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綺麗事と自己正当化の紙一重

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 共同長家の出口、続々と包囲の人数が増えている。

 剣やナイフで武装するヤクザ者も混じっている。どうやら、子どもたちからの搾取には非合法勢力も一枚噛んでいたようだ。

「おい!どういうつもりだ?お前ら、公務執行妨害で牢にぶち込んでやる!」

 ヒュンケが威圧する。

「話は聞こえたぞ!どの道、俺らを逮捕するつもりだろうが!」

「そうだ!他人の生活圏に役所の犬が入ってくんじゃねえ!」

 ヤクザ者たちが反抗の声をあげる。彼らには役人に踏み入られては困る事情があるようだ。

「ふん、お主ら、牢に入れられる心当たりがあるということか。子どもへの補助金もろくなことに使っておらんようだな」

 指摘するガンツ。感情的になるヒュンケ。

「最低のクズ親どもが!全員、とっつかまえてやる!」

 水商売風の派手な女が反論する。

「雀の涙ほどの補助金を親が好きに使ってどこが悪いんだよっ!もっと金出してから偉そうにしなっ!」

 クレアが前に出る。

「道を開けなさい。児童搾取、児童虐待の時点で罪です。ましてや集団で行っていたなら尚更。公務執行妨害も重なりますと死罪相当です」

 怯む者もいたが、女が反論する。

「いいとこのお嬢さんが綺麗事いってるんじゃないよ!世の中にはまともに生きられない人間もいるんだ!安全なとこから好き勝手言われても響かないんだよっ!」

 クレアが答えるより先に、気の短いヒュンケがキレる。

「ろくでなしの自己正当化が一番ムカつくんだよ!結局、努力もしねえで他人のせいにしてるだけじゃねえか!」

 言うや否や、派手な女を殴り飛ばす。地面に叩きつけられ伸びてしまった。

「こいつやりやがった!」

「もとより、公務執行妨害は死罪だぜ!」

 あっという間に4人を斬り伏せるヒュンケ。

「く、くそ、強いぞ!あの女と子どもを狙え!」

「お嬢様、下がっていてくだせえ」

 ヤクザ者たちが長家へ殺到する。入り口でガンツが応戦し、クレアと少年は後ろに下がる。

「ちっ、数が多い!」

 舌打ちをするガンツ。数が多い上に、非合法組織の用心棒は戦い慣れている。背後のクレアと少年を守りながらではジリ貧だ。

「お前ら全員消せば、ここの平和は守られる!来るんじゃなかったなあ!」

 数に任せた優勢に勢いに乗るならず者たち。ヒュンケもガンツもじりじりと後退していく。

「くっ…、ごめんなさい…。ガンツ…」

 自らの軽率を後悔するクレア。

「お嬢様、戦いは粘った者勝ちですぜ。勝つためにできることをやりましょうや…!せいっ!」

 剣を振るいながらガンツが励ます。

(そうだ、自分にもできること)

 クレアが手のひらに魔力を集中させる。

 押し寄せるヤクザ者に向かい手をかざすと細い電撃が放たれる。直撃を受けた男が大の字に倒れ込む。

「うわ!魔法使いだ!聞いてねえぞ!」

 2発目を撃とうとするクレア。力が入らず、すでにヒザが小刻みに震えている。

「…まだ……まだ…っ!」

「お嬢、そっち行く!無理するなっ!」

 ヒュンケが道を開きながらクレアに駆け寄ろうとする。その背後からナイフを持った男が飛び込んでくる。

「ヒュンケ!危ないっ!」

 クレアが2発目の電撃を出す。あわやのところで男を捉えた。

 男は倒れたが、クレアも魔力切れを起こし、ひざから崩れ落ちる。もはや意識が朦朧として視界がかすむ。

「魔法使いが倒れたぞ!押し込めっ!」

「お嬢様!少年、お嬢様を中に」

 ガンツがクレアを少年に託す。

 「は!はいっ!」

 まだ20人以上は残っている。

「よーし!手こずらせやが…」

 リーダー格の男が勝利を確信した途端、爆発音。黒焦げに炭化したリーダーが倒れ込む。

「ふうっ!なんとか間に合った!」

 雷撃魔法を放ったのは馬に乗って現れた領主フィリップ伯爵。

 長女クレアたち三人の動向は部下に報告させていた。スラムに向かった時点で連絡を受け、急いで警備兵を引き連れ向かってきたのだ。

 さすがに彼は熟練の魔法使い。連続魔法で次々と犯罪者たちを屠っていく。逃げようとした者は配下の警備兵が取り押さえていく。

「動けねえっ!」

「なんだ!これは!」

 ガンツとヒュンケに迫っていた残りの一団は地面から生えた黒い鎖に締め付けられる。拘束魔法の術者は長い黒髪の女性。

「クレアっ!クレアっ!」

 倒れたクレアに真っ青な顔で駆け寄ってきたのは、彼女の母リンダだった。
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