完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

七角@書籍化進行中!

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1章 兄の婚約者が様変わりしたようです

1話 禁忌の魔法遣いの覚醒②

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 依然声も出せずにいたら、公爵の腕の力がわずかにゆるんだ。
 至近距離で目が合う。常に威厳ある彼らしくなく切実で、溢れる愛を抑えきれず、どこか怖がっているようでもあり、諦念も垣間見える表情に、息を呑む。

 まったく別人に出会ったみたいに錯覚した。

「もうこうするしかない。君は、一年以内に死ぬ。その悲劇を覆すべく、私の手を取れ」

 続く台詞に、ますます面食らう。

(わたしが……死ぬ?)

 第一声は柄にもなく気弱だったのが、今度は普段と同じ低く鋭い声で、断言された。一年という妙に具体的な数字を添えて。
 それを言ったら、公爵こそ確かに死んでいた。発見者も、侍医も、わたしも見た。彼が今、生きているほうが信じられない。
 可能性として考えられるのはたったひとつ。

「……閣下。禁忌を、犯したのですか」

 死者蘇生。すなわちフセスラウ国では禁じられている魔法を遣ったとしか思えない。
 いつの間に、どうやって、何のために、魔力の封印を解いたのか?
 想い人が蘇生しても無邪気に喜べず、全身力ませたまま答えを待つ。

「禁忌、か。そういうことにしておこう。今回も童貞公僕から悪役公爵に転生できた」

 公爵は回りくどく認め、口角を片側だけ上げて笑った。顏の腫れは引き、生気と色気まで復活している。
 わたしは今にして赤面した。まだ公爵と密着している。うるさいほどの拍動が伝わってしまう。離れようともぞもぞ身じろぐも、逆に抱き込まれる。

「すべてユーリィのためだ。ゲー……原作ではほぼ接点のない私たちだが、私はもう君を喪いたくない。どうかそれだけは忘れないで」
(わたしのため?)

 小首を傾げる。国を治める意気に満ちた公爵は、第二王子のわたしには興味がないはず。そうして余所見せず使命に邁進する姿にこそ惹かれたのだ。
 それに「オシ」とか「テンセイ」とか、意味不明な単語を口にした。「悪役」や「原作」も何を指すのだろう。最初は一人称も違っていた。
 何より、わたしが死ぬとは? 持病はないし、第二王子を暗殺しても仕方ない。
 疑問ばかりが浮かぶ。

「わたしが死ぬとは、どういうことですか?」
「今詳しくは話せない。『二回目』の二の舞になりたくないゆえ」

 こわごわ問うも、ますます翻弄された。
 第二王子のわたしには話す価値もないか。
 それはそうと、公爵は怪我がすべて消えたわけではなく、服もぼろぼろのままで、痛々しい。

「ひとまず、侍医を呼びましょう」

 そう提案すれば、公爵は一転、声を出して笑った。

「君は、ずっと、変わらない。優しく無垢な弟王子だ」

 笑っているのに、泣いているようにも見える。
 こんなふうに笑う公爵は見たことがない。大掛かりな蘇生魔法の後遺症かもしれない。心配が募り、出入口へ身体を向けた。
 しかし公爵に強く抱き竦められ、踏み出せない。

「今、廊下に出ちゃいけない。ペトルに鉢合わせて、尋問される」

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