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1章【人間国】

異常

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俺が街の外に出てから1時間ほどが経った。
続々と現れる雑魚敵たちを斬って斬って斬りまくっている。
魔力なんて纏わせなくてもただ剣を振るだけでいいんだから本当に楽だ。
今はオーク2匹を屠ったところだ。


この森にはファンタジーで有名なモンスターばかりいる。ゴブリンや、コボルド、オークに、九尾狐…は冗談だ。


基本的に1番強いのはオークである。
冒険者のランク敵にいえばDランクより少し強いくらい。Cランク帯では弱めの部類に入る。
単純な力が強いために、防具がまだ整っていない低ランク帯では強力な敵だろう。
しかし頭が悪いので経験を積んだ冒険者なら簡単にオークの次の動きを予測できる。
そういう意味ではDランクとCランクは間に少し壁があるイメージだな。


もちろん今した話は基本的な話で、突然変異のゴブリンがオークを倒すとか、頭のいいオークが出現するとかのイレギュラーはある。
ただクエストボードを見た感じそんなイレギュラーは残念ながら起こっていないようだった。


ちなみにオークは常時発生型のクエストであるため、狩れば狩るだけ報酬が貰える。
非常に繁殖能力が高いので絶滅することはなく、むしろ常に狩るペースでないとどんどん増えていってしまうのだ。
ゴブリンも同じ理由で常時発生型のクエストになっている。


こいつの討伐証明部位は頭に生えた角だっけな。
ゴブリンも角だったなぁ。
いくら死んだ相手だとしても、かなり厳つい顔面の近くまで手を持っていくのは怖いものである。
もしかしたらこいつらは死んでからの方が俺を苦しめているかもしれない…。


少しビビりながらの作業だったため、5分ほどでかかってしまった。
これは不可抗力なのでしょうがない設定だから!
しょうがない設定だから!(2回目)


オークの角も回収して、彼らの死骸を火魔法で焼いていく。
オークは平気で共食いとかしちゃうし、ここって街道にも近いから匂いとかに釣られて魔物がやってきてしまったらめんどくさいことになりそう。
俺には関係無いことなんだけど、なんか最終的に自分に回ってきそうな嫌な予感がしたので大人しく焼いておく。


焼き終わって少し近くの木陰で休憩する。
時間的には夜の7時くらいだろうか?
アスカと宿で別れたのが5時半くらいだったはずだったからそれくらいで間違いないだろう。
月の明かりのおかげで昼よりは不自由するが、問題なく戦えている。
というか俺はあんまり視界とか関係ないんだけどね。
だいぶ前、闇魔法で霧を作った時の応用で、ただの魔力を霧のように広範囲に散布することで、その霧に動く物体が触れると気づくことができるようになったのだ。
俺はこれを魔力感知と呼んでいる。
魔力感知のおかげで俺の半径5mくらいにいる動くものなら目を閉じていても相手できる。
本気を出せば半径10mくらい行くかもしれない。


《魔の加護》のおかげで、こんな無茶苦茶な魔力の使い方をしていても、全くMPが減らないので安心して使っている。


そうやって俺は休んでる間も警戒を続けてるってわけだ。
しかし今はどうやら5m以内に敵はいないらしい。
今日は寝ずにLv上げするつもりだから、ここら辺でゆっくりしておこうかな。
















30分ほど水筒に入った水で喉を潤したり、足のマッサージをしていた。
その間も5m以内に動くものは入ってこなかったわけだが…


遠くの方から何やら戦闘音がする。
普通の冒険者ならこんな時間に外に出ることはないと思うから、よほど馬鹿な冒険者か、それとも俺みたいに少し異常な冒険者なのかな?
興味が湧いたので、音のする方へ向かってみる。
近付くに従って音が鮮明になっていく。
金属音がするので剣でも振り回しているのだろうか?


更に近づいてみてビックリした。


そこにはゴブリンがチームを組んでオークに立ち向かっている姿があったのだ。


普通のゴブリンでも何人かで一緒に行動して狩りをするのはアスカに教えて貰っていたが、これは完全にチームと呼べる人数?いる。
しっかりとした剣を持って前衛の役割をするゴブリンが5匹。
後ろで援護射撃を弓矢で行うアーチャーが3人。
さらにその横に丁寧に木で作られたであろう杖を持っている魔法使いらしきゴブリンが2匹。
そして他のゴブリン達より一回りほど大きいゴブリンが1匹。
おそらくこいつはホブゴブリンとかいうやつなんだろう。
ゴブリンが進化した姿。
別に珍しいものではないが、こうしてただのゴブリンと一緒に行動しているのは異常だとは思う。


基本は巣を守っているか、同じホブゴブリン同士何人かで狩りをするものなのだ。
まるで見守っているように何もしないのも気になる。


それより異常なのはこのゴブリンたちの練度。
かなり洗礼されているように見える。
1匹の剣士ゴブリンがオークに斬り掛かる。
それと同時に他の4人の剣士たちはオークの背後に回り込んでいく。
単体ではもちろん力はオークに軍配が上がるので、斬り掛かったゴブリンは力負けして吹き飛ばされてしまう。
しかしそれも作戦のうちのように動揺することなく背後に回った4匹のうちまた1匹が斬り掛かる。
残った3匹の剣士は背後には回らず横から挟み込むように切り込む。
その間に飛ばされた1匹を魔法使いゴブリン1匹が回復させる。
残りの1匹は牽制役のようだ。
3匹のアーチャー達は今は仕事は無いのだろうが、オークとの先頭が始まったばかりの時は剣士があの距離まで接近するのに活躍したと思われる。
その証拠に何本か矢がオークの膝あたりに刺さっている。



明らかにおかしいこの練度。
ただのゴブリンがここまでの事を思いつくとは思えない。
突然変異種でも巣に発生したのかもしれない。
確かに今日俺が出会った魔物の中にはゴブリンはいなかった。
たまたまだろうと思い全然気にしていなかったが、この練度を見るともしかしてわざと俺に接近しないようにしていたのかもしれない。


他のゴブリンの群れもこのレベルで動くようならランクDには厳しいぞこのゴブリン。
ランクCであれば問題はなさそうだが、苦戦する者達も出てくるかもしれない。


これは今倒しておくべきだな。
オレのレベル上げにもこの数いれば便利だし。


そう考えた俺はおもむろにママンの姿に変身して、火魔法を放つ。
今回のイメージは火と言うよりは熱。
電子レンジのように赤外線のような形状にした魔力の波をゴブリン達に向ける。
これなら森が燃えることはないだろう。


まだ俺に気付いていないようなゴブリンたち。
俺の魔法に最初に当たってしまった3匹のアーチャー達は卵がレンジの中で爆発するように破裂してしまった。


それを見た他のゴブリン達は俺に気付いたようで1度オークから距離を取ろうとする。
しかしオークはここまで苦しめた本来弱いはずのゴブリンにここぞとばかりに反撃する。


俺に気を取られていた1匹の剣士ゴブリンは簡単にオークの腕の一振りで吹き飛ばされていた。
残り3匹はオークから距離を取ることに成功したが、
この状況で剣士2匹とアーチャー3匹が動くことが出来ないゴブリンたちは厳しいだろうな。


ただ俺の目標は別にゴブリンだけじゃない。
先程放った波と同じものをオークにも向ける。
オークは疲れているようで避けるような仕草をすることもなく俺の魔法により絶命した。


さてこうなってしまえばあとはもう簡単だ。
ただの虐殺なのだから…。















残りのゴブリンを全滅させたところでホブゴブリンが俺に向かってきた。
ただ俺にただのホブゴブリンが勝てるわけもなく。
ククールの姿に戻り使用した魔剣に簡単に切り刻まれ、死亡した。


ステータスを確認してみると20だったLvが25になっていた。
他の能力も順調に上がってきている。
スキルも進化したりしないのかな。
まぁそれもどんどんレベルが上がればわかることだろう。


とりあえずはこいつらの討伐証明部位を全部取っちゃうか。
また俺は地獄のような作業に従事するのであった。
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