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第12話 二人での話
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「ビオラ姉様。これが兄上の小さい頃の肖像画だよ。何故か表に出すと兄上が怒るから、ここに飾ってるんだ」
「まぁ! 可愛らしい! おいくつの時のものかしら?」
オリン様は庭園でお会いしてから、ずっとオルガン様のお話を聞いている。
王都から戻ってきてから毎日、ずっと。
どれも素敵なお話ばかりで、ますますオルガン様のことが好きになってしまった。
そして何より、これだけ弟に慕ってもらえるのが素直に羨ましい。
そう思った瞬間、楽しかったはずなのに、フルートのことを思い出して、胸が少し痛んだ。
ここでの生活が楽しすぎて、すっかり思い出すことがなかったのに。
今頃何をしているのかしら。
私が丹精込めて作った薬草園を潰して作った庭園には、少しでも興味を持ってくれているかしら。
きっとフルートのことだから、すぐに飽きてしまって今頃も見向きもしてないと思うわ。
色んな殿方から頂いた贈り物のように。
「……姉様? ビオラ姉様? 大丈夫ですか? 具合でも悪いのですか?」
「あら! ごめんなさい。ここに来る前のことを突然思い出してしまって。オリン様がオルガン様をとても慕っているのをみて少し羨ましくなってしまって。私は妹とあまりうまく行ってなかったから……」
「兄上ほど素晴らしい方はこの世の中にいませんからね! それでも俺ほど兄上を兄としても一人の男性としても尊敬している人間はどこにもいないと思いますよ! 特別なんです!」
「まぁ。うふふ。そうね。オルガン様は特別。そういうものかしら」
「俺がどう特別なんだ?」
「……!!」
心臓が止まるかと思った。
驚きすぎると声が出ないというのは本当だったのね。
でも、驚いて固まったままでいるわけにはいかないわ。
私はすぐに姿勢を正して、声の主、オルガン様に身体を向けた。
「お帰りなさい。予定よりも少々お早いお帰りですね。でも、嬉しいです。またお会い出来るのを心待ちにしていましたの」
「嬉しい? 俺に会うのを心待ちにしていた? どういう意味だ?」
「兄上! お帰りなさい! 聞いてくだ――」
「オリン。悪いが後だ。妻と二人で話すことがある」
あらあら。
大好きなお兄様、オルガン様に待てをもらって、萎れている様子はまるで子犬のようだわ。
でも、そういう表情をされるのも、オリン様がオルガン様を大好きだからなのよね。
やっぱり仲の良い兄弟って羨ましいわ。
「ということで、君。少しいいかな?」
「はい。もちろんです。お話とはなんでしょう?」
「ここで話すのもなんだから……俺の執務室へ行こう。心配することはない。きちんと対面のソファがある」
「まぁ! オルガン様の執務室へ? お帰りを待つ間、屋敷の色々な場所は見させてもらいましたが、オルガン様の個人的な場所は、初めてですから。楽しみです」
「楽しみ? やはり君は少し変わっているようだな……」
変わっている。
どういう意味で言ってくださったのかしら。
悪い意味でなければいいのだけれど。
オルガン様に連れられ、オルガン様の寝室や執務室などが並ぶ屋敷に一角へと向かう。
よく考えてみると私の部屋はここからだいぶ離れた場所のあるのよね。
夫婦というのは寝室が近いものだと思っていたのに。
オルガン様は鍵を取り出し、重厚そうな扉を開ける。
中を見ると整然としていて、とても仕事が捗りそうな内装だ。
それでも侯爵家の主が使うに相応しい、質の良さそうな調度品が置かれている。
「ここに座りなさい」
「はい。失礼します」
オルガン様が向かいの一人がけのソファに腰掛けたのを確認してから、勧められた三人がけのソファへと腰を下ろす。
せっかくこっちに余裕があるのだから、隣に座ってくださればいいのに。
なんて言えないわね。
「それで……どういうことだ?」
「どういうこととは、なんでしょうか? ごめんなさい。質問を質問で返してしまって」
「ふむ。俺が居ない間、ドラムに君のことを定期的に連絡するよう指示してあった。そのことは知っているか?」
「まぁ。そんなことをしてくださっていたんですね。存じ上げませんでしたけれど、私のことを気にかけてくださってありがとうございます。とても嬉しいですわ」
てっきり私のことを少しも思い出してくださってなかったと思っていたら、定期的に確認していただなんて!
オリン様の言う通り、やっぱりオルガン様はお優しい方なんだわ。
あら? でもどうしましょう。
オルガン様がいらっしゃらない間に、勝手にハープに休暇を取らせたり、庭園の薬草を使ったりしたわね。
大丈夫だったかしら。
でも、好きにしていいって言ってくださったわけだし。
「君は……噂とはずいぶん違うようだな。いい意味でだ。ドラムからの連絡では、まるで連絡を知っているのを知って、わざと良い人間を演じているのではないか、と思うくらいのことをやっている。連絡を読む度、そんな印象を受けた」
「まぁ……やっぱりオルガン様も私の噂をご存知でしたのね。でも違うんです! 私、おかしな行動なんか!」
「まぁ、待て。君の噂は確かに聞いている。だからこそ俺に相応しいと思った。仮面侯爵と公然と陰口を言われる俺の妻にな。ただ君は違ったようだ。こちらの落ち度だ」
「どういう意味ですか……?」
オルガン様の伝えたいこと、話の意図がさっきから分からないわ。
違ったとはどういう意味かしら。
オルガン様に落ち度なんてあるはずがないのに。
こんなに素敵な生活をさせていただけているんですもの。
「つまり……君との契約結婚を無かったことにしようと思っている」
「なんですって!? ……ごめんなさい。あまりにも突然すぎて……」
「君が噂通りの女性なら、失礼な言い方だが、誰も貰い手はいないと思った。俺のようにな。ところが君は狂人どころか、使用人にすら礼節と慈愛の心を持った立派な貴婦人だったようだ。君が望めば俺などよりまともな嫁ぎ先が――」
「待ってください!」
思わずオルガン様の言葉を大声で遮ってしまった。
でもこれだけは言わないと。
無機質な仮面の下の表情は分からない。
けれど、私の声に驚いた様子のオルガン様に伝えないといけないわ。
例えこの家を追い出される運命だとしても。
「まぁ! 可愛らしい! おいくつの時のものかしら?」
オリン様は庭園でお会いしてから、ずっとオルガン様のお話を聞いている。
王都から戻ってきてから毎日、ずっと。
どれも素敵なお話ばかりで、ますますオルガン様のことが好きになってしまった。
そして何より、これだけ弟に慕ってもらえるのが素直に羨ましい。
そう思った瞬間、楽しかったはずなのに、フルートのことを思い出して、胸が少し痛んだ。
ここでの生活が楽しすぎて、すっかり思い出すことがなかったのに。
今頃何をしているのかしら。
私が丹精込めて作った薬草園を潰して作った庭園には、少しでも興味を持ってくれているかしら。
きっとフルートのことだから、すぐに飽きてしまって今頃も見向きもしてないと思うわ。
色んな殿方から頂いた贈り物のように。
「……姉様? ビオラ姉様? 大丈夫ですか? 具合でも悪いのですか?」
「あら! ごめんなさい。ここに来る前のことを突然思い出してしまって。オリン様がオルガン様をとても慕っているのをみて少し羨ましくなってしまって。私は妹とあまりうまく行ってなかったから……」
「兄上ほど素晴らしい方はこの世の中にいませんからね! それでも俺ほど兄上を兄としても一人の男性としても尊敬している人間はどこにもいないと思いますよ! 特別なんです!」
「まぁ。うふふ。そうね。オルガン様は特別。そういうものかしら」
「俺がどう特別なんだ?」
「……!!」
心臓が止まるかと思った。
驚きすぎると声が出ないというのは本当だったのね。
でも、驚いて固まったままでいるわけにはいかないわ。
私はすぐに姿勢を正して、声の主、オルガン様に身体を向けた。
「お帰りなさい。予定よりも少々お早いお帰りですね。でも、嬉しいです。またお会い出来るのを心待ちにしていましたの」
「嬉しい? 俺に会うのを心待ちにしていた? どういう意味だ?」
「兄上! お帰りなさい! 聞いてくだ――」
「オリン。悪いが後だ。妻と二人で話すことがある」
あらあら。
大好きなお兄様、オルガン様に待てをもらって、萎れている様子はまるで子犬のようだわ。
でも、そういう表情をされるのも、オリン様がオルガン様を大好きだからなのよね。
やっぱり仲の良い兄弟って羨ましいわ。
「ということで、君。少しいいかな?」
「はい。もちろんです。お話とはなんでしょう?」
「ここで話すのもなんだから……俺の執務室へ行こう。心配することはない。きちんと対面のソファがある」
「まぁ! オルガン様の執務室へ? お帰りを待つ間、屋敷の色々な場所は見させてもらいましたが、オルガン様の個人的な場所は、初めてですから。楽しみです」
「楽しみ? やはり君は少し変わっているようだな……」
変わっている。
どういう意味で言ってくださったのかしら。
悪い意味でなければいいのだけれど。
オルガン様に連れられ、オルガン様の寝室や執務室などが並ぶ屋敷に一角へと向かう。
よく考えてみると私の部屋はここからだいぶ離れた場所のあるのよね。
夫婦というのは寝室が近いものだと思っていたのに。
オルガン様は鍵を取り出し、重厚そうな扉を開ける。
中を見ると整然としていて、とても仕事が捗りそうな内装だ。
それでも侯爵家の主が使うに相応しい、質の良さそうな調度品が置かれている。
「ここに座りなさい」
「はい。失礼します」
オルガン様が向かいの一人がけのソファに腰掛けたのを確認してから、勧められた三人がけのソファへと腰を下ろす。
せっかくこっちに余裕があるのだから、隣に座ってくださればいいのに。
なんて言えないわね。
「それで……どういうことだ?」
「どういうこととは、なんでしょうか? ごめんなさい。質問を質問で返してしまって」
「ふむ。俺が居ない間、ドラムに君のことを定期的に連絡するよう指示してあった。そのことは知っているか?」
「まぁ。そんなことをしてくださっていたんですね。存じ上げませんでしたけれど、私のことを気にかけてくださってありがとうございます。とても嬉しいですわ」
てっきり私のことを少しも思い出してくださってなかったと思っていたら、定期的に確認していただなんて!
オリン様の言う通り、やっぱりオルガン様はお優しい方なんだわ。
あら? でもどうしましょう。
オルガン様がいらっしゃらない間に、勝手にハープに休暇を取らせたり、庭園の薬草を使ったりしたわね。
大丈夫だったかしら。
でも、好きにしていいって言ってくださったわけだし。
「君は……噂とはずいぶん違うようだな。いい意味でだ。ドラムからの連絡では、まるで連絡を知っているのを知って、わざと良い人間を演じているのではないか、と思うくらいのことをやっている。連絡を読む度、そんな印象を受けた」
「まぁ……やっぱりオルガン様も私の噂をご存知でしたのね。でも違うんです! 私、おかしな行動なんか!」
「まぁ、待て。君の噂は確かに聞いている。だからこそ俺に相応しいと思った。仮面侯爵と公然と陰口を言われる俺の妻にな。ただ君は違ったようだ。こちらの落ち度だ」
「どういう意味ですか……?」
オルガン様の伝えたいこと、話の意図がさっきから分からないわ。
違ったとはどういう意味かしら。
オルガン様に落ち度なんてあるはずがないのに。
こんなに素敵な生活をさせていただけているんですもの。
「つまり……君との契約結婚を無かったことにしようと思っている」
「なんですって!? ……ごめんなさい。あまりにも突然すぎて……」
「君が噂通りの女性なら、失礼な言い方だが、誰も貰い手はいないと思った。俺のようにな。ところが君は狂人どころか、使用人にすら礼節と慈愛の心を持った立派な貴婦人だったようだ。君が望めば俺などよりまともな嫁ぎ先が――」
「待ってください!」
思わずオルガン様の言葉を大声で遮ってしまった。
でもこれだけは言わないと。
無機質な仮面の下の表情は分からない。
けれど、私の声に驚いた様子のオルガン様に伝えないといけないわ。
例えこの家を追い出される運命だとしても。
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