ヒールオメガは敵騎士の腕の中~平民上がりの癒し手は、王の器に密かに溺愛される

七角@書籍化進行中!

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4 ソコロフとアナトリエ

2 裏切りのとき

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 瞬時に剣を構え、エリセイと背中合わせで声の出どころを探る。
 すぐそばの彫刻扉ではない。歯欠けの書棚でもない。

(上、か?)

 なんと、天井の一角が、人ひとり通れるぶんだけくり抜かれていた。
 その穴から、階段梯子の最上段に降り立つ人影がある。

 馴鹿毛皮の外衣マントに赤い上衣を合わせた――ルドルフだ。
 エリセイはその馴鹿毛皮を、「おまえさんにはもったいない」とばかりにじろじろ見る。

 呑気にはしていられない。
 ルドルフの後ろからソコロフ派巡回隊員が次々降りてきて、あっと言う間に包囲された。半数が深赤の外套を纏った、プナイネン家の近衛騎士だ。

(巡回任務中のプナイネン家騎士に、書庫に出入りする姿を見られでもしたか? それで真上の床に細工を……)

 先ほどまでは石材がぴったり嵌め込まれており、薄暗い中では視認できなかった。

 密会を、暴かれてしまった。
 よりによってルドルフに。

(この男を色に耽っているだけと決めつけず、もっと警戒すべきだった。今さら遅いが)

 もし尾行されていても入城直前の風雪で撒けただろうと判断した。
 廊下が無人だったのを罠とは思わなかった。

 最近も、この場でも、エリセイに意識が向いていたぶん隙ができたと言えなくもない。
 自分の至らなさに歯噛みしつつ、主人を守る形で前に出る。

 レクスはニキータと分断されたものの、彼をルドルフの好色な視線から守るべく位置取り、片手は剣の柄にかけている。
 対するルドルフは、口角を片側のみ上げて笑み、レクスに歩み寄った。

「レクス、うまくおびき出したな」

 ――おびき出した? 何を言い出すのだ。

「アナトリエ家公子を討てば、百年空いていた王位に就けよう」

 彼の腹づもりに、息が止まり掛けた。
 レクスの本意と真逆ではないか。今までのようにきっちり反論してやりたい。

 ただ、巡回隊員の耳目が気にかかる。
 ソコロフ家公子とアナトリエ家公子の恋を周囲に認めてもらうには、段階が必要だ。
 現状、ニキータを庇えば敵方に誑かされたと思われる。

(ニキータ殿下を討つだけでなく、派閥の面々のレクス殿下への期待を損なわせもして、自分が王位に就く気だな?)

 レクスはソコロフ家の、イスの未来を変える存在だ。ここで失脚させるわけにいかない。

「まだそのときではない」

 当のレクスが口を開く。想いを明かすか、慎重になっている。
 それを利用された。

「ああ。討つ前に愉しまないとな? 雌の味を」

 ルドルフがすっと目を細める。
 それが今夜、自ら王城に出向いた理由か。
 さっきからニキータを雌呼ばわりしている。
 彼の体質を、いちばん知られたくない者に知られてしまった。

 レクスが顔色を変えてルドルフに掴みかかろうとするも、慌てて足を引かざるを得ない。

「……そういうことか」

 ここまで静観していたエリセイが、一言つぶやくや、剣を一閃させたのだ。
 ルドルフの両脇の巡回隊員が応戦したが、二人まとめて吹っ飛ばされた。破格の威力だ。

「目つきの悪いアナトリエの騎士いぬが噛みついてきた。おいオメガ、いずれ王になるおれの盾になれ」

 ルドルフがやや声を上擦らせ、こちらに手を伸ばしてくる。
 「盾になれ」ときた。
 レクスの周りを嗅ぎ回っていたらしい。だが盗み聞きが断片的だったか、いろいろ誤解があるようだ。

(たとえわたしがヒールオメガだとしても、君のような男を守りたいとは思わない。それにわたしはレクス殿下の近衛騎士だ)

 普段なら突っぱねるところだが、それも巡回隊員たちに「どちらの味方なんだ」と思われるか。
 逡巡していたら、エリセイが不機嫌そうにルドルフの手をはたき落とす。

「アナトリエ家公子の従兄が犬なら、おまえさんは何だ?」

 ルドルフが表情を歪める。家格はエリセイのほうが上である。

(エリセイは、この状況がルドルフに仕組まれたものだと酌んでくれている)

 頼もしく思ったのも束の間。

「!」

 今度は、レクスに斬りかかった。

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