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また小惑星が!
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コツコツコツ
ぼくが茶トラ先生のところでうだうだ無駄話をしていると、実験室のドアがこつこつと音を立てた。
つまり誰かがノックしたってこと。
ぼくもデビルもノックなんかしない。
いきなりばぁ~~んとドアをあけて「やぁ!」とか「こんちは!」とか言って豪快に入ってくる。
あるいは未来の妹みたいに、タイムエイジマシンのカーテンがすっと開き、やっぱり突然やってくる。
だけど「こつこつ」は多分珍しい人だ。
それで茶トラ先生は「おやおや、何かの物売りか、はたまた勧誘か?」とか、ぶつぶつ言いながらドアを開けると、そこに立っていたのはいかにも茶トラ先生と同類! という感じの博士みたいな人。
それから茶トラ先生は、
「おやおや、これはこれはアタゴ先生、お久しぶり」と言った。
どうやらアタゴ先生とは、やっぱり茶トラ先生が付けた「でたらめな名前」らしく、本当の名前はきっと知らないのだろう。
それはともかく、後から茶トラ先生が言うには、そのアタゴ先生は茶トラ先生並みの、いやいや、へたをするとそれ以上の天才物理学者兼お医者さんらしい。
それから、茶トラ先生がごろごろと引きずってきた椅子のような物体に座り、ビーカー入りのコーヒーを出されたアタゴ先生は、話し始めた。
「実はこれから約1000年後のことなのですが、直径100メートルの小惑星が北ドイツに落下します」
「何ですと?」
「そしてもちろん甚大な被害が及びます」
「しかし1000年後であれば、危険な小惑星を捜査する、スペースガードなどの組織も万全じゃないのですか?」
「いやいや、案外そうでもないのです。残念ながら人類は、1000年後もしっかり戦争や紛争をやっており、各国政府の文系の連中もそういうばかなことに夢中で、我々のやっているような、科学や天文学の研究はすっかりお留守になっているようなのです」
「科学や天文学がお留守なの? それは問題だね。最悪だね。人類って情けないね!」
「そうだそうだ。イチロウの言うとおりだ!」
「まあそういう訳で、私は茶トラ先生にご相談に伺った訳ですよ」
「つまりわしの持っている『飛び道具』で何とかしろと?」
「ええと、はっきり言って、そうです(キリッ)」
「それじゃ以前、小惑星の軌道を変えたときみたいにスワンボートでその小惑星を押せば?」
「いやいや、あのときの小惑星はたかだか直径15メートル程だった。だが今回は直径100メートルだ。するとその体積は概算で、あ~、100万立法メートルだ。そして比重が5だとすれば質量は約500万トンにも及ぶ。スワンボートを怪力でこいでどうこう出来る代物ではない」
「じゃ、どうするの?」
「考え方は二つある」
「二つ?」
「物凄い力で押すか、そこそこの力で物凄く長い時間押し続けるかだな」
「で?」
「つまり数万トンの力で一気に押すか、あるいは数トンとかそこらの力で、数十年とか数百年押し続けるかだな」
するとアタゴ先生が速攻でポケットから電卓を出して概算を始め、程なく、
「500万トンの物体を1トンの力で100年押し続けると、概ね6キロメートル毎秒の速度が得られる」
で、その計算はこんな感じ
つまり500万トンの物体を1トンの力で押したときに得られる加速度は
1÷500万×9.8(重力加速度)=0.00000196m毎秒毎秒
これは物凄く小さな加速度だけど、この加速度で100年押し続けたときに得られる速度は、
0.00000196×86400(一日の秒数)×365日×100年=6181.056m毎秒
つまり1秒間に6キロメートルという物凄い速度になる。
「そうですか。1トンの力で100年押せば人工衛星速度のオーダーの速度が得られるわけですな」
「ねえ、人工衛星速度って毎秒8キロメートルだよね。ぼくらがスワンボートで出した速度だよね」
「それくらいの速度を与えられるなら、小惑星の軌道を大幅に変えることは可能だな」
そういうわけで、茶トラ先生とアタゴ先生の相談で、1トンの力で100年押し続けられる機械、というかエンジンを作ることになったみたい。
気の早い茶トラ先生はこれの名を「宇宙トラクタ」と名付けた。
ぼくが茶トラ先生のところでうだうだ無駄話をしていると、実験室のドアがこつこつと音を立てた。
つまり誰かがノックしたってこと。
ぼくもデビルもノックなんかしない。
いきなりばぁ~~んとドアをあけて「やぁ!」とか「こんちは!」とか言って豪快に入ってくる。
あるいは未来の妹みたいに、タイムエイジマシンのカーテンがすっと開き、やっぱり突然やってくる。
だけど「こつこつ」は多分珍しい人だ。
それで茶トラ先生は「おやおや、何かの物売りか、はたまた勧誘か?」とか、ぶつぶつ言いながらドアを開けると、そこに立っていたのはいかにも茶トラ先生と同類! という感じの博士みたいな人。
それから茶トラ先生は、
「おやおや、これはこれはアタゴ先生、お久しぶり」と言った。
どうやらアタゴ先生とは、やっぱり茶トラ先生が付けた「でたらめな名前」らしく、本当の名前はきっと知らないのだろう。
それはともかく、後から茶トラ先生が言うには、そのアタゴ先生は茶トラ先生並みの、いやいや、へたをするとそれ以上の天才物理学者兼お医者さんらしい。
それから、茶トラ先生がごろごろと引きずってきた椅子のような物体に座り、ビーカー入りのコーヒーを出されたアタゴ先生は、話し始めた。
「実はこれから約1000年後のことなのですが、直径100メートルの小惑星が北ドイツに落下します」
「何ですと?」
「そしてもちろん甚大な被害が及びます」
「しかし1000年後であれば、危険な小惑星を捜査する、スペースガードなどの組織も万全じゃないのですか?」
「いやいや、案外そうでもないのです。残念ながら人類は、1000年後もしっかり戦争や紛争をやっており、各国政府の文系の連中もそういうばかなことに夢中で、我々のやっているような、科学や天文学の研究はすっかりお留守になっているようなのです」
「科学や天文学がお留守なの? それは問題だね。最悪だね。人類って情けないね!」
「そうだそうだ。イチロウの言うとおりだ!」
「まあそういう訳で、私は茶トラ先生にご相談に伺った訳ですよ」
「つまりわしの持っている『飛び道具』で何とかしろと?」
「ええと、はっきり言って、そうです(キリッ)」
「それじゃ以前、小惑星の軌道を変えたときみたいにスワンボートでその小惑星を押せば?」
「いやいや、あのときの小惑星はたかだか直径15メートル程だった。だが今回は直径100メートルだ。するとその体積は概算で、あ~、100万立法メートルだ。そして比重が5だとすれば質量は約500万トンにも及ぶ。スワンボートを怪力でこいでどうこう出来る代物ではない」
「じゃ、どうするの?」
「考え方は二つある」
「二つ?」
「物凄い力で押すか、そこそこの力で物凄く長い時間押し続けるかだな」
「で?」
「つまり数万トンの力で一気に押すか、あるいは数トンとかそこらの力で、数十年とか数百年押し続けるかだな」
するとアタゴ先生が速攻でポケットから電卓を出して概算を始め、程なく、
「500万トンの物体を1トンの力で100年押し続けると、概ね6キロメートル毎秒の速度が得られる」
で、その計算はこんな感じ
つまり500万トンの物体を1トンの力で押したときに得られる加速度は
1÷500万×9.8(重力加速度)=0.00000196m毎秒毎秒
これは物凄く小さな加速度だけど、この加速度で100年押し続けたときに得られる速度は、
0.00000196×86400(一日の秒数)×365日×100年=6181.056m毎秒
つまり1秒間に6キロメートルという物凄い速度になる。
「そうですか。1トンの力で100年押せば人工衛星速度のオーダーの速度が得られるわけですな」
「ねえ、人工衛星速度って毎秒8キロメートルだよね。ぼくらがスワンボートで出した速度だよね」
「それくらいの速度を与えられるなら、小惑星の軌道を大幅に変えることは可能だな」
そういうわけで、茶トラ先生とアタゴ先生の相談で、1トンの力で100年押し続けられる機械、というかエンジンを作ることになったみたい。
気の早い茶トラ先生はこれの名を「宇宙トラクタ」と名付けた。
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