『心霊カンパニア』 ~神狢祇~

シルヴァ・レイシオン

文字の大きさ
8 / 14
・霊嗅感能力者 『クレア・サリエンス』

出会い

しおりを挟む
 美味しい食事を存分に堪能し、一息ついたボクは古杣ふるそまさんを見ながら
《ごちそうさまでした》
 と伝え、その際にボクは久しく少し笑顔が作れたと思う。この瞬間から普通の高校生のような感情を取り戻していくんだけど、この時はまだ口元をキュっと横へやるぐらいしかできなかったと思う。

千鶴ちづるさん、あなたはその特異な力をお持ちになられながら、仰っていただいた環境にて精神を病み、意識と精神と共に魂をも生と死の狭間、幽境ゆうきょうへと落ちつつあったの。あの状態ではそこらの浮遊霊体だろうが畜生霊だろうが、接触されると誰でもあなたの身体を乗っ取ることが出来てしまったことでしょう。私が施したのはその幽境からあなたの幽体と意識を引き戻した、それだけです。あなたの自身を正確に見つけることができたのは、そこにいるシャルルさんの御かげでなのです。ありがとう、シャルル」

「いえいえ、まぁ、猟犬みたいなものですから」

 シャルルは照れくさそうにして、外見に似合わず流暢りゅうちょうな日本語で謙遜した。そんなハニカムところもまたかわいい♡

 シャルルはおばあさんが日本人というクォーターで、高い鼻と深い深海のような瞳はどうしても吸い込まれるように見惚れてしまい、いつもボクはシャルルを困惑させている。

「さて、本題でございますが、千鶴さん、あなたにお願いがあるのです」

 日本人は人の目を見て感情などを読み取るというけど、目が閉ざされたあずささんはボクにはハッキリと音程を変えた口調でしか細かな想いを感じることが出来ないでいた。

「私の‟”になってはいただけませぬか?」

 えっ?!・・・っと、どういう意味かが分からずにちょっと狼狽した。その反応をすぐに感じ取ってくれたのか、古杣さんが続いて説明の補足に空かさずに入る。

「会長はにて目が見えません。まぁ、言われなくてもすでに分かっているでしょう。私たちのようなこの能力は決して超能力だとか霊能力といった優れ秀でたものではなく、通常の感覚とはズレたり歪んだりしただけの認知機能なんです。もちろん、梓さんのようにその能力に磨きをかけて卓越した霊能者もいますが、その訓練そのものが代々伝わるような列記とした属性と特性に合った儀式や伝承、修行をしなくてはなりません。それの方法すら一生かけても見つけられずに人生を終えることが殆どです」

 なるほど、と心の中で頷く。でも、眼の代わりの理由にはならない。

「片方や一部だけがズレたままなら、それがその他の感覚の邪魔になり日常生活ですら不便で社会性を失いかねない。それは千鶴ちゃんはその眼にて経験済みでよく分かっていることだと思う。でも、ズレたもの同士が集まり助け合いながらも共鳴し合うことにより補正し合えて、時にはが出来るんです」

 ・・・ちょっとまだ意味が分からないなぁ。

「例えば、僕たちが居るこの世界は一般的に三次元世界と言われる時空間に存在しているのだけど、四次元や二次元にズレることは案外、普通に日常的に起き得ることなんだ。文字や記号というのは一つ一つを見るとただの『点』でしかない。しかし小説のように文字が綴られ文章や文脈を作り意味的な『線』となると、次は僕たちの頭の中で想像という映像が絵という『面』や時には場面という、立体映像、つまりだろう?その僕たちの脳における様々な機能が重力や過去や未来という時間と・・・・・・」

 ちょっとちょっとちょっと汗、なおさら分からなくなってくるよぉ汗。

「ふふふっ・・・ごめんなさい。古杣は変に真面目な所がありますのでね。えっと、千鶴さん、あなたのその能力は少し強まっているようですね。そのままだとまた無念を残しただけの霊体に悪さをされることになるでしょう。でも、そこは私の力によりなんとかなります。その変わりと言っては何なのですが、目が見えぬ私の力になってはくれませぬか?という程度な意味合いでございます」

《え、でも、そういえばさっき、幽体として意識を移動すれば見えるんじゃあ・・・・・・》
 古杣さんの目を見てそう唱えた。

「会長の幽魂剥離ゆうこんはくりは長時間の稼働は出来ないのと、そもそも危険な術でもあるんです。この屋敷内であれば問題ないのですが、肉体が完全に無防備になってしまう・・・君が幽境へと彷徨っていた状態に近い感じだね。その間に・・・会長の目が見えなくなってしまったのもそれが原因でもあるんです」

 古杣さんがなんだか悲しく、そして後ろめたしくも見えた。何があったのだろう・・・・・・

「さっき、千鶴さんも視える霊についておっしゃっていたように、霊体というのは自分の所縁や因果関係、悪い言い方をすればしか見えない、もしくは存在なの。どれだけ具体的か抽象的かはまた個人差がありますが、これだけはどれだけ修行をしても正確に視ることはできませぬ。みんなが同じ景色を見ていたとしても、その『注意』は違うもので、興味や印象そのものが違います。好きな異性の顔の好みや御着物の好みですら人それぞれ違うでしょう?それはそもそもの『感じ方』が違うのです」

「・・・というか千鶴ちゃん。君は残念なことに身寄りがもう無い。帰る場所が無い状況なんです。ご両親や周囲の人たちがどうなったか・・・君が一番解っていることだと思う。君自身が行きたい場所や・・・ここが嫌だというのなら無理は言えませんが、一蓮托生いちれんたくしょうとまでは言いません。是非、よろしければ僕と梓会長が君のにならせてはくれませんか?」

 突然の申し出にボクは驚きを隠せなかった。強制や強要でもない。可哀そうだと同情し、彷徨い死にかけた子犬を拾って無責任にまた捨てるようなことでもない。ただの義務感や使命感、仕方がないようなでもなく、こんなボクを必要とし、そしてボクも必要とする。そんな関係をボクは望んでいたのかもしれないと、後々に痛感した。
 ボクの存在は他の人が不幸になるんだと自暴自棄になり今後の展望も何もなかったのに、その言葉に歓喜しながらまた泣き出してしまった。

《こちらこそ・・・ご迷惑でなければ・・・よろしければ、よろしくお・・・お願いしますぅぅぅ》

 ボロボロとまた号泣した顔をしながら、ボクは古杣さんと梓さんの顔を交互に見ながら、深々と頭を下げた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...