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アルコール依存&DVの毒親

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 スラムの共同長屋。領内でも職にあぶれた者たちがその日暮らしをする一帯。

 埃っぽく、生活臭漂う一角から怒号が聞こえてくる。

「銅貨1枚だとっ!?この役立たず!半日も何をしていた!」

 父親の張り手が少年の頬を打つ。40代の太り気味の男と10歳程度の痩せた少年。明らかな体格差の暴力に口の中を切り、鉄の味が広がる。

「き、今日は…、薬草が取れなくて…」

 言うや否や、もう一度、頬を打たれる。切ったばかりの口の中の傷が広がり、血にむせかえる。

「ごほっ!ごほっ!」

 酒の買えない苛立ちを息子にぶつける父親。

「関係あるか!銅貨1枚で買える酒があるかってんだ!」

(酒をやめろよ!)

 少年は思うが、それを言ったら更に殴れられるのは目に見えている。黙って耐えるしかない。

 この酒飲み暴力親父に愛想を尽かし、母さんは妹を連れて出ていった。もう何年も前の話だ。

「も…もう一度薬草を取りに行ってくるよ…。待ってて…」

 口の中の血を飲み込みながら、家の出口にフラフラと向かう。

「酒買えるまで戻ってくるんじゃねえぞ!」

 後ろから怒鳴りつける親父。せめて、心の中で言い返す。

(くそ…!働けよ…、クソ親父!)

「働けよ!クソ親父!」

 少年が口にしたのではない。

 いつの間にか入り口に立っていた銀髪の騎士。その後ろに熊のような騎士と、金色の髪の少女。

 さきほど薬草を買ってくれた大人たちだった。

 あわよくば、助けを求められたらと薬草を売りにいったが、しかし、最後まで助けを求めることはできなかった。他の大人たちと同じように、断られるに決まってると思ったから。

 まさか、ついてきてくれていたとは。

「なんなんだぁ!おめーらは!」

 親父が警戒して声を上げる。

「おめー、昼間っから酒飲んで、子ども殴って!ふざけんなよ!」

 怒髪天を突く銀髪の騎士が踏み入った。椅子に座り込んで酒を飲んでいた親父の顔面へ強烈な一撃。

 家屋内に鈍い音が響く。

「ぐ!ぐほっ…っ」

 床に転がり落ちる親父。

 追撃して腹を蹴り上げる銀髪の青年。鈍い打撃音が室内にこだまする。

「やめ…っ!やめてくれ!」

 許しをこう親父の胸ぐらを掴む騎士。

「この屑が!」

 強烈な往復ビンタが叩き込まれる。

「…あ…!あっ!ぐ……!」

「ヒュンケ、殺してはなりません!ほどほどで!」

 美しい少女が慌てて止める。

「お嬢!大丈夫だ!寸止めにしとく!」

 といいつつ、10発ほどビンタを食らわし、蹴り飛ばし殴りつけていく。

 あっという間に親父の顔が大きく腫れ上がる。

 少年は内心、(やれ!もっとやってくれ!)と銀髪の騎士を応援している。父親への同情心は一切、持てない。

 熊のような騎士が少年に声をかける。

「少年、これまでよく耐えたな。あれは…、一応、この飲んだくれは君の父親か?」

「……はい」

「…そうか。今後、君の面倒は役所が見る。父親は処罰し親権を剥奪する。現行犯である以上、決定だ。よいな?」

 淡々と二人の処遇を説明する年配の騎士。だが、不思議と冷淡さは感じない。

「……はい。それでいいです…」

 若い騎士に蹴り上げられた父親が少年の前に引き出される。

「おら、立て!息子に謝りやがれ!」

「…ぐ…、すまなかった!父さんを助けてくれっ!」

 上目遣いに助けを求める父親。

 いつもとまるで違う卑屈な態度に怒りが湧き上がる息子。

「ふ…、ふざけんな!今まで、お前がどれだけ!」

「なんだと!恩を忘れやが…!」

逆上した親父に、それ以上に逆上した銀の騎士。親父の股間を蹴り上げる。

「ぐぎょ!」

二度、…三度、…四度。容赦のない蹴り上げ。失神し、口から泡と血を流す親父。

「こいつは脳が腐ってやがる。謝罪も反省も期待できねえが、いいか?このまま牢にぶち込んでも?」

 青年騎士が少年に確認をとる。

「はい…。この父親には何も期待していません」

「ところで…、あなたが暴力を振るわれているのに、ご近所の大人たちは?この長屋なら、怒鳴り声は周囲に聞こえてもおかしくないはずですが…?」

 クレアの問いに、うつむく少年。

「……誰も助けてくれないです。近所の大人たちは『お父さんは酔ってないときは本当はいい人だから』と…。『ちゃんと言うこと聞けば大丈夫だ』って…」

「くそっ!無責任な大人ばかりだ、ここは!」

 少年の告白に、悪態をつくヒュンケ。そして、目を目合わせるクレアとガンツ。

 主人たるクレアが考えを述べる。

 「他の子供たちも危ないと思う。今から保護できるだけ保護した方がいいと思うんだけど、どう?」

「賛成ではありますが…。拙者とヒュンケだけではこの一帯、手が回りません。いったん、戻って警備隊を呼んできましょう」

「やるなら、早くやろうぜ。こいつ牢にぶち込んで、小僧に飯を食わせてやる必要もある」

「わかりました。では、警備隊を連れて、そうしたら戻ってきましょう」

 ガンツが気絶した父親を担ぐ。ヒュンケを先頭に長家を出る。

 一歩、外に出ようとしたヒュンケが後ろに声をかける。

「お嬢と小僧は外に出るな。ガンツ先輩、そのクソ親父は置いて、俺の隣に」

 クレアがヒュンケの肩越しに外を見る。

 すでに長家の出口は、遠巻きに数十人の大人たちに塞がれていた。浮浪者然とした者からごろつきのような者たち、男と女。入り口を包囲されていたのだった。
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