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第15話【返事】
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アベルが私の目を見つめる。
何故だか分からないけれど、次に発せられる言葉の一字一句を聞き逃してはいけないという気持ちが湧き上がってきた。
私を見つめる黒い綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。
初めて目を合わせた、あの日と同じだ。
鼓動が速まるのを感じる。
頬は熱を帯び、今自分の顔を見れば、朱色に染まっているだろうというのが目にしなくても分かった。
「エリス。俺は、俺は君のことが――」
アベルの口が動く。
まるで時間の流れが遅くなったかのように、アベルの口から漏れ出る言葉が、私の耳をゆっくりと打っていく。
自分の身体の中から音が鳴り響いて耳が痛い。
それなのに、続くアベルの声は、はっきりと聞こえた。
「俺は君のことが好きなんだ」
たったそれだけの短い言葉。
それなのに、その言葉が私の全てを支配した。
幼い頃に両親を亡くした私を親代わりに育ててくれた村長は、ことあるごとに私に生まれた国サルタレロの聖女について話してくれた。
聖女はその時代の王に寄り添い、王のために生きるべし。
かつて不毛の地と呼ばれた土地に現れた一人の女性、それが初代国王と共に豊かな国を築き上げた初代聖女だと言われている。
聖女はその不思議な力で王を支え、王はより一層の発展を目指すというのが、サルタレロに住む国民なら誰もが知る話だ。
そう言い聞かされて育った私は、自分が聖女であると気付いた時、恋を諦めた。
王に寄り添う聖女は他に特別な存在を作ることを許されていないからだ。
そんな私に、好きだと伝えてくれた人が目の前に居る。
しかも私が聖女だと知っているのにもかかわらずだ。
国が違うから?
この国では精霊に愛された者を錬金術師と呼ぶ。
錬金術師は恋をしていいの?
自問自答が頭の中に巡る。
何も答えない私を見つめるアベルは次第に不安そうな顔に表情を変えていく。
「あ……ごめん。えーっと、いきなりで、困ったよね……」
どうやら、返事をしない私を答えが拒否だと思ったみたいだ。
そんなはずないのに。
「あ、そうだ。すっかり緊張して順番間違っちゃったや。えーっと、これ。実はさ、エリスに渡そうと思って持ってきたんだ」
アベルは持ってきていた小袋を机の中央に寄せる。
そして中に入っているものを取り出し、私に見せた。
「わぁ……綺麗……」
「良かった。気に入ってくれたかな? 珍しい装飾品を見つけてさ。この花びらに見せた四つの宝石が可愛いと思って」
それは四枚の花弁を持つ花に形取られた、髪飾りだった。
宝石の色はそれぞれ赤、青、緑、そして黄色。
「これ、私にくれるの?」
「ああ! これまで拒否されちゃうとこまっちゃうんだけど……」
見ると髪飾りを持つアベルの手が少し震えている。
どうやら私がアベルの気持ちに答えなかったと思い込み、かなりショックを受けているようだ。
私はその手を両手で包み、しっかりとアベルの目を見つめた。
そして誤解を解くようにゆっくりと私が今思いを巡らしたことについて説明をする。
初めは怪訝そうな顔で聞いていたアベルの顔が、徐々に赤く染まっていくのが面白くて、途中で笑い出しそうになってしまった。
きちんと説明をし終えた後、私はゆっくりと、そしてはっきりとした声で、さっきのアベルの言葉の答えを伝えた。
「ありがとうアベル。すごく嬉しい。私が恋をできるなんて夢見たい。ねぇ、知ってた? 私は貴方と初めて目が合った時に、すでに貴方に惹かれてたのよ」
☆
~その頃王都では~
「何? 行方が分かった?」
サルーン王が玉座から家来に向かって言う。
報告を上げた家来は、頭を下げたままそれに答えた。
「はっ! 追放されたエリスは、ただいまハーミット商会というところに身を寄せているそうです。真偽は分かりませんが、その商会で働く下僕の大怪我を瞬時に治して見せたとか」
その報告にサルーンは玉座から身を乗り出す。
大怪我を治したというのが本当であれば、先王であるサルベーが追放したエリスが、予想通り聖女である可能性が高いからだ。
「何をぐずぐずしている。場所が分かったのならすぐにここへ連れてこい! 【色視の水晶】で確認すれば、本物か偽物なのかなど見分けるのは容易い!」
「しかし……現在は先王の喪中として唯一開いていたアーズすら交流をこちらから遮断しております。大っぴらに動くことはなかなか難しく……」
「お前の首の上に乗っているものは何だ?」
「は? 首の……上でございますか?」
サルーンの問いの意味が分からず、家来は答えに窮する。
するとすぐにサルーンが答えを述べた。
「馬鹿者! 頭を使えと言っておるのだ! そもそも一度国外に追放したものを正々堂々と連れてくる必要などあるまい! 聖女と確認できるまではその者はこの国では重罪人だ。どんな手を使っても構わんと言っただろう!」
「は、ははぁ! かしこまりました!!」
即座に対応に向け立ち去ろうとする家来の背にサルーンが声をかける。
「おい」
「は!」
振り返り再び頭を下げる家来に向かってサルーンは告げる。
「使うなら相手の国の人間を使え。どうせ用が済めば始末するのだ。この国の資源を無駄にする必要はあるまい」
「は! 仰せのままに!」
家来が立ち去った後、サルーンは別に報告に上がった国内の聖女探索の結果に目をやる。
「ふん。未だに見つからず、か。この国に聖女が長期間不在だったことは一度も無かったのだと記されている。ならば、やはりそのエリスと言う者が聖女である可能性が高いな……」
何故だか分からないけれど、次に発せられる言葉の一字一句を聞き逃してはいけないという気持ちが湧き上がってきた。
私を見つめる黒い綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。
初めて目を合わせた、あの日と同じだ。
鼓動が速まるのを感じる。
頬は熱を帯び、今自分の顔を見れば、朱色に染まっているだろうというのが目にしなくても分かった。
「エリス。俺は、俺は君のことが――」
アベルの口が動く。
まるで時間の流れが遅くなったかのように、アベルの口から漏れ出る言葉が、私の耳をゆっくりと打っていく。
自分の身体の中から音が鳴り響いて耳が痛い。
それなのに、続くアベルの声は、はっきりと聞こえた。
「俺は君のことが好きなんだ」
たったそれだけの短い言葉。
それなのに、その言葉が私の全てを支配した。
幼い頃に両親を亡くした私を親代わりに育ててくれた村長は、ことあるごとに私に生まれた国サルタレロの聖女について話してくれた。
聖女はその時代の王に寄り添い、王のために生きるべし。
かつて不毛の地と呼ばれた土地に現れた一人の女性、それが初代国王と共に豊かな国を築き上げた初代聖女だと言われている。
聖女はその不思議な力で王を支え、王はより一層の発展を目指すというのが、サルタレロに住む国民なら誰もが知る話だ。
そう言い聞かされて育った私は、自分が聖女であると気付いた時、恋を諦めた。
王に寄り添う聖女は他に特別な存在を作ることを許されていないからだ。
そんな私に、好きだと伝えてくれた人が目の前に居る。
しかも私が聖女だと知っているのにもかかわらずだ。
国が違うから?
この国では精霊に愛された者を錬金術師と呼ぶ。
錬金術師は恋をしていいの?
自問自答が頭の中に巡る。
何も答えない私を見つめるアベルは次第に不安そうな顔に表情を変えていく。
「あ……ごめん。えーっと、いきなりで、困ったよね……」
どうやら、返事をしない私を答えが拒否だと思ったみたいだ。
そんなはずないのに。
「あ、そうだ。すっかり緊張して順番間違っちゃったや。えーっと、これ。実はさ、エリスに渡そうと思って持ってきたんだ」
アベルは持ってきていた小袋を机の中央に寄せる。
そして中に入っているものを取り出し、私に見せた。
「わぁ……綺麗……」
「良かった。気に入ってくれたかな? 珍しい装飾品を見つけてさ。この花びらに見せた四つの宝石が可愛いと思って」
それは四枚の花弁を持つ花に形取られた、髪飾りだった。
宝石の色はそれぞれ赤、青、緑、そして黄色。
「これ、私にくれるの?」
「ああ! これまで拒否されちゃうとこまっちゃうんだけど……」
見ると髪飾りを持つアベルの手が少し震えている。
どうやら私がアベルの気持ちに答えなかったと思い込み、かなりショックを受けているようだ。
私はその手を両手で包み、しっかりとアベルの目を見つめた。
そして誤解を解くようにゆっくりと私が今思いを巡らしたことについて説明をする。
初めは怪訝そうな顔で聞いていたアベルの顔が、徐々に赤く染まっていくのが面白くて、途中で笑い出しそうになってしまった。
きちんと説明をし終えた後、私はゆっくりと、そしてはっきりとした声で、さっきのアベルの言葉の答えを伝えた。
「ありがとうアベル。すごく嬉しい。私が恋をできるなんて夢見たい。ねぇ、知ってた? 私は貴方と初めて目が合った時に、すでに貴方に惹かれてたのよ」
☆
~その頃王都では~
「何? 行方が分かった?」
サルーン王が玉座から家来に向かって言う。
報告を上げた家来は、頭を下げたままそれに答えた。
「はっ! 追放されたエリスは、ただいまハーミット商会というところに身を寄せているそうです。真偽は分かりませんが、その商会で働く下僕の大怪我を瞬時に治して見せたとか」
その報告にサルーンは玉座から身を乗り出す。
大怪我を治したというのが本当であれば、先王であるサルベーが追放したエリスが、予想通り聖女である可能性が高いからだ。
「何をぐずぐずしている。場所が分かったのならすぐにここへ連れてこい! 【色視の水晶】で確認すれば、本物か偽物なのかなど見分けるのは容易い!」
「しかし……現在は先王の喪中として唯一開いていたアーズすら交流をこちらから遮断しております。大っぴらに動くことはなかなか難しく……」
「お前の首の上に乗っているものは何だ?」
「は? 首の……上でございますか?」
サルーンの問いの意味が分からず、家来は答えに窮する。
するとすぐにサルーンが答えを述べた。
「馬鹿者! 頭を使えと言っておるのだ! そもそも一度国外に追放したものを正々堂々と連れてくる必要などあるまい! 聖女と確認できるまではその者はこの国では重罪人だ。どんな手を使っても構わんと言っただろう!」
「は、ははぁ! かしこまりました!!」
即座に対応に向け立ち去ろうとする家来の背にサルーンが声をかける。
「おい」
「は!」
振り返り再び頭を下げる家来に向かってサルーンは告げる。
「使うなら相手の国の人間を使え。どうせ用が済めば始末するのだ。この国の資源を無駄にする必要はあるまい」
「は! 仰せのままに!」
家来が立ち去った後、サルーンは別に報告に上がった国内の聖女探索の結果に目をやる。
「ふん。未だに見つからず、か。この国に聖女が長期間不在だったことは一度も無かったのだと記されている。ならば、やはりそのエリスと言う者が聖女である可能性が高いな……」
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