タイムエイジマシン

山田みぃ太郎

文字の大きさ
25 / 121

お父さんが帰ってきた

しおりを挟む
 それからいよいよ、お父さんの運命の八月二十三日がやって来た。
 以前、茶トラ先生と一緒にタイムエイジマシンでその日に移動したぼくは、お父さんの替え玉になり、お父さんが操縦するはずだった自動操縦装置付きのラジコン飛行機を、三機とも木端微塵にしていたのだ。
 いやいや、一機は山の向こうへ順調に飛んで行き、多分山の彼方で行方不明だ。
 しかもそれをお父さんが「やった」ということになっている。
 それで、その日の大切な商談はぶち壊しとなる「予定」だったのだ。
 あの時お父さんは「お散歩」を口笛で演奏しながら駐機場へ向かい、二機の残骸を見て、何と思ったのだろう?
 しかも、自分ではやった記憶もないのに、会社の偉い人にこっぴどく怒られたはずだ。
 夕方、お父さんは一体どんな顔をして帰って来るのだろう?
 そんなことを考えていたらさっさと夕方になり、そしてお父さんが帰ってきた。
「お散歩」を口笛で演奏してはいなかった。
 きっとものすごく落ち込んでいるはずだと思ていたら、案の定、
「ああぁ~~~もう~~~最悪だぁ~~~もう~~~カンペキに絶望だぁ~~~~!」
 お父さんは玄関へ入るなり、そう吠えた。
「あらら、今夜は商談成功のお祝いで、街でパーティーじゃなかったのですか?」
 玄関で、お母さんのすっとんきょうな、そしてお父さんの神経を逆なでするような声。
 それからお父さんは、のっしのっしとリビングまで歩き、早速大声でしゃべりはじめた。
 ぼくも大急ぎでお父さんの後を追った。
「どうもこうもな~~い! もう~~~~、三機全滅だ! いやいや、一機は行方不明だ」
「じゃぁパーティーはないの?」
「あたりまえだのクラッカー!」
「何ですかそんな古~いギャグ。じゃぁ、今から買い物に行かなくちゃ。今夜はお茶漬けの予定だったんですよ」
「もういい! 何も食いたくない! もう絶望だぁ!」
 そう言うとお父さんはソファーにごろんと横になり、絶望的な顔をしてムーミンのぬいぐるみを抱き、そのままふて寝を始めた。
 でもぼくは絶望じゃない! 
 作戦成功だ。
 だから例のお通夜は回避された♪
 やった!

 そう思っていたら、暗くなった頃に電話が鳴った。
 お父さんはむくりと起きて電話に出た。
「え? 今からかい? で、残念会? でもおれは今、全然そんな気分じゃないよ…」
 ぼくは速攻で和室へ行き、電話の子機を取った。
 盗み聞きはお父さんに悪いと思ったけれど、「残念会」は聞き捨てならない。
 声の主はどうやらお通夜の時、茶トラ先生が根掘り葉掘り、いろいろと話を聞き出した人だったようだ。
 何だかお父さんとは仲がいい人みたい。
 電話の子機から、お父さんたちの会話が聞こえた。
「しかしお前さん、どうしてあんな無茶苦茶な操縦をしたんだい?」
「それが、全然記憶がないんだ」
「何だって?」
「トイレへ行ってそこでくらくらとめまいがして、そして何者かに後ろから羽交い絞めにされたような感覚が起こり…」
「そんなバカなことあってたまるか。あの時間、トイレにはお前しかいなかったはずだ。スタッフもみんな駐機場にいたんだぞ。お化けにでも羽交い絞めにされたってか?」
「お化け? そんな怖いこと言うな! お化けは怖いからいいよ。で、気が付いたら、おれそっくりの奴が、おれに送信機とサングラスを手渡して、それから駐機場へ行けと言ったんだ。で、行ってみたら、あのありさまさ」
「お前そっくりの奴? じゃ、お前自身がお前自身を羽交い絞めにってか? そんなバカなことがあってたまるか!」
「いや、羽交い絞めじゃなくて、おれそっくりのやつがおれに送信機を渡したんだ。本当なんだ!」
「わけのわからんことを! お前、頭がイカれたのか。そうだ! そいつはひょっとして、いわゆるドッペルゲンガー現象じゃないのか?」
「ドッペルゲンガー現象?」
「そうだ。ある日突然自分そっくりの奴が見えて、それは死の前触れなんだ!」
「何だって? おまえまた怖いこというな!」
「いやいや、実はおれも良く知らない」
「何だ、いいかげんだな」
「まあいい。すんだことは仕方がない。そんなことはトイレの水にでも流せ。で、とにかく今夜は残念会をやろうぜ! 新しい計画の作戦会議でもいい。とにかく前向きに考えな。それに開発のスタッフもいっぱい来るぞ!」
「いっぱい来るのか。そうかぁ。どうしよっかなぁ…」
「来いよ!」
「う~ん…」
「とにかくお前さんが来んと話にならん。一番街のイカ天という中華料理屋で、八時半集合だ」
「そうかぁ。それじゃ、みんなが来るというのなら…」
「来いったら来いよ!」
「じゃ、行こうっかな~」
「そうしなよ。絶望的な顔をしてムーミンのぬいぐるみを抱いてふて寝は体に良くないぞ」
「よくおれの行動が分かったな」
「ずぼしだろう。いつものことじゃないか。いつだったか、ジェット機をテスト飛行で落としたときもそうだっただろう。あんときはすごい迫力だったよな。まあいい。ともあれこういうときは、パ~っと飲んで…」
「ははは。それもそうだな。ラジコン飛行機に墜落は付き物ってか。じゃあ…」
「よし、決まりだ。それで二次会はカラオケのオーラムあたりはどうだ?」
「悪くないね。わかったよ。一次会はイカ天で、八時半だな。了解!」
 ガチャン。
 え~、残念会だなんて、冗談じゃないよ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

処理中です...