びんの悪魔 / 2023

yamatsuka

文字の大きさ
47 / 62
第二十七章

第一話

しおりを挟む

 保健室から出た智香を最初に捉えたのは後悔だった。それはまるで彼女の影のように歩く方向にしたがって姿や形を変え、追いつめようとすればするほど、彼女の手から逃れた。

 智香は、自分の軽薄さ、ずっと追い求めていた証拠を手に入れたせいで、舞い上がっていたことを認めた。他人の過去を面白半分に、それもびんの悪魔に頼んだ自分の浅はかさを恨んだ。

 そのために鬼平にとって辛く思い出したくもない記憶の扉を開けてしまったこと、それを察せなかったこと、倒れた鬼平に何もできなかったこと、自分からそうなるように仕向けながら鬼平の話を聞いていられなくて彼から逃げたこと、そのすべてを悔やんだ。

 あの嬉しかったはずの麻由里との再会も、今では自分がしたことのせいで汚れてしまったかのような気がした。そうして、後悔は智香の心に渦巻き、彼女の気分をぐちゃぐちゃにした。

 怒りの収まらない智香は学校の外に出るなりびんを取り出し、思い切り地面に向けて投げつけた。

 びんは智香をからかうように本物の陶器のような音を立てた後、実際はゴムのように数回跳ねて地面に転がった。

 智香はすぐに肩で息をしながらびんに近寄り、手に取った。びんは憎らしいほどに傷一つなかった。それは、相変わらず何事もなかったかのように輝いている。

 智香は、侮辱されていると思った。今まさに、実際にびんの中の悪魔が舌を出して嘲笑っているように見えたからだ。智香はますます怒りに駆られて、今度は近くの用水路まで歩いて、フェンス越しにびんを投げ入れた。用心深くびんの行方を見張っていると、びんは、放物線を描き、音を立てて水の中に沈んだ。

 いくら待っても、何の音沙汰もなかった。智香は、勝ち誇ったような笑みを浮かべて、そこを去った。だが、用水路をいくらか離れた途端、彼女はその手にびしょ濡れのびんを持っていた。

 智香は驚いて、手を離した。びんは笑うように、地面の上をころころと転がってその姿を彼女に見せつけた。

「もう! ああそう? 逃がさないってこと? ルールがあるって? 悪魔のくせに、律義に守ろうっていうんだ?」

 智香は自分が、何も返事をしないびんに向かって怒っていることに気付いてうんざりした。深呼吸をして、少し冷静になった。顔を上げて周りを見て、誰も今の光景を見ていないことにホッとした。智香は観念してびんを拾うと、歩いた。

「そっちがそういうつもりなら、いいよ。あんたを消す方法を探してやるから。あんたの下らないルールなんかよりもずっといいやり方で!」

 智香はまた自分がびんに話しかけていることに気付いて、投げつけたい衝動に駆られたが、手を止め、改めてびんを見つめた。それから手とびんについた汚れをハンカチで拭うと、すぐに鞄に入れた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

地味男はイケメン元総長

緋村燐
青春
高校一年になったばかりの灯里は、メイクオタクである事を秘密にしながら地味子として過ごしていた。 GW前に、校外学習の班の親交を深めようという事で遊園地に行くことになった灯里達。 お化け屋敷に地味男の陸斗と入るとハプニングが! 「なぁ、オレの秘密知っちゃった?」 「誰にも言わないからっ! だから代わりに……」 ヒミツの関係はじめよう? *野いちごに掲載しているものを改稿した作品です。 野いちご様 ベリーズカフェ様 エブリスタ様 カクヨム様 にも掲載しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん! 好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。 ほのぼのラブコメというか日常系小説 オチなどはなく、ただひたすらにまったりします 挿絵や文章にもAIを使用しております。 苦手な方はご注意ください。

処理中です...