並行世界の殺人~十二人の「私」と連続殺人事件~

yamatsuka

文字の大きさ
2 / 18
プロローグ

「時」

しおりを挟む
 時は流れる。過去から現在へ、それから未来へ。
 川の流れのように、あるいは熱のように、過去から未来へと流れていく。

 私はずっと、「時」というものをそう考えていた。「時」というのは川のような形をしていて、つまり、始まるがあって終わりがある。そして、それは最後には大きな海のようなものに繋がっているのだと。

 私はそれを疑ったことはなかった。 

 でも、ある時を境に、そのことに疑問を抱くようになった。

 それで調べてみると、どうも昔の人は「時」というものをいまとは違うふうに考えていたらしい。

 「時」は昔、自分のしっぽを自分で咥えているあの「ウロボロス」のような形をしていた。始まりが終わりで、終わりが始まりであるような、循環する、永遠の楕円形を。

 それを知って私は、「時」の形は、人々がどう考えるかで変わるのだと思った。「時」というのは人間が作り出した概念でしかないのかもしれないし、そもそも「時」なんてものは存在しないかもしれないのだ。

 そして、いま、私の考える「時」の姿とは、この宇宙そのものだと思っている。

 闇と光。それが「時」の姿だ。

 宇宙に広がる銀河、そこに集まる星々は可能性による無数の種であり、そのすべてが「時」なのだ。

 私は、私たち一人一人がその種から発生しては消えていく、「時の花」だと思っている。

 そして、それだけではなく、おそらく「時」はこの宇宙以外の姿を隠し持っている。

 私たちが観測する宇宙の他にも、可能性は無数にあり、それらがみな時の姿だ。

 私には無数の「私」がいる。幼馴染と付き合って結婚した場合の「私」、都会に出て働いている「私」、地元に残って働くことを選択した「私」、作家として暮らしている「私」、海外に旅に出た後、日本に帰らずにそこで働きながら暮らしている「私」……。

 この〝私〟は、無数に存在する「私」の姿の一つでしかない。

「時」というものをそう捉えた時、私は、小さい頃、あの時、学校での休み時間、ぼんやりと校庭の外を眺めていた時、フェンスの向こうに消えていったもの、それは私が過ごさなかった私の「時」の姿だったことにようやく気付くことができた。

 こうして私は、時の向こうにいて見えない「彼女たち」と連絡を取る方法を探した。

 そして、長い年月をかけて、私は「時の魔法」を完成させた。それは十二人の別世界の「私」たちを、リースのように繋げた「時の環」と私が呼ぶネットワークだった。

 私は完成したその「時の環」を、バラバラだった十二人の「私」それぞれに十二支にちなんだ名前を付け、区別した。

 十二人の「私」は、私の生きなかった可能性を、それぞれの「時」を生きている。
 十二人の「私」は、私が本当はどんな可能性を持っているのか教えてくれた。

 それぞれの「私」はまったく別々の人生を歩んでいながら、どれもが私だった。

 例えば子供を産んでいる「私」と連絡を取っていると、彼女の子に対する愛情は、私のものだったし、外国で貧困問題に取り組んでいる私と連絡を取れば、彼女のこの世界に対するやるせなさは、私のものだった。

 同時に、時々退屈過ぎてうんざりするような普通の暮らしをしている私は、他の私にとっては、喉から手が出るくらいに羨ましい、平穏で安全な暮らしでもあった。

 私は、自分が何もしていないのに、私以外の「私」が、別の世界で行動して何かを手にすることですべてを手に入れることができた。

 驚いたことに、つまらないような私の経験も、別の「私」の役に立ったのだ。

 そうして「時の環」がうまく機能し出すと、私のすべての行動が意味を持つようになり、私がそれまで抱いていた、自分に対する絶望感や虚無感は急速に薄らいでいった。

 それは、この繋がりを得たことによる最大の恩恵だった。

 私は、別世界の「私」たちに助けられたのだ。

「時の環」を完成させた私は、すべてを手に入れたと思いこんでいた。

 ――あの事件が起こるまでは。

 それまではこの「時の環」にリスクがあるとは思っていなかった。

 いや、本当のところ、そのリスクについて考えていたのに、そんなことが起こるはずがないと、目を背けてしまっていた。

 私には、それがまさか、十二人の「私たち」に、この「時の環」に壊滅的な影響を及ぼすとは考えもしなかった。

 そしてひとたび事件が終わると、私は「時の環」が、私を完全にしていたのではなくて、自らの過去、それから未来へと向き合うことから避けていただけなのだと、ようやく気付けたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

処理中です...