完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

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幕間Ⅱ

六回目①

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だめ宮、聞いてんのか」
「どいてください」

 はあー? と顔を歪める上司を押し退け、私用スマホを引っ掴む。

(自分の仕事のできなさに、僕がいちばんむかついてるよ)

 もはや一年近く前、三回目の異世界でも失敗した――ユーリィに、捕らわれる前に王宮を出てもらったら、「不審な行動」と追われて処された――僕は、異世界の知識がないのが問題だってやっと気づいた。

『だめ宮、聞いてんのか』
『申し訳アリマセン』

 もしまた転生できるなら、備えあれば憂いなし。
 コインシャワーに行くふりで、ネット検索した。「ユーリィ」「エドゥアルド」「ニコ」、「フセスラウ国」「始まりの魔法遣いたち」。それらの固有名詞から、『再来の王子の戴冠』というBLゲーム内に転生していると突き止めた。

(めずらしい攻め視点、で、基本は固定カプ?)

 織物職人見習いの主人公が、始まりの魔法遣いたちから、「次代の王婿の座にかなければ国が破滅する」という啓示を受ける。
 使命感で王宮にもぐり込み、王太子を攫う。
 もともとの王太子の婚約者である公爵と争ううちに、美しい王太子との恋が始まり、深まり――。

『ひゃ、子づくりも魔法でがっつりするんだ……わ、ぁっ!?』

 はじめて触れるBLの設定やストーリーを読むのに夢中なあまり、前方不注意で車に跳ね飛ばされ、またユーリィに再会できた。

 どうやら僕は、日本で死ぬ度に異世界に転生し、異世界で死ぬ度に日本に巻き戻る。
 ただし、やり直しのための考察と情報収集の猶予は、長くても日付が変わるまでの数時間。

(次は誰に根回しすればいい?)

 べたつく髪を掻きむしる。
 自分が悪役公爵だとわかった四回目、破滅回避のために主人公ニコと戦って勝ち、コンスタンティネと将来の王婿の座を手に入れた。けれどその直後、シメオンに思わぬ提言をされた。

『魔力を持つ弟王子を生かしておくのは、いかがなものでしょうか。王権簒奪をもくろみ、国を破滅させる可能性があります』
『一理ありますね。ユーリィ』
『……はい。それがわたしの使命なら、命を捧げます』
『ユーリィ、何を言って、』

 聞き入れるユーリィもユーリィだ。高潔過ぎる。
 絶望がよみがえり、瞼を閉じる。

 僕ははじめて自ら命を絶ち、やり直すと決めた。シメオンに根回しさえすればいい。ユーリィは王太子を補佐する存在だと。

 そのはずが、五回目は四回目にシメオンが提言したタイミングで、ペトルがユーリィを暗殺した。

『弟王子の野心が、自分にはわかります。王太子殿下のため、王権簒奪の芽を摘みました』
『よくやった、ペトル』

 何が、何がよくやった、だ!
 報告に参じたペトルに、自棄で斬りかかる。
 でも、童貞公僕が騎士に剣で敵うわけない。半ば自分から刃を受けにいった。

(申し訳ない、ユーリィ。怖い思いを、痛い思いをさせて。せめて同じ思いを味わうよ)

 息絶える間際、コンスタンティネの背後でほくそ笑む――ニコと目が合った。

「……悪役が増長すると、原作の強制力が主人公に味方するわけか」

 ついさっきの苛立ちとやるせなさがこみ上げ、爪を噛む。

「次の六回目は、原作に反してコンスタンティネと結婚するのはやめよう。シメオンとペトル両方に根回しする。よし。待ってて、ユーリィ」

 時間だ。車のヘッドライトに目が眩む。
 ……正直、死ぬのは怖い。でもユーリィが死ぬのはもっと耐えられない。
 スクールカースト下位からブラック公僕になった僕に恋愛経験はないのだが、好きってこんな感情なのかもしれない。

「閣下? ひとまず、侍医を呼びましょう」

 今回も、ユーリィが優しく頭を撫でて起こしてくれた。画面越しではわからない、いい匂いもする。ぜんぶうまくいったら、もう一度僕の頭を撫でて、笑ってほしい。

(ニコに負けて悪役公爵として破滅する形でも、別に構わない)

 その一心で立ち回り、ニコとコンスタンティネの結婚を祝福する。原作どおり進めば、主人公らしい善良な好青年だ。
 シメオンとペトルにも根回しした。結果、僕とユーリィで王太子カップルを補佐する流れにできた。

 これでループはおしまいだ。もう日本には戻らない。未練は一切ない。フセスラウでのんびり生きていこう。

「ユーリィ。よければ今度、私の居城で茶会でも。自慢の料理人たちともてなそう」

 意を決して誘う。ユーリィははにかみながら応じてくれた。なんて可愛いのか。

 後日、ミロシュ領へ招待した。
 私室へ案内するさなか、ユーリィの碧眼が見開かれる。

「エドゥアルド公爵! お願いです、私を匿っていただけませんか……!」


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