完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

七角@書籍化進行中!

文字の大きさ
51 / 67
6章 恋物語は諦めます……

18話 裏切りの契約婚

しおりを挟む
 フセスラウとパルラディの統一に向けた二国間協議は一週間にわたって行われた。両王太子の婚約は当人の好印象もあり、合意に漕ぎつける。

(まだまだ調整や検討はありますが、歴史的な一日です)

 いったん帰国の途に就くパルラディ一行を見送りつつ、わたしは兄に刺繍入りの膝掛けを手渡す。フセスラウの職人はあまりしない型の刺繍だ。

「ステヴァン殿下が、雨による寒暖差で体調を崩していないかと気に掛けていらっしゃいました」
「そう? 自分でも驚くほどよく眠れているのだけれど」

 贈り物に、兄の頬が上気する。
 護衛につくニコは、死角で苦虫を噛み潰したような顔をした。



「協力しろって言ったろ。エドゥアルドの命は俺の掌の上だって忘れたのか」

 夕方、私室になだれ込むなりニコが罵倒してきた。
 わたしがそう仕向けたとも知らずに。
 悪役王子たるもの、旧主人公を翻弄くらいできなければ新主人公になるなど夢の夢だ。殺したいほどの憎しみは雨の染み込む土下に閉じ込め、考えておいた台詞を口にする。

「あなたこそ、わたしも王子なのを忘れていませんか?」

 兄への悋気すら含ませて見つめれば、ニコが一転、品定めの目になる。
 兄を好む彼は、同じ銀髪のわたしも当然嫌いではない。関係を結べば玉座に近づけるという付加価値もある。「原作」のわたしも、当のわたしも、王太子である兄に成り代わろうという気がなかっただけだ。

「へえ。さすが隠しキャラ、その台詞でステヴァンを誘惑したのか。それじゃ飽き足らずループして、今度は俺を落とすってわけか? ビッチだな」
「……『カクシきゃら』、とは?」

 満更でない顔にさせたのに、つい訊き返してしまう。ニコはソーマ以上に謎の単語を使うのでもはや外国語のようだが、そのうちのひとつが引っ掛かった。
 カクシきゃら。
 再三、耳にする。ソーマのほうは一度も口にしなかった。

 ニコはこれみよがしに歪んだ笑顔になる。

「あんたのことだよ。お兄ちゃんへの嫉妬でステヴァンと結託して、フセスラウに攻め込んでめちゃくちゃにするキャラだ」
「何……です、って?」

 初耳過ぎる。わたしは「脇役」のはず。わたしはこれから一年以内に、望みの安寧と真逆の行動を取るというのか?

 我が物顔で長椅子に座るニコのつくり話だと、笑い飛ばせない。八回目の「戦死」の顛末と似ている。

(ソーマ。テンセイの夜に、すべて話してくれたのではなかったのですか?)

 「それでそんな正義ムーブできるんだ」という、一周目のニコの声がよみがえった。のちに国を破滅させるのに、国を守ろうとするのが滑稽に見えたのだろう。

「エドゥアルドを殺すのは当てつけかな」

 肩を竦めたニコが、そうと知らずとどめを刺してくる。

「わたしが、あの方を、殺す――?」

 心の支えにしていた「すろうらいふ」の光景が、霧散した。

「そうだ。あんたが殺す」

 ニコが、口数の減ったわたしの顔を覗き込み、強調する。
 ソーマが真実を話さなかったのは無理もない。わたしを刺激しないよう努めたのだ。
 ……ああ、ゆえにわたしには悪を演じる才能があって、対象は違えど「殺したい」衝動も大きいのか。しみじみ腑に落ちる。

(ソーマの優しさは、自分の死を回避するための、演技だったのでしょう)

 わたしが優しいと言われても、わたしにはわからない。
 十二回分の話も、巧みに脚色されているとみた。ひと晩かけて話し合い、積み上げた信頼と感じ取った愛まで、揺らぐ。

「おっかなくなってきたから、味見はまだやめとこう。だが、形式は整えてもいいかもな」

 その間にニコが腕を組み、何やら考えを張り巡らせる。
 一周目の情報や、わたしの死亡ふらぐの覚え書きの詳細を聞き出そうとしてこないのは、この世界について圧倒的な知識を持つからだと思い知らされた気分だ。

「よし。来週、王に会わせろ」

 無茶な命令をひとつ残して去る。衝撃の事実を消化できないわたしは放置された。
 ここにいない人を想う。

(一周目、結局わたしを庇って死ぬなんて、莫迦な人……)

 薄暗い私室の隅で、自分の身体に腕を回す。自分の手では震えは止まらなかった。



 ――後日、わたしとニコも婚約を交わした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

処理中です...