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第17話【人攫い】
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引越しからそれなりの日が過ぎ、一人暮らしの生活も慣れてきた。
生活の糧を得るために、結局私は錬金術の力を借りることにしていた。
アベルやカリナから受けた要望に従い、エアから作り方を教わった様々な品を売るという感じだ。
ただ、初めに作った薬ような効果の高すぎるものではなく、効果を薄めた状態にしている。
理由は、アベルからあまり効果の高いものがいきなり市場に出回ると、混乱を引き起こすことになると聞いたからだ。
少しずつ浸透させていく方が良いのではないか、と言うことと、仮に私が死んだり力を失ったりして供給ができなくなった時にも、やはり混乱が起きる危険性があるからだった。
実は、すでにそのような例がこの国にあったらしい。
どうやら、私が生まれた国の聖女とは異なり、この国では錬金術師は口伝で引き継がれ、少ないながらも職業として成り立ってるんだとか。
その人たちは他の人よりも精霊力を扱える器が大きいものの、精霊に愛されるほどではないのが普通らしい。
ところが、私のように精霊に愛された錬金術師がある日生まれた。
名はイリスといい、その人の作る品の数々は、他の錬金術師では到底及ばないほどの性能を持っていたらしい。
当然、人々はイリスの作った物ばかりを求め、他の錬金術師の品は売れなくなってしまった。
すると、それを妬んだ錬金術師たちが、あらぬ疑いをイリスにかけ、国から追放するよう仕向けた。
これで自分たちの作ったものが売れるようになるとほくそ笑んでいたが、結果むしろ逆になってしまった。
もう二度と手に入ることのない最高級のイリスの品は、以前よりも更に人気を博し、どんどん値は釣り上がっていった。
そして、結局少しずつ売れ行きは戻ったものの、他の錬金術師が作ったものは本人たちが期待したほど売れない日々が続いたのだとか。
「ねぇ。エア。そう言えば、サルタレロ王国を築いた王と一緒にいた初めの聖女の名前も、イリスって言うんじゃなかったっけ? 似た名前だから、私覚えてるのよね」
「ん? ああ。そうだったかもしれないね。まぁ、今のエリスには関係ない話だよ」
そんな話をした次の日、白竜の日である今日は引越し後も続けているカリナとの甘味を食べる日だった。
嬉しいことに、今日はアベルも時間が出来たらしく来てくれる予定だ。
予定の店に辿り着くと、二人は珍しくまだ来ていないようだった。
商人らしく時間には厳しい二人が遅れるなんて珍しいと思いながら、とりあえず中で待とうと、私は店の扉を開く。
「あ! エリス様ですよね? 覚えてますでしょうか。以前、大怪我を治していただいたエドワードと申します。アベル様からの伝言を承っています」
「え? ああ! その後、脚の調子は問題ない?」
「ええ! おかげさまで。早速ですが、残念ながら本日は、お二人ともいらっしゃることができません。申し訳ないと伝えて欲しいとのことでした」
「あら。そうなの? 残念ね。急用かしら」
本当に残念な顔をしながらエドワードから受けた伝言にそう答える。
仕事で何かあったのだろうか。
すると、エドワードは私に近付いてきて耳打ちをする。
「あまり大きな声では言えないのですが、実は昨晩、屋敷に賊が忍び込みまして……」
「え!? まさか、誰か怪我を!?」
思わず出た大声を制するように、エドワードは自分の口元に人差し指を当てる。
「いえ。幸い怪我をしたものは誰もいないのですが、奇妙なことに、金目のものが多くある倉庫の方ではなく、応接室など奇妙なところばかりが荒らされていまして」
「どういうことかしら。随分妙なことをするのねぇ」
「ええ。倉庫の品であれば、台帳に数などが記載されていますから何か盗まれればすぐに分かるのですが、応接室や執務室などのでは、無くなったものがあるのかないのか調べるのも一苦労でして」
「なるほどね。それで、アベルたちはそれを調べるために今日は来れない、ってことなのね」
私が納得をすると、エドワードはほっとした顔を見せる。
いずれにしろ、三人で楽しく食べることを楽しみにしてきたのだから、一人で食べるのも気が引ける。
私はエドワードにお礼を伝えると、店を後にし帰ることに決めた。
ただ、すでに食べるつもりで出かけたので、お腹の減り具合は家に帰るまで持ちそうもないほどだった。
私はせっかくだからと、広場でやっている出店で簡単なものを買って帰ることにした。
「すいません。【グラス】一つくださいな」
「あいよ! ……はい、お待ち! 溶けて落とさないよう気を付けなよ!」
私が受け取ったのは、ツノのように焼いた焼き菓子の上に、果汁などを冷やして固めたものを乗せたお菓子だ。
私の国では聞いたこともなかったけれど、これも錬金術で作られた【氷石】というもののおかげで夏でもこんな冷たいお菓子が食べられるのだとか。
カリナに初めて教えてもらった時は、美味しさのあまり一度に大量に口に入れてしまい、おでこの辺りに痛みが出たのを覚えている。
今回はそんなことにならないように、舌でゆっくりと舐めながら食べるようにする。
「ちょっと、お嬢さん。悪いけど、道を教えてくれないかね?」
広場から少し離れたところで、突然知らない男性に声をかけられた。
振り向いてみると、そこには大柄で少し薄汚れた服装をした男性が、こちらを値踏みするような目で見つめていた。
「すいません。この辺りは、まだ詳しくなくて……」
詳しくないのは本当のことだし、何より目の前の男性から、なぜか嫌な気配を感じて、私は断りその場を去ろうとする。
すると、突然男性が私の肩を大きな手で掴み、こう言ってきた。
「そんなつれないこと言うなよ。あんた、エリスって言うんだろ? まぁ、悪いことは言わねぇ。黙って俺の言う通りにした方が痛い目見ないぜ?」
「ちょっと! 離してください! 大声出しますよ?」
しかし男は笑ったままだ。
「エリス! まずい! 振り切ってすぐに逃げて!!」
突然エアが声を上げる。
エアが見えない男は、どこから発されたか分からない声に驚いたのか、一瞬肩を掴む力が緩んだ。
私はその隙に男の手を振り払い、男の横をすり抜けると、元来た道を駆け出し、人が多くいるだろう広場へと向かった。
ところが、強い衝撃を受け、私は地面に倒れ込んでしまう。
薄れゆく意識の中で、さっきの男と別の男が話す声が聞こえた。
「おい。対象に手荒な真似をするのは禁じられてたんじゃないのか?」
「気にするなこのくらい。黙ってりゃバレねぇよ。それより、こいつを渡せば大金が手に入るんだろ? そしたらこんな仕事とはおさらばだ。俺は後は遊んで暮らすぜ」
「それにしても、雇い主も分からねぇってのが気にかかる。おい。本当にこの仕事、俺らの身の安全は大丈夫なんだろうな?」
「あ? しらねぇよ。こえぇんなら今からでも抜けても良いんだぜ? そしたら俺が独り占めできるんだから構わないさ」
そこまで聞こえた後、私は完全に意識を失ってしまった。
生活の糧を得るために、結局私は錬金術の力を借りることにしていた。
アベルやカリナから受けた要望に従い、エアから作り方を教わった様々な品を売るという感じだ。
ただ、初めに作った薬ような効果の高すぎるものではなく、効果を薄めた状態にしている。
理由は、アベルからあまり効果の高いものがいきなり市場に出回ると、混乱を引き起こすことになると聞いたからだ。
少しずつ浸透させていく方が良いのではないか、と言うことと、仮に私が死んだり力を失ったりして供給ができなくなった時にも、やはり混乱が起きる危険性があるからだった。
実は、すでにそのような例がこの国にあったらしい。
どうやら、私が生まれた国の聖女とは異なり、この国では錬金術師は口伝で引き継がれ、少ないながらも職業として成り立ってるんだとか。
その人たちは他の人よりも精霊力を扱える器が大きいものの、精霊に愛されるほどではないのが普通らしい。
ところが、私のように精霊に愛された錬金術師がある日生まれた。
名はイリスといい、その人の作る品の数々は、他の錬金術師では到底及ばないほどの性能を持っていたらしい。
当然、人々はイリスの作った物ばかりを求め、他の錬金術師の品は売れなくなってしまった。
すると、それを妬んだ錬金術師たちが、あらぬ疑いをイリスにかけ、国から追放するよう仕向けた。
これで自分たちの作ったものが売れるようになるとほくそ笑んでいたが、結果むしろ逆になってしまった。
もう二度と手に入ることのない最高級のイリスの品は、以前よりも更に人気を博し、どんどん値は釣り上がっていった。
そして、結局少しずつ売れ行きは戻ったものの、他の錬金術師が作ったものは本人たちが期待したほど売れない日々が続いたのだとか。
「ねぇ。エア。そう言えば、サルタレロ王国を築いた王と一緒にいた初めの聖女の名前も、イリスって言うんじゃなかったっけ? 似た名前だから、私覚えてるのよね」
「ん? ああ。そうだったかもしれないね。まぁ、今のエリスには関係ない話だよ」
そんな話をした次の日、白竜の日である今日は引越し後も続けているカリナとの甘味を食べる日だった。
嬉しいことに、今日はアベルも時間が出来たらしく来てくれる予定だ。
予定の店に辿り着くと、二人は珍しくまだ来ていないようだった。
商人らしく時間には厳しい二人が遅れるなんて珍しいと思いながら、とりあえず中で待とうと、私は店の扉を開く。
「あ! エリス様ですよね? 覚えてますでしょうか。以前、大怪我を治していただいたエドワードと申します。アベル様からの伝言を承っています」
「え? ああ! その後、脚の調子は問題ない?」
「ええ! おかげさまで。早速ですが、残念ながら本日は、お二人ともいらっしゃることができません。申し訳ないと伝えて欲しいとのことでした」
「あら。そうなの? 残念ね。急用かしら」
本当に残念な顔をしながらエドワードから受けた伝言にそう答える。
仕事で何かあったのだろうか。
すると、エドワードは私に近付いてきて耳打ちをする。
「あまり大きな声では言えないのですが、実は昨晩、屋敷に賊が忍び込みまして……」
「え!? まさか、誰か怪我を!?」
思わず出た大声を制するように、エドワードは自分の口元に人差し指を当てる。
「いえ。幸い怪我をしたものは誰もいないのですが、奇妙なことに、金目のものが多くある倉庫の方ではなく、応接室など奇妙なところばかりが荒らされていまして」
「どういうことかしら。随分妙なことをするのねぇ」
「ええ。倉庫の品であれば、台帳に数などが記載されていますから何か盗まれればすぐに分かるのですが、応接室や執務室などのでは、無くなったものがあるのかないのか調べるのも一苦労でして」
「なるほどね。それで、アベルたちはそれを調べるために今日は来れない、ってことなのね」
私が納得をすると、エドワードはほっとした顔を見せる。
いずれにしろ、三人で楽しく食べることを楽しみにしてきたのだから、一人で食べるのも気が引ける。
私はエドワードにお礼を伝えると、店を後にし帰ることに決めた。
ただ、すでに食べるつもりで出かけたので、お腹の減り具合は家に帰るまで持ちそうもないほどだった。
私はせっかくだからと、広場でやっている出店で簡単なものを買って帰ることにした。
「すいません。【グラス】一つくださいな」
「あいよ! ……はい、お待ち! 溶けて落とさないよう気を付けなよ!」
私が受け取ったのは、ツノのように焼いた焼き菓子の上に、果汁などを冷やして固めたものを乗せたお菓子だ。
私の国では聞いたこともなかったけれど、これも錬金術で作られた【氷石】というもののおかげで夏でもこんな冷たいお菓子が食べられるのだとか。
カリナに初めて教えてもらった時は、美味しさのあまり一度に大量に口に入れてしまい、おでこの辺りに痛みが出たのを覚えている。
今回はそんなことにならないように、舌でゆっくりと舐めながら食べるようにする。
「ちょっと、お嬢さん。悪いけど、道を教えてくれないかね?」
広場から少し離れたところで、突然知らない男性に声をかけられた。
振り向いてみると、そこには大柄で少し薄汚れた服装をした男性が、こちらを値踏みするような目で見つめていた。
「すいません。この辺りは、まだ詳しくなくて……」
詳しくないのは本当のことだし、何より目の前の男性から、なぜか嫌な気配を感じて、私は断りその場を去ろうとする。
すると、突然男性が私の肩を大きな手で掴み、こう言ってきた。
「そんなつれないこと言うなよ。あんた、エリスって言うんだろ? まぁ、悪いことは言わねぇ。黙って俺の言う通りにした方が痛い目見ないぜ?」
「ちょっと! 離してください! 大声出しますよ?」
しかし男は笑ったままだ。
「エリス! まずい! 振り切ってすぐに逃げて!!」
突然エアが声を上げる。
エアが見えない男は、どこから発されたか分からない声に驚いたのか、一瞬肩を掴む力が緩んだ。
私はその隙に男の手を振り払い、男の横をすり抜けると、元来た道を駆け出し、人が多くいるだろう広場へと向かった。
ところが、強い衝撃を受け、私は地面に倒れ込んでしまう。
薄れゆく意識の中で、さっきの男と別の男が話す声が聞こえた。
「おい。対象に手荒な真似をするのは禁じられてたんじゃないのか?」
「気にするなこのくらい。黙ってりゃバレねぇよ。それより、こいつを渡せば大金が手に入るんだろ? そしたらこんな仕事とはおさらばだ。俺は後は遊んで暮らすぜ」
「それにしても、雇い主も分からねぇってのが気にかかる。おい。本当にこの仕事、俺らの身の安全は大丈夫なんだろうな?」
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そこまで聞こえた後、私は完全に意識を失ってしまった。
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