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25年後の医学3
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妹がそういうと、茶トラ先生はさっそく、例の洗いざらいの資料からCTやMRIの画像や、病理標本のレポートや、医局花見用のアイスボックスの中の切除標本や、とにかく洗いざらいの資料を取り出し、とても詳しい説明を始めた。
話がものすごく専門的で、さすが茶トラ先生は「お医者さん」だとぼくはあらためて感心した。
そして、茶トラ先生の話を聞きつけ、何人かの若いお医者さんや、実習中の医学生やベテランのお医者さんたちも集まり、「それではカンファレンスルームで」ということになり、さっそくそこで「症例検討会」が始まった。
カンファレンスルームというのは、お医者さんたちが集まっていろんな話し合いをする場所で、会議室のような所だ。
それと「症例検討会」というのは、ある患者さんの病気の診断や治療法などについて、お医者さんたちが集まり、あ~だのこ~だのと知恵を絞り合う会合だ。
そこでまた茶トラ先生が資料を出し、もう一度最初から説明を始めた。
途中、「それにしても、やけに古い資料ですね」と突っ込みが入ったりもしたが(25年前の資料だし)茶トラ先生もめげずに話を続けた。
もちろん症例検討会のテーマは、デビルのお母さんの病状、つまり、とても重い膵臓がんの人を助けることは可能なのか? ということだった。
そのためにたくさんの未来のお医者さんが知恵を絞った。
妹はもちろん、いろんなお医者さんたちもあれこれと意見を出し合い、延々と話し合ったんだ。
だけど、残念ながらこの時代の医学でさえ、それは難しいだろうというのが、最終的な結論だった。
デビルのお母さんの病状はそれほど重かったんだ。
ただ一人まだ若い、多分医学生という感じの人が、その資料にとても関心を持ち、出来るなら切除標本の入ったアイスボックスまで、とにかく洗いざらいの資料が欲しいと言い出した。
だけど茶トラ先生が「これはとても大切な資料なので簡単には渡せない!」というと、その人は「てめえ渡せねえのかこのやろう!」と、めちゃくちゃ怒り出し、そして「渡さないとてめえ絞め殺すぞ!」とわめき、そして茶トラ先生としばらく押し問答になったけれど、妹が「それじゃ、これは私が預かるってことでいいでしょ」と助け船を出し、それに茶トラ先生もしぶしぶ同意して、結局彼らに洗いざらいの資料を渡すことになった。
それからぼくらは肩を落とし、病院の待合室まで戻った。
妹も見送りについてきてくれた。
「わしは期待しておったのだが、二十五年後でさえも、医学はそこまで進歩していないということか…」
茶トラ先生は落胆した様子だったが、だけど妹はこんなことを言った。
「私たちがあの資料を預かるから、きっと治療法を開発するわ。実は、あの資料を欲しがっていたのは田中君と言って、すごく賢い人なの。きっと将来は私たちのホープになると思うの」
「そうなんだ」
「そうだ! こういうのはどうかしら。あと二十五年後のこの日のこの時間に、私たち、もう一度ここに集まるの。またタイムエイジマシンで来ればいいわ。そしてその頃なら、きっと治療法も見付かっているはずでしょ」
「なるほどそれはいい考えだ」
「そうだよ。そうしようよ!」
そういうふうに3人で約束して、それからぼくらは歩いて(テクシーで)古ぼけた茶トラ先生の二十五年後の家へ戻った。
もう夕方近かった。
それから茶トラ先生は、とても名残惜しそうに家のあちこちを見回ったけれど、そこはどう見ても「廃墟」という感じで、誰かが住んでいるという気配は全くなかった。
「やっぱりわしはおらん。多分もう死んでおるのだ。何たってわしはこの時代、九十歳だからなあ」
「そんなに弱気にならないでよ。きっとどこかの有料老人ホームなんかにいるんだって。なんならその辺探をしてみようか?」
「それでいなければ、わしはさらに絶望するだけだからやめておこう。とにかく亜里沙ちゃんの提案どおり、さっそくあと二十五年後つまり、五十年後の未来へ行こう」
「でも、おなか減らない? テクシーで帰って来たし、ここには何も食べ物はないし」
「あるのはネズミの死体くらいだな。それならなおさら早く五十年後へ行こう。その時代、わしは百十五歳だ。それならきっぱりとあきらめがつく」
「何をあきらめるの?」
「まあいい。腹減っただろう」
「分かった。五十年後の未来の妹の医局で、出前の中華どんぶりでもおごってもらうんだろう? だけどお金がないのなら、そこまでまたテクシーだよ。思い切り腹減るよ」
「それもそうだな。それに、中華どんぶりなんかをおごってもらうのも亜里沙ちゃんに気の毒だ。やはり一度帰るとするか」
それでぼくらはタイムエイジマシンで一度、元の時代へ戻った。
戻ってみるとそこはいつもの茶トラ先生の実験室で、ぼくらは一安心した。
すでに夕方だったので、ぼくは家へ帰り風呂に入り晩御飯を食べ(ちょっとだけ勉強して)、それから寝た。
次の日、学校でデビルに会ったとき、お母さんの容体をきいてみたたけれど、残念ながら一日一日悪くなっているようだった。
早く薬を開発しなければ…
話がものすごく専門的で、さすが茶トラ先生は「お医者さん」だとぼくはあらためて感心した。
そして、茶トラ先生の話を聞きつけ、何人かの若いお医者さんや、実習中の医学生やベテランのお医者さんたちも集まり、「それではカンファレンスルームで」ということになり、さっそくそこで「症例検討会」が始まった。
カンファレンスルームというのは、お医者さんたちが集まっていろんな話し合いをする場所で、会議室のような所だ。
それと「症例検討会」というのは、ある患者さんの病気の診断や治療法などについて、お医者さんたちが集まり、あ~だのこ~だのと知恵を絞り合う会合だ。
そこでまた茶トラ先生が資料を出し、もう一度最初から説明を始めた。
途中、「それにしても、やけに古い資料ですね」と突っ込みが入ったりもしたが(25年前の資料だし)茶トラ先生もめげずに話を続けた。
もちろん症例検討会のテーマは、デビルのお母さんの病状、つまり、とても重い膵臓がんの人を助けることは可能なのか? ということだった。
そのためにたくさんの未来のお医者さんが知恵を絞った。
妹はもちろん、いろんなお医者さんたちもあれこれと意見を出し合い、延々と話し合ったんだ。
だけど、残念ながらこの時代の医学でさえ、それは難しいだろうというのが、最終的な結論だった。
デビルのお母さんの病状はそれほど重かったんだ。
ただ一人まだ若い、多分医学生という感じの人が、その資料にとても関心を持ち、出来るなら切除標本の入ったアイスボックスまで、とにかく洗いざらいの資料が欲しいと言い出した。
だけど茶トラ先生が「これはとても大切な資料なので簡単には渡せない!」というと、その人は「てめえ渡せねえのかこのやろう!」と、めちゃくちゃ怒り出し、そして「渡さないとてめえ絞め殺すぞ!」とわめき、そして茶トラ先生としばらく押し問答になったけれど、妹が「それじゃ、これは私が預かるってことでいいでしょ」と助け船を出し、それに茶トラ先生もしぶしぶ同意して、結局彼らに洗いざらいの資料を渡すことになった。
それからぼくらは肩を落とし、病院の待合室まで戻った。
妹も見送りについてきてくれた。
「わしは期待しておったのだが、二十五年後でさえも、医学はそこまで進歩していないということか…」
茶トラ先生は落胆した様子だったが、だけど妹はこんなことを言った。
「私たちがあの資料を預かるから、きっと治療法を開発するわ。実は、あの資料を欲しがっていたのは田中君と言って、すごく賢い人なの。きっと将来は私たちのホープになると思うの」
「そうなんだ」
「そうだ! こういうのはどうかしら。あと二十五年後のこの日のこの時間に、私たち、もう一度ここに集まるの。またタイムエイジマシンで来ればいいわ。そしてその頃なら、きっと治療法も見付かっているはずでしょ」
「なるほどそれはいい考えだ」
「そうだよ。そうしようよ!」
そういうふうに3人で約束して、それからぼくらは歩いて(テクシーで)古ぼけた茶トラ先生の二十五年後の家へ戻った。
もう夕方近かった。
それから茶トラ先生は、とても名残惜しそうに家のあちこちを見回ったけれど、そこはどう見ても「廃墟」という感じで、誰かが住んでいるという気配は全くなかった。
「やっぱりわしはおらん。多分もう死んでおるのだ。何たってわしはこの時代、九十歳だからなあ」
「そんなに弱気にならないでよ。きっとどこかの有料老人ホームなんかにいるんだって。なんならその辺探をしてみようか?」
「それでいなければ、わしはさらに絶望するだけだからやめておこう。とにかく亜里沙ちゃんの提案どおり、さっそくあと二十五年後つまり、五十年後の未来へ行こう」
「でも、おなか減らない? テクシーで帰って来たし、ここには何も食べ物はないし」
「あるのはネズミの死体くらいだな。それならなおさら早く五十年後へ行こう。その時代、わしは百十五歳だ。それならきっぱりとあきらめがつく」
「何をあきらめるの?」
「まあいい。腹減っただろう」
「分かった。五十年後の未来の妹の医局で、出前の中華どんぶりでもおごってもらうんだろう? だけどお金がないのなら、そこまでまたテクシーだよ。思い切り腹減るよ」
「それもそうだな。それに、中華どんぶりなんかをおごってもらうのも亜里沙ちゃんに気の毒だ。やはり一度帰るとするか」
それでぼくらはタイムエイジマシンで一度、元の時代へ戻った。
戻ってみるとそこはいつもの茶トラ先生の実験室で、ぼくらは一安心した。
すでに夕方だったので、ぼくは家へ帰り風呂に入り晩御飯を食べ(ちょっとだけ勉強して)、それから寝た。
次の日、学校でデビルに会ったとき、お母さんの容体をきいてみたたけれど、残念ながら一日一日悪くなっているようだった。
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