長い名前

黄舞

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長い名前

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 この世界には多くの人が住んでいました。
 そして、今この瞬間もどんどん新しい命が生まれています。

 この世界の人は、自分で自分の名前を決めるという決まりがありました。
 気に食わなければ、いつでも自由に変えることも許されていました。

 そんな世界に、新しい命がまた一つ。
 さっそくその小さな命は自分の名前を考えました。

「分かりやすい名前がいいな。よし。『普通の少年』にしよう」

 『普通の少年』は自分の名前を良い物だと誇らしげに掲げました。
 この世界では、誰の目にもまず名前がまるようになっています。

 しばらく暮らしていても、誰も『普通の少年』の元へ訪れてくるものはいませんでした。
 『普通の少年』は、気になって他の人の名前を見て回ることにしました。

 他の人、特に周りに多くの人が集めっている人気者たちの名前を見て、『普通の少年』は驚きました。
 なぜなら、人気者はみなとても長い名前をしていたからです。

 『根が優しくて頭が良くて面倒みの良い、友人を大切にする青年』だとか、『気立てがよく動物好きで子供と遊ぶのが上手な少女』だとか。
 『普通の少年』はそれを見て笑いました。

「なんだい。中身なんてものは名前に書くもんじゃない。知り合って分かるものさ!」

 もっと探せば確かに短い名前でも、人気者は確かにいました。
 しかし、やはり多くの人気者の名前は長いものが多く、まるで自分のいい所をこれみよがしに述べるような名前をしていました。

「こんな長い名前ばかりが人気者になるなんておかしい!! 人の良さは名前じゃなくて中身。中身が大事なのさ!!」

 そう思った『普通の少年』は、自分の中身を良くする努力をできる限り行いました。
 自分では誰に見せても恥ずかしくないと思う内面が出来ました。

 しかし、いつになっても訪れてくるのは一人や二人で、全く人が来ない日も多くありました。
 ある日、目に付いた人に声をかけて、何故自分が人気者になれないと思うか、訪ねました。

「何故かって? だって君の名前はなんの魅力もないじゃないか」
「名前に魅力がない!? そんなものは関係ないだろう? 僕がどれだけ素晴らしい人間か合えばわかるのに!!」

 『普通の少年』は憤ります。
 しかし相手は肩をすくめて話を続けました。

「君は一体ここに何人住んでいるか知っているのかい? 七十万以上さ。興味が持てない人に使う時間なんてないよ」
「君はしつれいなやつだな! もういい!! じゃあね!」

 『普通の少年』は頭にきてその日は何も手につきませんでした。
 しかし、時間が経つにつれ、先ほど言われたことが気になってきました。

「ちょっとくらい、変えてみてもいいかな」

 そこから、『普通の少年』は名前を変えてみることにしました。
 まずは既に色々な特技や良さを持っていた自分の説明を付けました。

 すると、今までほとんど訪れることのなかった少年の所へ、何人もの人が訪れてきました。
 そして何人かは、毎日訪れるようになりました。

「あの人の言っていたことは本当だったんだ。意地を張らずに変えてみてよかった」

 少年は更に名前を変えることを決心しました。
 参考にしたのは、他の人気者たちでした。

 自分の強みを興味を引く言葉で、そして中身が名前だけで分かるように。
 人気のある中身も色々と調べました。

 やがて、自分が昔笑った人よりも長い名前を持つ少年の元には、毎日無数の人が訪れるようになりました。
 少年が自信を持っていた中身も気に入ってもらって、毎日来る人、褒めたたえてくれる人、他人に紹介してくれる人まで現れました。

 こうして『普通の少年』だった少年は、長い名前を持つようになり、幸せに暮らしましたとさ。
 めでたしめでたし。
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