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1章【人間国】

ランダム

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いいクエストないかなぁ~??
俺らは違約金の話が終わったあと、クエストボードの前に来て、何かいいクエストが無いか見に来ていた。
案の定そんなにいいクエストは無く、報酬がいいものでも中銀貨2枚程度。しかも商人の護衛なので2週間かかるらしいのだ。
もちろんこんなもの却下する。


しかしこれ以外のクエストは良くて大銅貨5枚程度。
やはり、前勇者が言っていたこの街の周りに強い魔物はいないというのに間違いはないだろう。


ちなみにこの街は【人間国】の中でも最西端に位置するらしく、これより西は魔界との境目であり、あまり人が近づかない場所らしい。
俺の住処はそこにあるんだけどね~。
ママンやっぱり強かったのか。
それを簡単に超えちゃった俺って一体…

















結局この日はいいクエストは見つからず、このままギルドにいても仕方ないので、1度ギルドの外へ出た。



「ねぇねぇ…お腹空いた。」


アスカは相変わらず俺の右腕に抱きついたままそんなことを言う。
確かに今日は1日何も食べていない。
【イレンフォレスト】で食べていたワンダラビットが恋しい。
お腹が空いていたら何も出来ない!
そう考えた俺は嗅覚を頼り、裏道へ向かった。


美味しそうな匂いがする方へ、する方へと進んでいくと、たくさんの屋台が並ぶ通りに出た。
たくさんの人で賑わっていて、元の世界の夏祭りみたいな感じだった。
目の前には「きなこスライム」と大きく書かれた店があった。
わらび餅のような見た目のものがパックに詰められてたくさん置いてある。


あのきな粉がかかっているのは多分スライムなんだろう。
少し興味が湧いたが、ただでさえお金がないのにそんなことに使っている余裕はない。
安くてお腹が膨れるもの。それを今求めているのだ。


「ねぇ~レラ~。あそこの店なんてどう??」


アスカが指さす先にはもくもくと煙が立ち上った1件の屋台があった。
何を売っているのかを見てみると、「ランダム牛丼」と書いてあった。
確かに何か嗅いだことのある匂いがするとは思っていたが。
牛丼の匂いだったのか。


まさか異世界で嗅げるなんて思ってなかったぞ牛丼。


美味しそうな匂いにつられると、「1杯400ゼノ!」と大きく書かれていた。

2人で800ゼノ。
思っていたより少し高いが、この匂いを嗅いでしまってはもう我慢できる気はしない。
しかも何がランダムなのかとても気になる。
半ば衝動買いのように俺はランダム牛丼を2杯購入する。


紅しょうがやネギみたいな薬味は自由にかけていいらしく、少しでもかさましするために俺はたくさん紅しょうが(みたいなもの)をかける。
アスカはあまりこのふたつが得意じゃないようで、何もかけてはいなかった。


屋台から離れて、もう一度ギルドの方に戻ってくる。
人の邪魔にならない端の段になっているところに2人で座る。


落ち着いてこの牛丼を見てみるとどうやらシンプルに牛バラ肉で作られているようだった。
肉の色が汁の色と同じになるまで煮込まれていて、非常に味が染みていそうだ。
俺は一気に肉と米と紅しょうがを口の中にかきこんだ。
口いっぱいに汁が広がる。噛めば噛むほど肉の中からも汁が溢れてきて、紅しょうがの少しの酸味も合わさってありえないほど美味しい。


アスカも俺と同じことを思っているようで、口を牛丼でいっぱいにして、幸せそうな顔で笑っている。


俺ももう一度味わいたいと思ったので、牛丼に箸を入れた。
すると驚いたことに肉の一部がバラ肉からタンになったのだ。
肉の色合いは同じままで形や薄さがタンに。
俺はそれをそのまま口へ運ぶ。
食感がタンのものに変わっていた。
さっきはやわらかとろけそうな食感だったが、今は柔らかくともしっかり食感を感じることが出来る。
うまい。


俺はもしや、と思うことがあり、もう一度牛丼に箸を入れる。
すると残っていた肉がさらに変化し、厚切りのサーロインになった。
味が染み込んだサーロインとご飯と紅しょうが。
ただの牛丼とはまた違った美味しさがある。
脂身は柔らかく、赤身の部分は噛みごたえ抜群で噛めば噛むほど肉の汁が溢れ出る。


気付いたら3分ほどで食べ終わってしまっていた。
1杯とは思えない満足感。
女子であるアスカでさえも5分ほどで食べ終わっていたので、これはかなり美味しいし、食べやすいものなんだろう。


ランダム牛丼のランダムの意味は恐らく肉の種類。
箸を入れる毎に、ランダムに肉の種類が変わるのだろう。
試しにアスカに聞いてみると、アスカはバラ肉の後にカルビになり、その次は鶏の胸肉のように、その次はタンになったようだった。


すっかりお腹もいっぱいになり、ランダム牛丼の虜になった俺たちは屋台通りから宿が沢山ある通りに向かった。















ギルドで教えて貰っていたこの街で1番安い宿「水無亭」についた。

ここは2人用の部屋が一部屋1日300ゼノ。
ご飯はつかないが、外で食べてきた俺らにとっては関係ない話。
水無亭とかいう名前なのにちゃんと井戸はあり、しっかり水を使うことが出来る。
俺は迷わず一部屋借りた。


部屋はそれなりに広がった。
シングルベッドが2つと、灯りを置くための台の他には何も無いが、何も無いおかげで逆に自由に使えるスペースが多い。
俺はそこに荷物を起き、ベッドに腰掛けた。
アスカも俺と同じように荷物を置き、俺の方を見る。


この部屋に入った途端、アスカは少し不機嫌な様子になっていた。
小声で「シングルベッドが2つとか聞いてない」とか言ってたのでダブルベッドで俺と寝れると思ってたのだろう。
こんな安い宿でそんなわけないだろう。
シングルベッドで2人で寝るならありそうな話だが。


もちろん俺は望んでいる。しかし今はそんなことをしている場合じゃないのだ。

「アスカ、少し聞いて欲しい話がある。」

俺がそう話を切り出すと、なに?と言ったような面持ちでアスカはこちらを見る。
何気ないそんな仕草でさえ可愛い。
いかんいかん。
俺は一度深呼吸して覚悟を決めた。

「今日はここで1人で寝てくれ。俺はLv上げと情報収集を兼ねて街の外で一夜を明かすから。」


正直、今のLvでも全く問題ないとは思うのだが、それは今までの敵が弱かったから。
それとこれからいろんな依頼を簡単にこなすために変身出来るものの種類を増やしておきたい。
そういう考えがあり、俺は外で1晩過ごすことを決意した。


しかしアスカはかなり怒った様子で、

「夜は危ないよ!一緒に寝ようよ!」などと欲望丸出しの供述を繰り返しており、まともな話も出来なさそうだったので、暗示を使用して、命令をしておいた。


俺の命令は絶対という暗示のおかげで渋々ではあったが受け入れてくれた。


ただ街の中で泊まるだけではもったいないので、アスカにも情報収集を頼んだ。
俺が部屋を出る時も未練タラタラな様子でこちらを見てきたが、命令を破ることは…ないと思う。


アスカのことは気にせず俺は宿を出た。














今俺は街の外へ出てきている。
街の外壁は見える程度の距離でLv上げをするつもりだ。
この辺りの魔物は全然ククールの体で余裕で勝てる。
しかし俺自身のLvはまだまだ低い。
アトムやクレアもトドメは俺じゃなくアスカが行っているので、俺には全く経験値は入っていない。


そういうこともあり、俺はLvが上がってないのだ。
俺は街道を外れ、森の中へと歩みを進める。






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