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作戦会議3
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そんな話をしながら、ぼくらは茶トラ先生の実験室へ戻り、再び作戦会議を開始した。
ところでまだ昼前だったので、「もう一人の茶トラ先生」はまだ二階のベッドで豪快にグーグーと寝ているはずだった。
「ねえねえ、今から寝ているもう一人の茶トラ先生をバットで殴り殺しに行ったらどうなるの?」
「理論的にはそれは可能だろうな」
「やった(^^♪」
「わしを殺すのか? バカなことを言わん。しかもわしは殴られるのはまっぴらだ!」
「そりゃそうだよね。思い切り冗談だよ。茶トラ先生が死んじゃったら思い切り困るし」
「それはいいが、あ~、ともかく偵察したおかげでデモフライトの大体の様子は分かった。あとはどこでお前さんと入れ替わるかだが、それもだいたいの目星はついた」
「ぼくと入れ替わるの?」
「そうだ」
「だれと? で、目星?」
「いいからいいから」
「いいからいいから?」
「そうだ。で、お前さんは喪服などを着ておる場合ではないのだ。ともあれ、お前さんの親父さんが死なない『予定』にせねばならんのだ」
「うん。そうだよね。それはよく分かる!」
「だからこれからお前さんは、ビジネスにふさわしいスーツを着る必要がある。で、親父さんはイカしたグレーのビジネススーツなぞを着ておったな」
「グレーのビジネススーツ? だけど茶トラ先生が持っているのは染めQで黒く塗った喪服のスーツが二着だけだろう?」
「もう一着ある」
「そうなんだ!」
「しかしもう一着あるとは言っても、あ~、黄色に茶色のストライプがあってだな…」
「それっておもいきり『茶トラスーツ』じゃん。だめだよ。グレーに塗り直そうよ」
「いや、あのスーツだけは色を塗りたくない。特別な思い入れがあるのだ。しかもわしはこの日、そのスーツを着て物理学会へ出発する予定なのだ」
「ああ、そうなの。そういう予定なの。じゃ、だめじゃん。困ったね」
「困ったな…」
「どうするの? そうだ! 今から紳士服屋さんへ、そのイカしたグレーのビジネススーツを買いに行く?」
「そんな無駄な金は使いたくない」
「あらそうなの。茶トラ先生って案外ケチなんだね。車はぼろぼろの360ccの軽だしね。昭和の。だけどそれじゃ、やっぱり困ったね」
「そうだ! いい考えがある。何でわしはそのことに気付かなかったんだ」
「で、どうするの?」
「その喪服を脱げ」
「で?」
「いいからいいから」
「いいからいいから?」
それでぼくは黒い喪服のスーツの上下を脱ぎ、カッターシャツと茶トラパンツ姿になった。
そしてぼくの着ていた喪服を受け取った茶トラ先生は、またまた実験室の片隅へ行った。
「再塗装をすればいいのだ!」
「再塗装?」
それから茶トラ先生は、今度はグレーの染めQの缶スプレーを引出しから取り出し、窓を開け、またまたカランコロンと塗装を始めた。(再塗装!)
「やっぱり、ビジネスにはイカしたグレーのスーツが良い」
茶トラ先生がそう言いながら塗装をすると、「ビジネス用」のイカしたグレーのスーツが一着、見事に仕上がり、これまた速攻でヒートガンで乾かした。
「で、茶トラ先生は喪服でいいの?」
「わしはこの作戦では黒子に徹するので喪服で十分だ」
「黒子なら喪服がぴったりだしね」
「それでだな、ビジネススーツを着る前に、お前さんはタイムエイジマシンに入れ」
「また?」
「いいからいいから」
「またいいからいいから?」
「ところでお前さんの親父さんはいくつだ」
「ええと、四十一」
「なぁるほどなぁ。事故に遭う訳だ」
「どうして?」
「厄年だ」
「厄年?」
「まあいい。それじゃ今からお前さんを四十一歳の姿にする」
「どうして?」
「いいからいいから」
「またいいからいいから?」
それでぼくは、またまたタイムエイジマシンに入った。
目の前の鏡の中には、「お通夜用」に、三十歳にされたぼくが映っていたけれど、どうやら今度は四十一歳にされるらしい。
それで機械がブーンとうなり、赤いランプが光り、ぼくの姿が変わりはじめた。
少し白髪も生え、そしてちょうどお父さんと同じくらいの、おじさんの姿になった。
それからぼくは機械の外へ出て、イカしたグレーに再塗装したばかりの「ビジネススーツ」を着た。(二回も塗装すると少しごわごわだったけれど)
「うん。バッチリ瓜二つだ」
「誰と?」
「お前さんの親父さんにきまっとる」
それから茶トラ先生は実験室のどこかから、どういうわけかラジコン飛行機の送信機を持ってきた。
たとえ茶トラ先生の家にそういう物体があったとしても、ぼくはもはや少しも驚かなくなくなっていた。
茶トラ先生の実験室は、それはもうガラクタであふれかえっている。
そもそもタイムエイジマシンだって、だれが見たって、物好きがどこからか拾ってきた証明写真のガラクタにしか見えないし。
とにかく、ラジコンの送信機の一つや二つ、あってもちっとも不思議ではないのだ。
それで、ともかく茶トラ先生はこれから、ラジコン飛行機の操縦方法をぼくに教えるつもりみたいだった。
何のためかはさておいて…
で、かいつまんで言うと、右側のレバーを前後に動かすと、エンジンがコントロールされる。
手前はアイドル(ブルンブルン)で、奥の方へ押し込むとエンジン全開(キーン!)。
そのレバーを左右に動かすと両方の翼にあるエルロンというものが作用し、飛行機が左右に傾く。
次に左側のレバーを手前に引けば、飛行機は機首を上げ高度を上げる。奥の方へ押せば、機首を下げ高度を下げる。
それからそのレバーを左右に動かすと飛行機は左右に向きを変える………らしい。
なんだかとてもややこしくて、ぼくが困ったような顔をしていると茶トラ先生は、
「ややこしいことはあまり考えず、とにかくエンジン全開で豪快に飛ばせばいい!」と言ってくれたので、ぼくはとても安心した。
それから茶トラ先生は送信機の電源スイッチの入れ方も教えてくれた。
スイッチは送信機のちょうど真ん中あたりにあった。
そんなことはいいけれど、とにかくこれからぼくは、お父さんの替え玉にされるみたいだった。
ところでまだ昼前だったので、「もう一人の茶トラ先生」はまだ二階のベッドで豪快にグーグーと寝ているはずだった。
「ねえねえ、今から寝ているもう一人の茶トラ先生をバットで殴り殺しに行ったらどうなるの?」
「理論的にはそれは可能だろうな」
「やった(^^♪」
「わしを殺すのか? バカなことを言わん。しかもわしは殴られるのはまっぴらだ!」
「そりゃそうだよね。思い切り冗談だよ。茶トラ先生が死んじゃったら思い切り困るし」
「それはいいが、あ~、ともかく偵察したおかげでデモフライトの大体の様子は分かった。あとはどこでお前さんと入れ替わるかだが、それもだいたいの目星はついた」
「ぼくと入れ替わるの?」
「そうだ」
「だれと? で、目星?」
「いいからいいから」
「いいからいいから?」
「そうだ。で、お前さんは喪服などを着ておる場合ではないのだ。ともあれ、お前さんの親父さんが死なない『予定』にせねばならんのだ」
「うん。そうだよね。それはよく分かる!」
「だからこれからお前さんは、ビジネスにふさわしいスーツを着る必要がある。で、親父さんはイカしたグレーのビジネススーツなぞを着ておったな」
「グレーのビジネススーツ? だけど茶トラ先生が持っているのは染めQで黒く塗った喪服のスーツが二着だけだろう?」
「もう一着ある」
「そうなんだ!」
「しかしもう一着あるとは言っても、あ~、黄色に茶色のストライプがあってだな…」
「それっておもいきり『茶トラスーツ』じゃん。だめだよ。グレーに塗り直そうよ」
「いや、あのスーツだけは色を塗りたくない。特別な思い入れがあるのだ。しかもわしはこの日、そのスーツを着て物理学会へ出発する予定なのだ」
「ああ、そうなの。そういう予定なの。じゃ、だめじゃん。困ったね」
「困ったな…」
「どうするの? そうだ! 今から紳士服屋さんへ、そのイカしたグレーのビジネススーツを買いに行く?」
「そんな無駄な金は使いたくない」
「あらそうなの。茶トラ先生って案外ケチなんだね。車はぼろぼろの360ccの軽だしね。昭和の。だけどそれじゃ、やっぱり困ったね」
「そうだ! いい考えがある。何でわしはそのことに気付かなかったんだ」
「で、どうするの?」
「その喪服を脱げ」
「で?」
「いいからいいから」
「いいからいいから?」
それでぼくは黒い喪服のスーツの上下を脱ぎ、カッターシャツと茶トラパンツ姿になった。
そしてぼくの着ていた喪服を受け取った茶トラ先生は、またまた実験室の片隅へ行った。
「再塗装をすればいいのだ!」
「再塗装?」
それから茶トラ先生は、今度はグレーの染めQの缶スプレーを引出しから取り出し、窓を開け、またまたカランコロンと塗装を始めた。(再塗装!)
「やっぱり、ビジネスにはイカしたグレーのスーツが良い」
茶トラ先生がそう言いながら塗装をすると、「ビジネス用」のイカしたグレーのスーツが一着、見事に仕上がり、これまた速攻でヒートガンで乾かした。
「で、茶トラ先生は喪服でいいの?」
「わしはこの作戦では黒子に徹するので喪服で十分だ」
「黒子なら喪服がぴったりだしね」
「それでだな、ビジネススーツを着る前に、お前さんはタイムエイジマシンに入れ」
「また?」
「いいからいいから」
「またいいからいいから?」
「ところでお前さんの親父さんはいくつだ」
「ええと、四十一」
「なぁるほどなぁ。事故に遭う訳だ」
「どうして?」
「厄年だ」
「厄年?」
「まあいい。それじゃ今からお前さんを四十一歳の姿にする」
「どうして?」
「いいからいいから」
「またいいからいいから?」
それでぼくは、またまたタイムエイジマシンに入った。
目の前の鏡の中には、「お通夜用」に、三十歳にされたぼくが映っていたけれど、どうやら今度は四十一歳にされるらしい。
それで機械がブーンとうなり、赤いランプが光り、ぼくの姿が変わりはじめた。
少し白髪も生え、そしてちょうどお父さんと同じくらいの、おじさんの姿になった。
それからぼくは機械の外へ出て、イカしたグレーに再塗装したばかりの「ビジネススーツ」を着た。(二回も塗装すると少しごわごわだったけれど)
「うん。バッチリ瓜二つだ」
「誰と?」
「お前さんの親父さんにきまっとる」
それから茶トラ先生は実験室のどこかから、どういうわけかラジコン飛行機の送信機を持ってきた。
たとえ茶トラ先生の家にそういう物体があったとしても、ぼくはもはや少しも驚かなくなくなっていた。
茶トラ先生の実験室は、それはもうガラクタであふれかえっている。
そもそもタイムエイジマシンだって、だれが見たって、物好きがどこからか拾ってきた証明写真のガラクタにしか見えないし。
とにかく、ラジコンの送信機の一つや二つ、あってもちっとも不思議ではないのだ。
それで、ともかく茶トラ先生はこれから、ラジコン飛行機の操縦方法をぼくに教えるつもりみたいだった。
何のためかはさておいて…
で、かいつまんで言うと、右側のレバーを前後に動かすと、エンジンがコントロールされる。
手前はアイドル(ブルンブルン)で、奥の方へ押し込むとエンジン全開(キーン!)。
そのレバーを左右に動かすと両方の翼にあるエルロンというものが作用し、飛行機が左右に傾く。
次に左側のレバーを手前に引けば、飛行機は機首を上げ高度を上げる。奥の方へ押せば、機首を下げ高度を下げる。
それからそのレバーを左右に動かすと飛行機は左右に向きを変える………らしい。
なんだかとてもややこしくて、ぼくが困ったような顔をしていると茶トラ先生は、
「ややこしいことはあまり考えず、とにかくエンジン全開で豪快に飛ばせばいい!」と言ってくれたので、ぼくはとても安心した。
それから茶トラ先生は送信機の電源スイッチの入れ方も教えてくれた。
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