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第19話【錬金術師】
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「アベル! どうしてここに?」
「ああ! 良かった。エリス。心配したよ」
私の問いかけに答えず、アベルは私を話さない。
すると、一人の高貴な格好をした男性が声をかけてきた。
「あー、アベル。君のそんな慌てた様子や婦人を抱きしめてる様子を見るのは愉快だけれど、そろそろいいんじゃないのか?」
その男性の言葉に我に返ったのか、アベルは恥ずかしそうに私から離れる。
そしてアベルは男性に深々と頭を下げた。
「助かりました。殿下」
「よせ。お前と私の仲だ。そういうのはいらん。ましてや、この方があの薬を作った錬金術師殿なのだろう? 攫ったものがどういう目的なのか分からんが、この方を失うのはこの国にとっての損失だ」
殿下と呼ばれているということは、この国の王子様だろうか。
そんな人がアベルと一緒に私を助けに来るなんて、状況がよく分からない。
「とにかく、ここを出よう。ここは臭くてたまらん」
そういうと王子はさっさと出て行ってしまった。
アベルに手を引かれ、私もそれに続く。
途中見ないようにと目をつぶるように言われた場所が何度かあった。
見えないけれどあの臭いから、私を攫った人たちはもうこの世にいないのだろうということが分かった。
「エリス。本当に無事で良かった」
「助けに来てくれてありがとう。アベル。でもどうやってここまで来たの? この方たちは?」
アベルの説明によると、私が攫われた後、アベルは今日の約束の埋め合わせにと、私の家を訪れたそうだ。
しかし、留守のままなのを不審に思って、私の行方を探したらしい。
私が攫われた際にその現場を建物の窓から見ていた人が居たそうで、白い髪をした女性という特徴から、私が攫われたとアベルは断定したのだとか。
それ以外に目撃情報がなかったのも決め手になった。
「商人の情報網はエリスが思っている以上に広く深いからね」
「でもどうしてここだと分かったの?」
「それは、そのサラマンダーのおかげさ」
「サラマンダー?」
言われて左肩に乗っているサラマンダーに目を向ける。
サラマンダーは嬉しそうに目を細めて舌を出したり引っ込めたりしていた。
「エリスが攫われたと分かった後すぐに、そのサラマンダーが俺の元に現れたんだ。君の場所まで案内するといったような仕草を繰り返してね。君が送ってくれたんじゃないのかい?」
そうしてアベルは私を助けにいくことを決めたのだけど、ここで一つ問題があった。
私を攫った人たちは、その界隈では有名な実力の持ち主だったらしい。
そこでアベルは自分の伝、つまりここにいる、ロイズ王子に援助を求めた。
だけど、ただの知り合いの救出が目的では王子が動いてくれそうにないと思ったアベルは、切り札を使うことにしたのだとか。
その切り札というのが、以前王子に献納した回復薬の作り手が私だということ。
もともと旧知の仲で親交も深かった上に、更にその場にもついてきた精霊サラマンダーが決めてとなり、王子は自身の近衛兵を出してくれたのだという。
「ロイズ殿下。今回のこと、大変ご迷惑をおかけしました。お助けいただきありがとうございます」
「よいよい。そういえば、先ほど渇水に喘いでいた村が、不思議な白髪の少女のおかげで助かったと報があったぞ。これもお主の仕業だろう?」
「え? あ! 恐らくは」
「うむ。錬金術師殿が居るだけで国は潤う。ともすれば、お主を助けたのは国益を守ったことに他ならない。そう恐縮するな」
寛容な言葉に私は感謝の念を伝えるのが精一杯だった。
私と一緒にアベルも王子に再度お礼を述べる。
「と、いうわけで。エリス。君が錬金術師だということを知らせてしまった。申し訳ない」
「ううん。いいの。そんなことより助けてくれたのが嬉しいわ。ありがとう、アベル」
「それでなんだけど……やっぱり一人暮らしは何かと物騒だと思うんだ。どうだろう、もう一度一緒に暮らさないかい? もちろん住む部屋は客室じゃなくて――」
「それって、もしかしてプロポーズしてる?」
私の途中での突っ込みで、アベルはしどろもどろになる。
それを見て私は笑ってしまった。
「うふふ。助けてくれたのはありがとう。それに、その提案も嬉しいわ。でも、できればもう少しロマンチックな場所で言って欲しいな」
「あ! ごめん。そ、そうだね。でも、ひとまず。今日はうちにおいでよ。流石に不安だろう?」
「あっはっは。今までのアベルの様子だけでも今回付いてきた甲斐があったというのに、これは更に面白いものが見られたな!」
王子が大声を出して笑ったので、アベルは更に恥ずかしそうな顔を見せる。
悪いと思いながらも、私も声を出して笑ってしまった。
「ああ! 良かった。エリス。心配したよ」
私の問いかけに答えず、アベルは私を話さない。
すると、一人の高貴な格好をした男性が声をかけてきた。
「あー、アベル。君のそんな慌てた様子や婦人を抱きしめてる様子を見るのは愉快だけれど、そろそろいいんじゃないのか?」
その男性の言葉に我に返ったのか、アベルは恥ずかしそうに私から離れる。
そしてアベルは男性に深々と頭を下げた。
「助かりました。殿下」
「よせ。お前と私の仲だ。そういうのはいらん。ましてや、この方があの薬を作った錬金術師殿なのだろう? 攫ったものがどういう目的なのか分からんが、この方を失うのはこの国にとっての損失だ」
殿下と呼ばれているということは、この国の王子様だろうか。
そんな人がアベルと一緒に私を助けに来るなんて、状況がよく分からない。
「とにかく、ここを出よう。ここは臭くてたまらん」
そういうと王子はさっさと出て行ってしまった。
アベルに手を引かれ、私もそれに続く。
途中見ないようにと目をつぶるように言われた場所が何度かあった。
見えないけれどあの臭いから、私を攫った人たちはもうこの世にいないのだろうということが分かった。
「エリス。本当に無事で良かった」
「助けに来てくれてありがとう。アベル。でもどうやってここまで来たの? この方たちは?」
アベルの説明によると、私が攫われた後、アベルは今日の約束の埋め合わせにと、私の家を訪れたそうだ。
しかし、留守のままなのを不審に思って、私の行方を探したらしい。
私が攫われた際にその現場を建物の窓から見ていた人が居たそうで、白い髪をした女性という特徴から、私が攫われたとアベルは断定したのだとか。
それ以外に目撃情報がなかったのも決め手になった。
「商人の情報網はエリスが思っている以上に広く深いからね」
「でもどうしてここだと分かったの?」
「それは、そのサラマンダーのおかげさ」
「サラマンダー?」
言われて左肩に乗っているサラマンダーに目を向ける。
サラマンダーは嬉しそうに目を細めて舌を出したり引っ込めたりしていた。
「エリスが攫われたと分かった後すぐに、そのサラマンダーが俺の元に現れたんだ。君の場所まで案内するといったような仕草を繰り返してね。君が送ってくれたんじゃないのかい?」
そうしてアベルは私を助けにいくことを決めたのだけど、ここで一つ問題があった。
私を攫った人たちは、その界隈では有名な実力の持ち主だったらしい。
そこでアベルは自分の伝、つまりここにいる、ロイズ王子に援助を求めた。
だけど、ただの知り合いの救出が目的では王子が動いてくれそうにないと思ったアベルは、切り札を使うことにしたのだとか。
その切り札というのが、以前王子に献納した回復薬の作り手が私だということ。
もともと旧知の仲で親交も深かった上に、更にその場にもついてきた精霊サラマンダーが決めてとなり、王子は自身の近衛兵を出してくれたのだという。
「ロイズ殿下。今回のこと、大変ご迷惑をおかけしました。お助けいただきありがとうございます」
「よいよい。そういえば、先ほど渇水に喘いでいた村が、不思議な白髪の少女のおかげで助かったと報があったぞ。これもお主の仕業だろう?」
「え? あ! 恐らくは」
「うむ。錬金術師殿が居るだけで国は潤う。ともすれば、お主を助けたのは国益を守ったことに他ならない。そう恐縮するな」
寛容な言葉に私は感謝の念を伝えるのが精一杯だった。
私と一緒にアベルも王子に再度お礼を述べる。
「と、いうわけで。エリス。君が錬金術師だということを知らせてしまった。申し訳ない」
「ううん。いいの。そんなことより助けてくれたのが嬉しいわ。ありがとう、アベル」
「それでなんだけど……やっぱり一人暮らしは何かと物騒だと思うんだ。どうだろう、もう一度一緒に暮らさないかい? もちろん住む部屋は客室じゃなくて――」
「それって、もしかしてプロポーズしてる?」
私の途中での突っ込みで、アベルはしどろもどろになる。
それを見て私は笑ってしまった。
「うふふ。助けてくれたのはありがとう。それに、その提案も嬉しいわ。でも、できればもう少しロマンチックな場所で言って欲しいな」
「あ! ごめん。そ、そうだね。でも、ひとまず。今日はうちにおいでよ。流石に不安だろう?」
「あっはっは。今までのアベルの様子だけでも今回付いてきた甲斐があったというのに、これは更に面白いものが見られたな!」
王子が大声を出して笑ったので、アベルは更に恥ずかしそうな顔を見せる。
悪いと思いながらも、私も声を出して笑ってしまった。
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