65 / 121
そして…
しおりを挟む
それからしばらくして、ぼくとデビルは茶トラ先生の話を聞きに行った。
茶トラ先生は例の「茶虎医院」の開業準備に忙しそうだったけれど、仕事の手を休めて話をしてくれた。
「わしが『茶虎医院』などというものを開こうと考えたのは、あれから6カ月後の未来に、ゆりちゃんがわしの所へ検査に来るという想定だったからだが、すでにメーデルハーデル先生の病院で治療を受けておるから、本来ならもはやわしは医院など開く必要もなくなった。しかし因果関係上こうした方がよかろうと思っておるんだ。まあ、あのときから見た未来は、すでにかなり書き換えられてはおるが」
「そうなんだ。だけどちょっとややこしいね、その話。で、ゆりちゃんの容体はどうなの?」
「メーデルハーデル先生の話では、幸い病気の発見が奇跡的なほど早かったので、メーデルハーデル先生も完治、すなわち病気が完全に治るという手応えを持って、治療をやっておられるそうだ」
「そりゃよかった。よかったよね、田中君!」
「じゃぁ、やっぱりおれのカンが役に立ったのかな?」
「そりゃそうだよ!」
「あ~、ゆりちゃんの病気については、田中君のそのカンが大変役に立ったといえるな。メーデルハーデル先生も『奇跡的』と言うほどの、早い時期だったわけだから」
「そうなんだ。ところでおれ、白血病のこと、あれからネットなんかでいろいろ調べたんだ。そしたら骨髄移植っていう治療法があるんだな」
「田中君、それはよく調べたな。今は骨髄移植と同様の治療法で末梢血幹細胞移植とか臍帯血移植と、類似したいろいろな治療方法があって、だから万一、ゆりちゃんの病気が再発したとしても、そういう方法も残されているんだ」
「それってHLAっていう、白血球ってやつの型が合う必要があるんだよな」
「田中君、それもまた、よく調べたな」
「へへへ。だって、ゆりちゃんのことなんだぜ! それで、これはまたしてもおれのカンなんだけど、おれのHLAは、ゆりちゃんのHLAとぴったしのような気がするんだ」
「もしかして、そのカンも当たるかもね!」
「それじゃもしもそういう事態にでもなれば、田中君のHLAを調べるとしよう。そうしてみんなで力を合わせて、何が何でも、ゆりちゃんを救おうではないか!」
「それにいざとなれば、五十年後の未来へ行って、あの田中浩二先生から、未来の画期的な薬でももらってくるって手もあるしね」
それからまたしばらくして、ゆりちゃんは無事退院し、元通り元気に学校へ通えるようになった。
それで、ゆりちゃんが久しぶりに学校へ来たその日、なぜかデビルは突然勇気を出し、ゆりちゃんに謝るとか言い出したんだ。
それはあの運動会の時の、「マイムマイム事件」のことだ。
それで、デビルが恐々とゆりちゃんのところへ行き、ゆりちゃんにしどろもどろに、「あの…、あの…」と言っていたら、ゆりちゃんは笑いながら、デビルにこんなことを言った。
「田中君、ほんとうにありがとう。話はみんな茶トラ先生とイチロウ君から聞いたよ。それで、私の病気に最初に気付いてくれたのは、田中君だったのでしょう? それで私は、奇跡的なくらい早い段階で治療が受けられたそうだし。それからね。運動会の時は、本当は大地震が起こっていて、それをくい止めるために、タイムエイジマシンを使って、茶トラ先生や田中君やイチロウ君が奮闘していたんだっていう話も聞いたんだよ。それで、マイムマイムのとき、突然、田中君が私の前に現れてしまったのは、実は、タイムエイジマシンが誤作動をしてしまって、それで突然田中君が私の目の前に空間移動してしまったんだって、イチロウ君が話していたよ。それなのに私、田中君にあんなひどいこと…、痛かったでしょう。だから、あのときはほんとうにごめんなさい…」
ゆりちゃんのその話を聞いて、とくにその「タイムエイジマシンの誤作動でデビルが空間移動…」という、ぼくの脳内のお花畑で勝手に考え出して、それをぼくがゆりちゃんの脳内に吹き込んだ、そのでたらめな作り話を聞いたとき、デビルはあの「マイムマイム事件」のときみたいに、一瞬にして固まって、だけそれからすぐに元にもどって、そしてぼくの方を見たんだ。
それでぼくは、デビルに目配せした。
そしたらデビルは、
「ああ、そそそそ、そうなんだ! あのときは本当に驚いちゃったよな。へへ。だけどゆりちゃんを驚かせて本当にごめんよ。それに、ゆりちゃんに叩かれたのだって、おれにとっちゃぁ、蚊にさされた程度ってもんよ。ぜんっぜん平気だぜ! それで…、ええと、ええと、ゆりちゃん! おれ、えっと、おれ、ゆりちゃんを…、ああ、えっと、えっとゆりちゃん! おれ、ずっとゆりちゃんのことを…、ええと、ええと、これからもずっと…、ずっと、おれと、仲良しでいてくれるよね!」
ゆりちゃんの病気 完
次回から新しいエピソードへ
茶トラ先生は例の「茶虎医院」の開業準備に忙しそうだったけれど、仕事の手を休めて話をしてくれた。
「わしが『茶虎医院』などというものを開こうと考えたのは、あれから6カ月後の未来に、ゆりちゃんがわしの所へ検査に来るという想定だったからだが、すでにメーデルハーデル先生の病院で治療を受けておるから、本来ならもはやわしは医院など開く必要もなくなった。しかし因果関係上こうした方がよかろうと思っておるんだ。まあ、あのときから見た未来は、すでにかなり書き換えられてはおるが」
「そうなんだ。だけどちょっとややこしいね、その話。で、ゆりちゃんの容体はどうなの?」
「メーデルハーデル先生の話では、幸い病気の発見が奇跡的なほど早かったので、メーデルハーデル先生も完治、すなわち病気が完全に治るという手応えを持って、治療をやっておられるそうだ」
「そりゃよかった。よかったよね、田中君!」
「じゃぁ、やっぱりおれのカンが役に立ったのかな?」
「そりゃそうだよ!」
「あ~、ゆりちゃんの病気については、田中君のそのカンが大変役に立ったといえるな。メーデルハーデル先生も『奇跡的』と言うほどの、早い時期だったわけだから」
「そうなんだ。ところでおれ、白血病のこと、あれからネットなんかでいろいろ調べたんだ。そしたら骨髄移植っていう治療法があるんだな」
「田中君、それはよく調べたな。今は骨髄移植と同様の治療法で末梢血幹細胞移植とか臍帯血移植と、類似したいろいろな治療方法があって、だから万一、ゆりちゃんの病気が再発したとしても、そういう方法も残されているんだ」
「それってHLAっていう、白血球ってやつの型が合う必要があるんだよな」
「田中君、それもまた、よく調べたな」
「へへへ。だって、ゆりちゃんのことなんだぜ! それで、これはまたしてもおれのカンなんだけど、おれのHLAは、ゆりちゃんのHLAとぴったしのような気がするんだ」
「もしかして、そのカンも当たるかもね!」
「それじゃもしもそういう事態にでもなれば、田中君のHLAを調べるとしよう。そうしてみんなで力を合わせて、何が何でも、ゆりちゃんを救おうではないか!」
「それにいざとなれば、五十年後の未来へ行って、あの田中浩二先生から、未来の画期的な薬でももらってくるって手もあるしね」
それからまたしばらくして、ゆりちゃんは無事退院し、元通り元気に学校へ通えるようになった。
それで、ゆりちゃんが久しぶりに学校へ来たその日、なぜかデビルは突然勇気を出し、ゆりちゃんに謝るとか言い出したんだ。
それはあの運動会の時の、「マイムマイム事件」のことだ。
それで、デビルが恐々とゆりちゃんのところへ行き、ゆりちゃんにしどろもどろに、「あの…、あの…」と言っていたら、ゆりちゃんは笑いながら、デビルにこんなことを言った。
「田中君、ほんとうにありがとう。話はみんな茶トラ先生とイチロウ君から聞いたよ。それで、私の病気に最初に気付いてくれたのは、田中君だったのでしょう? それで私は、奇跡的なくらい早い段階で治療が受けられたそうだし。それからね。運動会の時は、本当は大地震が起こっていて、それをくい止めるために、タイムエイジマシンを使って、茶トラ先生や田中君やイチロウ君が奮闘していたんだっていう話も聞いたんだよ。それで、マイムマイムのとき、突然、田中君が私の前に現れてしまったのは、実は、タイムエイジマシンが誤作動をしてしまって、それで突然田中君が私の目の前に空間移動してしまったんだって、イチロウ君が話していたよ。それなのに私、田中君にあんなひどいこと…、痛かったでしょう。だから、あのときはほんとうにごめんなさい…」
ゆりちゃんのその話を聞いて、とくにその「タイムエイジマシンの誤作動でデビルが空間移動…」という、ぼくの脳内のお花畑で勝手に考え出して、それをぼくがゆりちゃんの脳内に吹き込んだ、そのでたらめな作り話を聞いたとき、デビルはあの「マイムマイム事件」のときみたいに、一瞬にして固まって、だけそれからすぐに元にもどって、そしてぼくの方を見たんだ。
それでぼくは、デビルに目配せした。
そしたらデビルは、
「ああ、そそそそ、そうなんだ! あのときは本当に驚いちゃったよな。へへ。だけどゆりちゃんを驚かせて本当にごめんよ。それに、ゆりちゃんに叩かれたのだって、おれにとっちゃぁ、蚊にさされた程度ってもんよ。ぜんっぜん平気だぜ! それで…、ええと、ええと、ゆりちゃん! おれ、えっと、おれ、ゆりちゃんを…、ああ、えっと、えっとゆりちゃん! おれ、ずっとゆりちゃんのことを…、ええと、ええと、これからもずっと…、ずっと、おれと、仲良しでいてくれるよね!」
ゆりちゃんの病気 完
次回から新しいエピソードへ
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる