完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

七角@書籍化進行中!

文字の大きさ
60 / 67
7章 これが魔法遣いたちの望みです

22話 書かれなかった物語②

しおりを挟む
 最上階だというのに露台を伝ってきたのか。
 いや。夜闇ゆえ、掌と両足がかすかに光を帯びているのがわかる。

「兄上も、魔法を遣えるのですか?」

 一周目の記憶を活用できなくなって、いきなりの試練だ。
 兄は上衣の片側が肩から落ちたまま。紫眼は、キョウセイリョクが働いたときのソーマとは違って――。
 恨みが見て取れる。わたしへの恨みが。

「ユーリィ、きみだけ自由に生きていけるなんて、不公平じゃないか。私は先に生まれたために死ぬまで国に囚われる。しかも初恋の公爵まで手に入れて……裏切り者」

 台詞を読むのが上手い彼だからこそ、誰かに言わされているのではないと伝わってきた。
 一周目にも聞いた、本音だ。

 わたしは二周目も自分で手一杯で、兄の孤独に寄り添えていなかった。ステヴァン殿下がついていればいい、と考えていた。
 立ち上がり、ゆっくりと兄に歩み寄る。

「兄上。わたしも、本当は、兄上がうらやましかったですよ。国を統べる使命があり、清廉なお人柄でたくさんの方から愛されています。そんな兄上が……わたしの誇りです。一生兄上を補佐するつもりです。だって、ふたりきりの兄弟ではないですか」

 相反する心情を吐露した。兄も、弟の本音を知らなかったろう。
 次期王の重圧をわずかでも分け合えればと、手を握ろうとする。
 しかし、ぱしっと振り払われた。

「手遅れだよ。私は……穢されてしまった」

 血の気がなくとも美しい顔が、歪む。
 わたしの目の前で、兄が掌を掲げる。

「ユーリィ!!!」

 ソーマが半ば体当たりでわたしを庇う。一周目と同じ結末になってしまったかと思いきや――。
 兄が再び攻撃魔法を放つことはなかった。魔力量が少ないらしい。

「そうやって見せつけて……っ!」

 それでも人が変わったように、わたしに掴み掛かってくる。

「兄上、落ち着いてください、」

 宥めようとしたわたしの掌が、一転して光を帯びた。それと寝台の枕元の絵を交互に見たソーマが、囁く。

「君の役目はまだ終わってない。ニコと僕の転生によって必ず闇堕ちしちゃうコンスタンティネを……退けなきゃいけない。始まりの魔法遣いたちも望む『安寧』を阻む最後の要因ラスボスで、君の最後の死亡ふらぐでもある」
「退ける、って」

 いったん兄の手から逃れ、ソーマを問い質す。

「兄は誰かに意識を乗っ取られてはいませんよ。まさか殺せというのですか?」

 国の安寧と兄の幸せが両立しないなんて、受け入れがたい。

「でないと君が殺される。九回目、いや、これまでのやり直しはぜんぶ……」

 ソーマが言葉を切る。また独りで背負おうとしている。
 国を――世界を守るために、王太子を葬ると。
 どうしてこんな大役を。寝台の横をすり抜ける際に、「始まりの魔法遣いたち」の絵をじとりと見遣る。
 ――ああ、これが、わたしが憧れていた「使命」の重圧か。

「こじれたのは、お兄さんっ子で純粋な君に知られたくなくて黙ってた僕の責任だ。僕がやろう」

 そう長くは逃げ回れない。ソーマが覚悟の一言とともに踏み出す。
 わたしはその前に立ちはだかった。

「いいえ。わたしが欲した役割で……、わたしの兄です。わたしは、悪役王子」

 兄に押し倒されながらも、言い放つ。

「兄上。わたしが王位継承権を丸ごと頂戴します」

 それで兄が自由になれるのなら。
 兄弟の物語を、きちんと演じきってみせよう。

(「原作」のわたしは、フセスラウに攻め込み、兄にも武器を向けるのでしょう。つまりわたしには、それができる……)

 そして今のわたしは、ソーマを譲ることはできない。ソーマのいる世界と兄のいる世界なら、ソーマを選ぶ。

(ゆるして、ください)

 わたしの決意を待っていたかのように、掌に内なる力が集まる。髪を振り乱してわたしに馬乗りになる兄の華奢な身体を、抱き締める。

「――わかりますよ、兄上」

 そのとき、扉から男がひとり駆け込んできた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

処理中です...