさかとは思ったが、ハンス殿。これは大変な名誉なことだよ!」
まるで自分のことのように喜ぶヴァイト伯爵と対照的に、その事実を俺に伝えたジュベールは不本意そうな顔をしている。
俺はというと、正直困っていた。
国王との会食を想定して作法を学んでは来たが、結局ものになっているとは言い難い状態だった。
先ほど国王は俺に作法など気にしなくていいと言ってくれたが、ジュベールが俺に明確な敵意にも似た不満を見せているから、何かへまをすれば、そこをいちいち指摘されるような気がしてならない。
どう考えても、俺一人じゃなく、ヴァイト伯爵やソフィアの同席を許可してもらった方がいいだろう。
俺はそのことをジュベールに伝えた。
「ありがたいお話ありがとうございます。ところで、ヴァイト伯爵やソフィア、リラも同席を許可願えませんでしょうか」
「馬鹿を言うな。召使ふぜいが国王と同席できるわけなかろう。しかし……ヴァイト伯爵と、ソフィア。二人はすでに招待されている。まったく……」
俺は内心安堵のため息を付き、ジュベールにお礼を言った。
一通りジュベールが持ってきた書類に目を通した俺は、ヴァイト伯爵に書類を渡す。
アイリーンがいれば彼女に確認してもらっていただろうが、残念ながら今はいないし、いくら元貴族令嬢だと知った今でも、ソフィアに頼むのは違う気がした。
書類を受け取ったヴァイト伯爵は、入念に内容を確認してから俺の方を見て頷く。
どうやら問題はなさそうだ。
「ところで、一つ気になったのですが。ソフィアの父、ジュベール様はかなり上位の立場にいると思うのに、何故俺なんかの署名に立ち会ったりしているのでしょう?」
「ん? ああ。そうだったな。ソフィア殿がまさかジュベール様の娘だったとは驚きだが……いや、これは話題にするべきではないな」
ヴァイト伯爵は顎をさすりながら少し考えているようなそぶりを見せる。
当の本人であるソフィアは特に気にした様子は見られない。
「ジュベール様は、内務大臣を務められている方でな。いわゆる宮廷貴族というものなのだが……」
「宮廷貴族?」
「領土を持たず、城勤めの官職だな。一般的には領地を継ぐことが出来ない次男以降がなることが多い。ジュベール様もフォン侯爵家の次男として生まれて、若いころから城に務めていると聞いている」
「そうなんですね。でも、聞けば聞くほどこんな俺に構っているような立場の人には思えません」
俺の言葉に、ヴァイト伯爵は少し声量を下げ、耳打ちするように近付いてから話を続けた。
ジュベールの指示で入り口近くから俺たちを監視する男性に聞こえないようにするするためだろう。
「あまり好ましいことではないが、目を付けられた。ということだろう。気を付けた方がいい。とにかく変なことは慎んでおいた方がな」
「やはり……父上は今でも自分がのし上がることと、自分以外の誰かが力を持つことを阻止することにしか興味がないようですね」
話を黙って聞いていたソフィアが口を開く。
その声は少し悲しそうな色を伴っていた。
「ソフィア。ごめんね? 君が家から勘当されたことも、その父親とこんなところで出くわすことも思いもよらなかったんだ。知っていたら、君を護衛として連れてくるなんてしなかったのに」
「いや、良いんだ。ハンス。父上のことは気にしないでくれ。これは私と父、二人の問題だ。ハンスは何も知らなかったんだ。謝る必要などないよ」
少し重たい空気を感じた時、リラが明るい調子で声を上げた。
「さぁさぁ。複雑なことは後で考えるとして。ジュベール様をお待たせしてかなりの時間が経っていますよ? 書類に問題がないのであれば、まずはお呼びして。署名をされた方がいいんではないですか?」
「うむ。確かにリラの言うとおりだな。どれ。そこの者。書類の確認が取れたから、ジュベール様を読んでもらえるかな? 署名を続けると伝えてくれ」
「かしこまりました」
ヴァイト伯爵に言われ、無言でこちらを見つめていた男性は返事とともに一礼し、扉の外にいる誰かにジュベールを読んでくるよう伝えた。
しばらくして、再びジュベールが姿を現す。
「ふむ。無駄に時間を使って何か悪だくみでもしていたか? まぁいい。署名を始めろ」
ジュベールが凝視する中、俺は署名を数か所に書き込んでいく。
署名の書き方についても、作法があるらしく、事前に学んでおかなければ過ちをおかしてしまったかもしれない。
もしかしたら、ジュベールはそれを期待して俺の署名の立ち合いを自ら望んだのかもしれないとまで思ってしまう。
他の人に任せたら、間違いを指摘し、修正してしまうかもしれないから。
そんなことを頭で考えながらも、俺は間違いがないよう何度も確認し、無事に全ての署名を終えた。
全て書き終えた瞬間、ジュベールから小さな舌打ちが聞こえた気がするが、気にするのは止めておこう。
「ふん。自分の名前くらいはまともに書けるようだな。これで終わりだ。それと伝言が一つ。どうやったか知らんが、シャルロット様がお前に褒美をやれと王に進言していただろう。その内容が決まったぞ。国王、そしてシャルロット様と食を共にすることが許された。明日の昼だ」
「なんですって!? ははは。これは凄い。まさかとは思ったが、ハンス殿。これは大変な名誉なことだよ!」
まるで自分のことのように喜ぶヴァイト伯爵と対照的に、その事実を俺に伝えたジュベールは不本意そうな顔をしている。
俺はというと、正直困っていた。
国王との会食を想定して作法を学んでは来たが、結局ものになっているとは言い難い状態だった。
先ほど国王は俺に作法など気にしなくていいと言ってくれたが、ジュベールが俺に明確な敵意にも似た不満を見せているから、何かへまをすれば、そこをいちいち指摘されるような気がしてならない。
どう考えても、俺一人じゃなく、ヴァイト伯爵やソフィアの同席を許可してもらった方がいいだろう。
俺はそのことをジュベールに伝えた。
「ありがたいお話ありがとうございます。ところで、ヴァイト伯爵やソフィア、リラも同席を許可願えませんでしょうか」
「馬鹿を言うな。召使ふぜいが国王と同席できるわけなかろう。しかし……ヴァイト伯爵と、ソフィア。二人はすでに招待されている。まったく……」
俺は内心安堵のため息を付き、ジュベールにお礼を言った。
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