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Phase XV
Annihilation
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人間の身体というのは不思議な部分が多い。例えどんな激臭であれ激痛であれ、慣れてしまう。それは順応といえば逞しく聞こえ適応といえば有能にも聞こえる。しかしただの「鈍化」だといえばそれまでである。
ライトとサルヒコは否が応でも強制的に進まなければならない状況で、徐々にだがこの臭いに慣れてきた。
「・・・で、ここが聖地だってのはまぁいいですけど、この臭いとかなんなんですか?」
「そうだよ、マジなんであんたは・・・ってか、ここの人はどうしてこう、‟こういうの”が平気なんだ?」
「・・・ここの人は、そう、下の人に比べては、だとは思うけれど色んな感覚が鈍っているんだと思う。私自身も、その辺が狂ってないって言いきれる自信は無いわ。こうやってたまにだけど下の人と関わってきて初めて自覚するってレベル。多分、ここではさっきも言ったけれど無関心が常識なのよ」
「だからって、ここのこんな臭いとかもだけどあの中央にある鉄格子の部屋とかさぁ・・・・・・」
「まぁとにかく、ここでは何があったんですか?」
「・・・私たちも詳細は知らなくて、その後の推測でしかないんだけど。・・・そう、あそこのここで一番広い部屋で、当時にいた上層民は『全滅』したの」
指を挿した先には、杭などで厳重に閉ざされた扉があった。
その隙間からは、確かに強い異臭が漂っているかのように臭いの濃度の高さを感じる。この臭いの元であるのは間違いなかった。
「ぜ、全滅って・・・でも・・・・・・」
「そう、今こうして現に私たちがここに居るわね。今、ここにいる全員は元々、下の人たちだったのよ」
「なんだってぇ?!」
サルヒコは驚き、ライトは長老から聞いていた話を思い出す。長老は上に残らなかった人だったことを。そして、この場所はあの時、長老が言っていた‟死体の山現場”だったということが頭の中で繋がり、この臭いの正体が先に見えた。
「おじいちゃんから聞いた話だけれど、みんなここに集まって死んだんだって。だから下への配給も止まり困った下の人がここまで上がってきて、残った人も殺されて・・・そしてその時に上がってきた人が今のここの住人となったそうよ」
「なんで、そんなことになったんだよ」
「僕が聞いた話では、ここの人の『怠慢』から下への配給作業が滞り下の民が餓死しかけた。各コロニーから立ち上がる者を集い、この上層階へと乗り込んだ人がタワーの扉を壊してやってきたが、みんなこの部屋で『圧死』していったと・・・そうして引き継ぐ者がいなくなりそのままその時にここへやってきた表層界の人たちがここに移住するような形へと・・・・・・」
「チェバラさんから聞いたのね。間違いなさそうだね君は。怠慢・・・確かに、そうとも取れるわね。ただそれだけじゃなく『気が狂う者』から身を守るためにも、弱い者は集まってお互いに身を守る必要もあったの。ここは下とは違いかなり『閉鎖的』でしょ?しかも陰湿でネガティブになり易くみんながみんな保身に走り、お互いを警戒しあって生きている。身内しか信用が出来ずに、ここの者同士ですら信用しあっていない。だからどうしても必然的に‟血が濃く”なりやすかった。今ではなぜ昔、ここでそうやって集団で死んだのかがなんとなく分かるわ。現在の私たちも、同じ運命を辿りそうな兆しがあるからね」
「『気が狂う者』?!それって、まさかProber!?」
「プロ??・・・ああ、そういえばこないだ上がってきた人もそんなの言ってたわね。まぁ、結果は似たようなものだけど多分、出生の仕方は全然違うかな。さっきあなた、『鉄格子の部屋』って言ってたわよね。中央の牢屋を見てきたってことなら、話は早いわ。ここでは一定数の確率でああいった者が生まれるの。そしてどんどんと増えては、勢力が逆転し追いやられるって。だからそうならないように、出来るだけ薄める意味でも下の人とは裏では繋がってなきゃダメなんだって。このことはここの普通に暮らしている人は知らないことよ。ここの・・・もっと中心部の人だけが知っている話」
「ってことは、あなたはその中心部の人、ですか?」
「いえ、私はむしろその逆の人間、だとでも思っておいて」
「逆・・・あ、あの、あなたはこのコロニアの、この世界全ての現状をご存じなんですか?下のことも含めて・・・・・・」
「さっきも言ったけど、私はただ頼まれてあんた達を待っていた。その間に下から来た招かれざる者たちと会話することが多く、たまたま他の人よりも少し下のことを知っているだけ。過分なことは聞かないでね」
「ああ、いえ、僕らは興味本位だとか何かを狙ってきた他の人とは違います。僕がここへ来た目的はチェバラ先生の行方を追うだけでなく、下の現状を伝えにきたのもあるんです。あなたが、ここ上層階でそれなりに動けたり発言に力がある人であれば是非聞いて欲しい事があります」
そうして、ライトは下層階で起きた騒動の全てを伝えた。
ライトとサルヒコは否が応でも強制的に進まなければならない状況で、徐々にだがこの臭いに慣れてきた。
「・・・で、ここが聖地だってのはまぁいいですけど、この臭いとかなんなんですか?」
「そうだよ、マジなんであんたは・・・ってか、ここの人はどうしてこう、‟こういうの”が平気なんだ?」
「・・・ここの人は、そう、下の人に比べては、だとは思うけれど色んな感覚が鈍っているんだと思う。私自身も、その辺が狂ってないって言いきれる自信は無いわ。こうやってたまにだけど下の人と関わってきて初めて自覚するってレベル。多分、ここではさっきも言ったけれど無関心が常識なのよ」
「だからって、ここのこんな臭いとかもだけどあの中央にある鉄格子の部屋とかさぁ・・・・・・」
「まぁとにかく、ここでは何があったんですか?」
「・・・私たちも詳細は知らなくて、その後の推測でしかないんだけど。・・・そう、あそこのここで一番広い部屋で、当時にいた上層民は『全滅』したの」
指を挿した先には、杭などで厳重に閉ざされた扉があった。
その隙間からは、確かに強い異臭が漂っているかのように臭いの濃度の高さを感じる。この臭いの元であるのは間違いなかった。
「ぜ、全滅って・・・でも・・・・・・」
「そう、今こうして現に私たちがここに居るわね。今、ここにいる全員は元々、下の人たちだったのよ」
「なんだってぇ?!」
サルヒコは驚き、ライトは長老から聞いていた話を思い出す。長老は上に残らなかった人だったことを。そして、この場所はあの時、長老が言っていた‟死体の山現場”だったということが頭の中で繋がり、この臭いの正体が先に見えた。
「おじいちゃんから聞いた話だけれど、みんなここに集まって死んだんだって。だから下への配給も止まり困った下の人がここまで上がってきて、残った人も殺されて・・・そしてその時に上がってきた人が今のここの住人となったそうよ」
「なんで、そんなことになったんだよ」
「僕が聞いた話では、ここの人の『怠慢』から下への配給作業が滞り下の民が餓死しかけた。各コロニーから立ち上がる者を集い、この上層階へと乗り込んだ人がタワーの扉を壊してやってきたが、みんなこの部屋で『圧死』していったと・・・そうして引き継ぐ者がいなくなりそのままその時にここへやってきた表層界の人たちがここに移住するような形へと・・・・・・」
「チェバラさんから聞いたのね。間違いなさそうだね君は。怠慢・・・確かに、そうとも取れるわね。ただそれだけじゃなく『気が狂う者』から身を守るためにも、弱い者は集まってお互いに身を守る必要もあったの。ここは下とは違いかなり『閉鎖的』でしょ?しかも陰湿でネガティブになり易くみんながみんな保身に走り、お互いを警戒しあって生きている。身内しか信用が出来ずに、ここの者同士ですら信用しあっていない。だからどうしても必然的に‟血が濃く”なりやすかった。今ではなぜ昔、ここでそうやって集団で死んだのかがなんとなく分かるわ。現在の私たちも、同じ運命を辿りそうな兆しがあるからね」
「『気が狂う者』?!それって、まさかProber!?」
「プロ??・・・ああ、そういえばこないだ上がってきた人もそんなの言ってたわね。まぁ、結果は似たようなものだけど多分、出生の仕方は全然違うかな。さっきあなた、『鉄格子の部屋』って言ってたわよね。中央の牢屋を見てきたってことなら、話は早いわ。ここでは一定数の確率でああいった者が生まれるの。そしてどんどんと増えては、勢力が逆転し追いやられるって。だからそうならないように、出来るだけ薄める意味でも下の人とは裏では繋がってなきゃダメなんだって。このことはここの普通に暮らしている人は知らないことよ。ここの・・・もっと中心部の人だけが知っている話」
「ってことは、あなたはその中心部の人、ですか?」
「いえ、私はむしろその逆の人間、だとでも思っておいて」
「逆・・・あ、あの、あなたはこのコロニアの、この世界全ての現状をご存じなんですか?下のことも含めて・・・・・・」
「さっきも言ったけど、私はただ頼まれてあんた達を待っていた。その間に下から来た招かれざる者たちと会話することが多く、たまたま他の人よりも少し下のことを知っているだけ。過分なことは聞かないでね」
「ああ、いえ、僕らは興味本位だとか何かを狙ってきた他の人とは違います。僕がここへ来た目的はチェバラ先生の行方を追うだけでなく、下の現状を伝えにきたのもあるんです。あなたが、ここ上層階でそれなりに動けたり発言に力がある人であれば是非聞いて欲しい事があります」
そうして、ライトは下層階で起きた騒動の全てを伝えた。
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