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二十一話 ほくほくぽてと
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この町は山頂に近いので吹く風が強い。
それを利用して発電所から各家庭まで風力発電して、地下に設置した受信機へと無線で電力を配っている。
その他、避雷針による蓄電も行っている。
町の地理の特徴の一つとして、棚田ゆえに起伏が大きい。
なので坂道が多く、白線の上に浮かんで電磁推進する路面電車が村を巡っている。
そして、安全のために信号や横断歩道が設けられている。
家屋は、基本的に木材と土で作られている。
外壁は青空に憧れて青色が多く、次いで秋地方らしい紅に黄が多く、橙と緑が少なくも存在する。
平均気温は低めで、夕方からグンと気温が下がり、冷たい風を全身に浴びて余計に寒く感じる。
そこで僕達や外からやって来る観光客は必ず厚着してここを訪れる。
「あー寒いな」
「君のおかげで僕は温かいです」
「ふふ、あたしも温かくなってきたかも」
僕の前を密着して歩く二人だけアツアツだ。
まるでアチアチポテトが二本歩いているようだ。
中山三郎、九頭龍りん。
二名は去年の学園祭よりお付き合いをしている。
こしかたゆくすえ、水戸岡芽、この沸騰した激熱カップルとは違い穏やかで、スピード婚しようなどという兆候すらない。
「あ、ごめんね」
「うん。大丈夫」
隣を歩く逆瀬川ちゃんからの不意打ちタックル。
ふらついて危うく街灯にぶつかりそうになったが避けたので大丈夫。
とは言え、まったく気を付けて歩いてほしいものだ。
いや、どうせならカップルの間に突撃して真っ二つに割いてやってほしいという邪なる考えはグリフォンがもたらす聖なる風に運ばれて芳しい匂いの中に消えた。
実習を終えて疲れた僕達は目的地のオアシスへと辿り着いた。
店のガラスドアには春地方に暮らす人など植物しか食べない人でも安心してウェルカムというシールが貼られている。
ポテトフライ専門店ポテトライフ。
それは秋地方限定のチェーン店で、種類が豊富、安価でたくさん食べられる、と好評で世界にその名が知れ渡っている。
「今日はどれにしようかな」
「川大くんは海苔塩がお気に入りなんだよね」
「そうなんだけど、三回も食べてるから今日は他の味を食べたいし」
逆瀬川ちゃんはポテサラにするという。
僕は花屋敷さんにも意見を求めることにした。
「私は塩豆にしようかな」
塩豆だと?
メニューを見る限りエダマメっぽい色のソースが付属するようだ。
よし決まった。
「染みバターでお願いします」
「いいね!」
逆瀬川ちゃんが親指を立ててウインクする。
僕はましても下手なウインクを返した。
「だろう?」
さて、注文を終えて席に着く。
僕と三郎さんが椅子に座り、向かいのソファーに逆瀬川ちゃんと九頭龍さんが座った。
隣の席は椅子に花屋敷さんが座ってその向かいに、さつま緑さんと園田真知さんが座った。
ポテトの到着を待つ間に二人の熟女を紹介しよう。
彼女達は二人とも彼氏持ちの熟女で、一年生の時は話す機会の少なかった方々だ。
二年生になって道を別れたことで、それが幸運にも、こうしてお喋りする機会を増やしてくれた。
さつま緑さん。
彼女はポニーテールを肩にかけた素敵熟女。
よく笑い、手を叩いたりリアクションが大きいが、決しておばさん臭いわけではない。
むしろ、いい匂いがする。
園田真知さん。
彼女は大人しく口数の少ない人で、珍しく眼鏡を掛けている素敵熟女。
異世界人は生まれつき目が頑丈らしく眼鏡を見る機会が少ない。
伊達眼鏡もあまり見かけない。
眼鏡フェチの方には残念な知らせだ。
すまないが眼鏡屋さんで我慢してほしい。
「今日は一段と寒かったねえ」
「そうね」
さつまさんが言うように、この町の気温に慣れた地元人が肩を上げて歩くくらい今日は寒かった。
「ねえ、雲雀丘さん」
園田さんは二年生になって自ら話すことが多くなったように思う。
クラスメイトが減って他人と接しやすい環境になったということだろうか。
「何だい?」
「お願いがあるの」
「ふむ」
「今度の実習は私達を手伝ってくれないかしら?」
僕達は四季の道というだけで三人で組んでいる。
きっと女性二人では大変で困っているのだろう。
なれば彼女の誘いは受けて然るべきだ。
「僕が手伝いましょうか?」
「川大くんはいいよ。ありがとう」
川大くんは……川大くんは……。
困っている人を助けようとしただけなのに。
花屋敷さんが心配そうにこちらを見るので笑顔を送った。
彼は二人に向き直り快く承諾した。
「喜んでお手伝いさせてもらおう。しかし、チームワークが崩れたりしないだろうか」
「どう?緑?」
「私なら平気平気」
「私も平気」
「そうか。分かった」
「お願いした理由はね。将来、グリフォントリマーのお仕事をする時に三人編成もあるかも知れないから」
「それで、経験しておきたいということか」
「そういうこと」
それならばこそ僕をチームに入れてくださいと言えたら……。
実力は花屋敷さんが上だし、僕は下心で手伝おうとしていたのでメンバーになる資格はない。
彼女は真面目で僕は不真面目だった。
名乗り出たことが恥ずかしい。
僕は、後悔ばかりしている気がする。
染みバターだけだけが正解だ。
植物由来でも香り高い。
「今度の実習は二人になるね」
逆瀬川ちゃんの注文したポテサラはポテトサラダを丸めて揚げたようなものだ。
まあまあ大きい狐色の芋団子が六つ並んである。
美味しそうだから今度はこれを注文しよう。
「もしかして、私とじゃ嫌?」
「え?」
「ずっと一緒にグルーミングをしているから」
嫌ではないが一理ある。
ランダムに熟女と……これこそ不純だ。
いけない。
今年は真面目に勉強を頑張ると決めたんだ。
彼女は欲しいけど。
「そんなことないよ」
周りの目が痛い。
我らのお姫様を悲しませるなというメンチビームが僕の心をビリビリ痺れさせる。
「嫌じゃない」
「そう。良かった」
百日紅と同じ笑顔だ。
分かる。嬉しくて仕方ないって笑顔だ。
「来週は僕を頼って。いつも以上に力になる」
「じゃあ、頼りにするね!来週もよろしく!」
さつまさんが拍手するので慌てて止めた。
店の中では目立つので勘弁してほしい。
三郎さんが泣くのも。
「三郎さん。どうして泣いてるんだよ。泣くことじゃないだろ」
「すみません。二人の友情に僕は心を打たれまして」
「だからって」
「泣かせてやってくれ」
九頭龍さんは言って、三郎さんの隣に立ち背中を撫でてやる。
慰めるというより促すように。
「泣きな。さぶりんの真っ直ぐなとこが好きだ」
「りんりん……好きだ」
ふ、歳を取ると大胆になるようだ。
とにかく、僕は三郎さんの鼻に染みバターポテトを突っ込んでやりたい気持ちになった。
僕もイチャイチャしたい。
トリマーを頑張りたいけど、自分の気持ちに真っ直ぐでいいんだよな。
でも相手がいない。
逆瀬川ちゃんしかいない。
彼女はとびっきり魅力的だけど、恋愛対象として見るのは難しい。
「みなさん、ご迷惑をお掛けしました」
「許してやってくれ」
カップルの謝罪に園田さんが頭を振る。
「私は気にしてない」
「川大くんのせいだものね」
「え!」
さつまさんの突然の裏切りに僕は動揺を隠せない。
僕は何一つ悪いことしていないのに。
女性というのは彼氏以外の男にはここまで態度が厳しくなるものなのか。
若さゆえに知らなかった。
「え!」
「やあね。冗談よ」
「……冗談にならないですよ」
「悪いことした自覚あったの?」
「あるわけないです」
「君は僕を泣かせる罪な人です」
「三郎さん。悪ノリはやめて」
こういう陽の者達のノリは僕に合わないので無駄に疲れる。
言わずもがな僕は陰の者だ。
ここからは黙って、うますぎるポテトを食べるのに集中させてもらおう、と思ったのに。
「ところで川大くん。真知と相談したんだけれど、いつでもいいから、いつか休日にキノコ狩りに行かない?」
「どうしてキノコ?」
「お鍋を出来るから!」
さつまさんと園田さんと浮気デートしろということなら駄目だ。
こっそりイチャイチャしてもデートはさすがに出来ない。
「さつまさんにも園田さんにも恋人がいるでしょう。駄目ですよ」
「心配しなくて大丈夫。ここにいる皆で遊びに行こうって相談よ」
それならトリプルデートでもしろ、なんてことは言わない。
友情を分かち合い思い出を作るのは大賛成だ。
だって去年は何のイベントもなかったから!
「どうしても気になる?」
「いいえ、園田さん。僕は行きましょう」
その答えを聞いて、さつまさんがパンと手を叩く。
「川大くんは良いって。さ、他のみんなはどう?」
即決、みんなで行く。
さすが陽の者はノリが軽い。
予定も近い日に決まった。
来週。
このスピード感は癖になりそうだ。
ワクワクが止まらない。
それを利用して発電所から各家庭まで風力発電して、地下に設置した受信機へと無線で電力を配っている。
その他、避雷針による蓄電も行っている。
町の地理の特徴の一つとして、棚田ゆえに起伏が大きい。
なので坂道が多く、白線の上に浮かんで電磁推進する路面電車が村を巡っている。
そして、安全のために信号や横断歩道が設けられている。
家屋は、基本的に木材と土で作られている。
外壁は青空に憧れて青色が多く、次いで秋地方らしい紅に黄が多く、橙と緑が少なくも存在する。
平均気温は低めで、夕方からグンと気温が下がり、冷たい風を全身に浴びて余計に寒く感じる。
そこで僕達や外からやって来る観光客は必ず厚着してここを訪れる。
「あー寒いな」
「君のおかげで僕は温かいです」
「ふふ、あたしも温かくなってきたかも」
僕の前を密着して歩く二人だけアツアツだ。
まるでアチアチポテトが二本歩いているようだ。
中山三郎、九頭龍りん。
二名は去年の学園祭よりお付き合いをしている。
こしかたゆくすえ、水戸岡芽、この沸騰した激熱カップルとは違い穏やかで、スピード婚しようなどという兆候すらない。
「あ、ごめんね」
「うん。大丈夫」
隣を歩く逆瀬川ちゃんからの不意打ちタックル。
ふらついて危うく街灯にぶつかりそうになったが避けたので大丈夫。
とは言え、まったく気を付けて歩いてほしいものだ。
いや、どうせならカップルの間に突撃して真っ二つに割いてやってほしいという邪なる考えはグリフォンがもたらす聖なる風に運ばれて芳しい匂いの中に消えた。
実習を終えて疲れた僕達は目的地のオアシスへと辿り着いた。
店のガラスドアには春地方に暮らす人など植物しか食べない人でも安心してウェルカムというシールが貼られている。
ポテトフライ専門店ポテトライフ。
それは秋地方限定のチェーン店で、種類が豊富、安価でたくさん食べられる、と好評で世界にその名が知れ渡っている。
「今日はどれにしようかな」
「川大くんは海苔塩がお気に入りなんだよね」
「そうなんだけど、三回も食べてるから今日は他の味を食べたいし」
逆瀬川ちゃんはポテサラにするという。
僕は花屋敷さんにも意見を求めることにした。
「私は塩豆にしようかな」
塩豆だと?
メニューを見る限りエダマメっぽい色のソースが付属するようだ。
よし決まった。
「染みバターでお願いします」
「いいね!」
逆瀬川ちゃんが親指を立ててウインクする。
僕はましても下手なウインクを返した。
「だろう?」
さて、注文を終えて席に着く。
僕と三郎さんが椅子に座り、向かいのソファーに逆瀬川ちゃんと九頭龍さんが座った。
隣の席は椅子に花屋敷さんが座ってその向かいに、さつま緑さんと園田真知さんが座った。
ポテトの到着を待つ間に二人の熟女を紹介しよう。
彼女達は二人とも彼氏持ちの熟女で、一年生の時は話す機会の少なかった方々だ。
二年生になって道を別れたことで、それが幸運にも、こうしてお喋りする機会を増やしてくれた。
さつま緑さん。
彼女はポニーテールを肩にかけた素敵熟女。
よく笑い、手を叩いたりリアクションが大きいが、決しておばさん臭いわけではない。
むしろ、いい匂いがする。
園田真知さん。
彼女は大人しく口数の少ない人で、珍しく眼鏡を掛けている素敵熟女。
異世界人は生まれつき目が頑丈らしく眼鏡を見る機会が少ない。
伊達眼鏡もあまり見かけない。
眼鏡フェチの方には残念な知らせだ。
すまないが眼鏡屋さんで我慢してほしい。
「今日は一段と寒かったねえ」
「そうね」
さつまさんが言うように、この町の気温に慣れた地元人が肩を上げて歩くくらい今日は寒かった。
「ねえ、雲雀丘さん」
園田さんは二年生になって自ら話すことが多くなったように思う。
クラスメイトが減って他人と接しやすい環境になったということだろうか。
「何だい?」
「お願いがあるの」
「ふむ」
「今度の実習は私達を手伝ってくれないかしら?」
僕達は四季の道というだけで三人で組んでいる。
きっと女性二人では大変で困っているのだろう。
なれば彼女の誘いは受けて然るべきだ。
「僕が手伝いましょうか?」
「川大くんはいいよ。ありがとう」
川大くんは……川大くんは……。
困っている人を助けようとしただけなのに。
花屋敷さんが心配そうにこちらを見るので笑顔を送った。
彼は二人に向き直り快く承諾した。
「喜んでお手伝いさせてもらおう。しかし、チームワークが崩れたりしないだろうか」
「どう?緑?」
「私なら平気平気」
「私も平気」
「そうか。分かった」
「お願いした理由はね。将来、グリフォントリマーのお仕事をする時に三人編成もあるかも知れないから」
「それで、経験しておきたいということか」
「そういうこと」
それならばこそ僕をチームに入れてくださいと言えたら……。
実力は花屋敷さんが上だし、僕は下心で手伝おうとしていたのでメンバーになる資格はない。
彼女は真面目で僕は不真面目だった。
名乗り出たことが恥ずかしい。
僕は、後悔ばかりしている気がする。
染みバターだけだけが正解だ。
植物由来でも香り高い。
「今度の実習は二人になるね」
逆瀬川ちゃんの注文したポテサラはポテトサラダを丸めて揚げたようなものだ。
まあまあ大きい狐色の芋団子が六つ並んである。
美味しそうだから今度はこれを注文しよう。
「もしかして、私とじゃ嫌?」
「え?」
「ずっと一緒にグルーミングをしているから」
嫌ではないが一理ある。
ランダムに熟女と……これこそ不純だ。
いけない。
今年は真面目に勉強を頑張ると決めたんだ。
彼女は欲しいけど。
「そんなことないよ」
周りの目が痛い。
我らのお姫様を悲しませるなというメンチビームが僕の心をビリビリ痺れさせる。
「嫌じゃない」
「そう。良かった」
百日紅と同じ笑顔だ。
分かる。嬉しくて仕方ないって笑顔だ。
「来週は僕を頼って。いつも以上に力になる」
「じゃあ、頼りにするね!来週もよろしく!」
さつまさんが拍手するので慌てて止めた。
店の中では目立つので勘弁してほしい。
三郎さんが泣くのも。
「三郎さん。どうして泣いてるんだよ。泣くことじゃないだろ」
「すみません。二人の友情に僕は心を打たれまして」
「だからって」
「泣かせてやってくれ」
九頭龍さんは言って、三郎さんの隣に立ち背中を撫でてやる。
慰めるというより促すように。
「泣きな。さぶりんの真っ直ぐなとこが好きだ」
「りんりん……好きだ」
ふ、歳を取ると大胆になるようだ。
とにかく、僕は三郎さんの鼻に染みバターポテトを突っ込んでやりたい気持ちになった。
僕もイチャイチャしたい。
トリマーを頑張りたいけど、自分の気持ちに真っ直ぐでいいんだよな。
でも相手がいない。
逆瀬川ちゃんしかいない。
彼女はとびっきり魅力的だけど、恋愛対象として見るのは難しい。
「みなさん、ご迷惑をお掛けしました」
「許してやってくれ」
カップルの謝罪に園田さんが頭を振る。
「私は気にしてない」
「川大くんのせいだものね」
「え!」
さつまさんの突然の裏切りに僕は動揺を隠せない。
僕は何一つ悪いことしていないのに。
女性というのは彼氏以外の男にはここまで態度が厳しくなるものなのか。
若さゆえに知らなかった。
「え!」
「やあね。冗談よ」
「……冗談にならないですよ」
「悪いことした自覚あったの?」
「あるわけないです」
「君は僕を泣かせる罪な人です」
「三郎さん。悪ノリはやめて」
こういう陽の者達のノリは僕に合わないので無駄に疲れる。
言わずもがな僕は陰の者だ。
ここからは黙って、うますぎるポテトを食べるのに集中させてもらおう、と思ったのに。
「ところで川大くん。真知と相談したんだけれど、いつでもいいから、いつか休日にキノコ狩りに行かない?」
「どうしてキノコ?」
「お鍋を出来るから!」
さつまさんと園田さんと浮気デートしろということなら駄目だ。
こっそりイチャイチャしてもデートはさすがに出来ない。
「さつまさんにも園田さんにも恋人がいるでしょう。駄目ですよ」
「心配しなくて大丈夫。ここにいる皆で遊びに行こうって相談よ」
それならトリプルデートでもしろ、なんてことは言わない。
友情を分かち合い思い出を作るのは大賛成だ。
だって去年は何のイベントもなかったから!
「どうしても気になる?」
「いいえ、園田さん。僕は行きましょう」
その答えを聞いて、さつまさんがパンと手を叩く。
「川大くんは良いって。さ、他のみんなはどう?」
即決、みんなで行く。
さすが陽の者はノリが軽い。
予定も近い日に決まった。
来週。
このスピード感は癖になりそうだ。
ワクワクが止まらない。
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